関HCで松田ベレーザは何が変わった?

3勝1敗3分の4位。

今季より指揮を取る松田岳夫監督の下、新たなスタートを切ったベレーザはリーグ前期7試合を終え4位に低迷していた。
負け試合こそ1試合のみであるものの、引き分けの3試合は勝ち点6を逃したことを意味し、一敗分の勝ち点を合わせた計9点の損失は3敗に等しく、”3強”で優勝を争うWEリーグにおいてはタイトルレースから引き離される厳しい結果を意味していた。

低迷するベレーザは、前期日程終了後の中断期に下部リーグにあたるなでしこリーグから得点王 神谷千菜MVP鈴木陽の2人のストライカーが加入。
さらに1月13日にはコンサドーレ札幌で現役引退後、同ユースチームで指導者としてのキャリアをスタートさせ、直近ではレノファ山口のコーチを務めた関浩二氏のヘッドコーチ就任が発表された。

ウィンターブレイクが終わりWEリーグが再開して2試合を終えた現在、早速ベレーザに変化の兆しが現れ始めている。


前期のベレーザは何が失敗したのか?

後期の変化を知るためには、まずリーグ前期のベレーザの特徴を知る必要がある。

前期のベレーザはポゼッション時、非ポゼッション時のいずれも4−4−2のフォーメーションを採用。

第4節 マイナビ仙台レディース戦(A)

現代サッカーではピッチを縦5つに分割し、ポゼッション時には高い位置でその5つのレーンを埋めることを目指すチームが多いが、前期のベレーザはフルバックが前線の4枚に加わることでその形を目指すことが多く見られた。

第4節 マイナビ仙台レディース戦(A)

また守備面では、CBがボールのあるサイドに圧縮、または6番の選手がカバーに入るのが遅れることが多く

第4節 マイナビ仙台レディース戦(A)

相手のサイドからの攻撃に対してはフルバックが1v1で確実に止めることが求められる状況が多く見られた。

攻守にフルバックの選手が非常に大きな責任を担っていると言えるこの形は、ゲームマネジメントの稚拙さによりさらに悪化することとなる。

第7節INAC神戸戦では相手が最終ラインでボールを持ったときに前線の2枚は激しくプレスに行くでもなくブロックを形成するためにリトリートするでもなく中途半端な立ち位置にいる間に

第7節 INAC神戸レオネッサ戦(H)
第7節 INAC神戸レオネッサ戦(H)

中盤より後ろはすでにブロックを形成。

試合後インタビューで藤野あおばは次のように語ったように

ーー相手DFのボールを奪いに行くことに苦労した印象ですが、チームとしてどのような守備を狙っていましたか。
試合に入る前には2トップで追うか、自分とサイドハーフの3枚で追って(相手の)アンカーに(菅野)奏音さんががっちり守備をするという選択肢がありました。(中略)本来ならベレーザならではの積極的な守備をやりたかったのですが、(中略)2枚で追うとアンカーもいて守備のかけ方が定まらなかったです。

https://www.verdy.co.jp/beleza/match/info/12024010801/report

前でフィルターが掛からず後ろに人数も十分にいない状況が作られた。

また、攻撃時にはディフェンスラインからロングボールを多用。攻撃時に必要な幅を取る役割を持ったフルバックの選手が上がりきる前に前線へボールを蹴り込むことになり、

第6節 サンフレッチェ広島レジーナ戦(A)

前線ではチームとして優位性を作らないまま個人技に頼る場面が多く見られた。

新たな可変システム

では、中断期間後のベレーザは一体何が変わったのだろうか?

最もわかりやすいのは非ポゼッション時の最終ラインの人数である。

中央にCB3枚が並び、ウィングバックの位置には岩﨑心南、菅野奏音といったこれまで中盤中央を主戦場としてきた選手を配置した5バックで守備をする形に変更されている。

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

前期は相手のワイドの攻撃に対しフルバック1枚が守る形になり最終ラインに大きな穴をあけていたが、対照的に新しい5バックのシステムではウィングバックがボールホルダーにチャレンジ、中央3枚のCBがスライドしてカバーに入ることで強固な守備ラインを形成している。

この新システムで注目すべきはポゼッション時の5バックの動きである。

ウィングバックに中盤中央で活躍する選手を配置していることからもわかるように、ポゼッション時はそのポゼッションが開始した時の中央CB村松智子の立ち位置に応じて片方のウィングバックが6番の位置を取り、

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)
第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

非ポゼッション時シングルピヴォットとして中盤に居る木下とダブルピヴォットを形成し後ろは4バックの形に変化する。

また、このサイドの人の配置の変化は前線のワイドの選手も加わり、意図した配置へ選手たちがローテーションをしながら埋めることで

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

前期に課題となっていた「敵陣で幅を取るの役割をフルバックに任せているが縦にロングボールで急いだ結果位置的な優位を持つ選手がいない」という状況を解消し、ボール奪取後スムーズにシステムを可変させている。

これにより素早くボールのあるサイドにオーバーロードを作ることが可能となった。その効果が顕著に表れたのは第9節アルビレックス新潟レディースとの一戦での47分、神谷が潰れてボールをキープするとそのスペースに木下が、木下が空けたスペースに宮川が入り右サイドをオーバーロード。

第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)

ゴール前中央からアイソレートされた北村へ宮川が繋ぐと

第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)

北村はゴールキーパーと1v1になりシュート。大きなチャンスを作った。

第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)

今季これまで綺麗に崩す”ベレーザらしい”攻撃が中々見られなかったが、今後このようなチャンスが増えていくことに期待したい。

依然として残る課題

新しいシステムを採用したベレーザだが、依然として課題も多い。

ポゼッション時と非ポゼッション時に陣形が大きく変わるチームは当然ながらその切替(トランジション)にリスクが存在する。

新潟戦では61分、敵陣深くでボールを失うと一気に攻め込まれ、中に絞っていた左ウィングバック菅野のタックルでボールを奪取しきれず、中央CB村松のインターセプトも失敗に終わると

第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)

広大なスペースを右CB坂部が一人でカバーすることとなり

第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)

ディフェンスラインのズレに上手く侵入した新潟FW川澄に頭で決められ失点を喫した。

第8節ノジマ戦ではポゼッション時中盤のダブルピヴォットが上がりすぎておりレストディフェンスが形成されておらず、最終ラインが簡単に相手のカウンターの脅威に晒された。

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

現在の戦い方では相手の素早いカウンターアタックには右CB坂部、左CB池上の若いDF二人の個に任せる場面が多く大きなリスクとなっている。

また、この可変システムによる最終ラインの変形の肝は深い位置からのビルドアップにあるが、後期ここまでの2試合では前でのワンプレーに優位を作るようなビルドアップが出来ていない。それらに共通するのは3人目の動きの欠如である。

第8節ノジマ戦56分には最終ラインの村松から前線から下りてきた藤野へパスが通る。
この時すぐ横には木下がフリーで待っているため、藤野が”3人目”として素早くレイオフし繋いでいれば大きなチャンスとなっていたが、

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

実際には藤野は一旦ボールを足元に収め次の動きを探そうとしたため相手に素早く囲まれ、

第8節 ノジマステラ神奈川相模原(A)

ボールを前進させることが出来ず最終ラインまで戻すこととなった。このような場面は新潟戦でも多く見られた。

第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)
第9節 アルビレックス新潟レディース戦(A)

この3人目の動きの欠如で特に問題なのは、出しどころがなくなった時にそのままボールを返す動きが相手のプレスを誘発している点である。

ノジマ戦9分の場面ではウィングバックの位置から中に絞った菅野が坂部からのボールを受けるが、相手のプレスに出しどころを失いそのまま坂部に返す。

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)
第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

しかし、この坂部へリターンしたボールは相手のプレスの矢印の同一線上にあるため、坂部もすぐにプレスを受け、

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

さらにその坂部もまたしても相手のプレスの矢印の同一線上にいるGK野田へバックパスしてしまう。

第8節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A)

その結果、GK野田もすぐにプレスを受けることとなり、あわやの危険なシーンとなってしまった。

ここから始まる成長物語

このような課題はどれも「保持・非保持のデザインを最大化するための切替時のリスクマネジメント」や「前後・左右に1列ずつずらす斜めへの短いパスで繋ぐ」と言った基本的な部分で解決しうる課題である。

前期の試合のように、チームとしてどのように各局面に優位を連続させていくかが全く見えないサッカーとは違い、これからチームとして成長していく基盤は出来上がりつつあるのではないだろうか。

日程の都合上1月に中断期があり前期・後期と分かれているが、後期日程にはまだリーグ戦全体の半分にあたる10試合以上が残っている。

ここからの巻き返しが、まずは今週末(3月16日)に後期初のホームゲームとなるセレッソ大阪ヤンマーレディース戦から始まることを期待し、ぜひ皆さんにもスタジアムに足を運んでいただきたい。

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