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光るかばんと意思持つ機械   第6話

テレシアースA.I.研究所

通路を駆ける拓也が、
喫煙室でタバコを吸ってるタカシを見つけ目が合う。
「おい、タカシ 瑞希は?」
「お!拓也 ああ、奥様か?なんやかんや言っておまえも気になったか相性占い あいつなら…」
「いいからおまえも一緒に来い」

コクーンカプセルの中で、激しくうなされている瑞希

ドアが勢いよく開く

「あ!瑞希  瑞希大丈夫か?」
コクーンカプセルのロックされた蓋を開き、瑞希を抱え起こす拓也。

「う う〜ん え ここって…」
「瑞希 おい瑞希 大丈夫か?」
「うん大丈夫… た、たくや 私…」
「怪我はないか?」
「うん 今はちょっと頭がボォーッとするくらい」

俺とタカシで、瑞希をコクーンカプセル テーバイから降ろした。

最初、俺たちが部屋に入ると繭は慌てたが、すぐに観念し項垂れた。全ては繭の仕業だった。
「いったい瑞希に何したんだ。」拓也は静かに繭に問うた。
「ごめんなさい。瑞希さんに…いえ奥さんの脳に上書きして拓也さんの記憶を消去しようとしました。繭は感情露わに泣いて許しを乞うた。記憶というのは神経細胞同士のシナプスが結合して作られます。ですので、シナプスの結合を解き離す事ができればその部分の記憶だけを消去出来ると思ったんです。だから奥様にはコクーンカプセルの中で拓也さんの事を思い浮かべて頂きました。脳のその部分だけが活性化されるからです。拓也さんとの事、神経回路が上書きされて拓也さんの事を忘れてくれると思ったんです。でも…ダメでしたね。」

「一体どうしてそんなことを…。」
タカシが呟いたが、ここにいる誰も答えられなかった。

人間の脳はまだブラックボックスである。全て解明されている訳ではない。いくら人工脳が知能を持ったからといって、人間の脳は人工知能を持った脳と同じではない。人体実験は決して行ってはならない。



拓也✖️タカシ

『おい タカシ聞いてくれよ 瑞希のやつ仕事から帰宅してきたかと思ったら 女友達と長電話ばかり、聞いてたらくだらないことばかり ペラペラペラペラと……     うーん、こっちが話そうと思ってたこと、 忘れちゃったよ。電話がようやく終わったかと思ったら飯も食わないで お風呂、その後ビールがぶ飲みしたかと思ったら 顔にパックしてお化けのようにしてた。あん時の表情は読めないから お化けよりも怖いねえ。 
突然『最近私太った?』って言ってきて、すぐに否定しないとそばにいられなくなるほど機嫌悪くなるのは勘弁して欲しいよね。いつも一緒にいるんだから太ったかどうかなんて 逆にわかんねえって。この前なんかDVDの故障を直せなかっただけで「男のくせに」とかいうし、突然出てきたゴキブリを俺が殺せなかったのを自分から追いかけて俺のエロ雑誌で叩いて殺しちゃって また「男のくせに」って言うんだぜ』

「え?また 喧嘩か? おたくらホント飽きないねぇ。なんかあれからあんな豪華な結婚式挙げたくせに?ご祝儀返せや。
やれやれ、俺が結婚しないのは、おまえたち夫婦のお互いの愚痴を俺が毎回聞かされてるからだって分かんないのかねぇ。これだから俺が結婚から遠のいていると言うこと理解してほしいもんだね。
結婚というのは若い時に憧れてするもんだから、結婚人生てのは長いよねぇ。まだまだ続くんだ。この苦労に耐えているからこそ、結婚というのは社会的地位が確立されてみられるのかもしれないね。
でも大丈夫。へっちゃら へっちゃら『愛』があれば乗り切れますってば。
要するに結婚っーものは、若い頃の性欲、年齢少し重ねて世間的信頼 年老いてからはずっと一緒だったという思い出なんだ。
そのおまえさんの不満というのは、これらと引き換えの苦労なんだから。

ん でもまぁ仕方ないなあ~ じゃあひとつだけアドバイス
【男性は尊敬して欲しいだけ】 そして
【女性はかまって欲しいだけ】 なの。
たったそれだけの事を頭に入れて置くだけで
うまくいく事が意外にも多い。
結構男女って案外シンプルだよな。
不倫や嫉妬、姑 旦那の地位 家 子供 そして金、まぁ結婚って問題が多すぎるから離婚も多いんだろうけど、結婚した当初の気持ちは幸せだったんだろ?それ思い出せよ。」

「おい こらタカシなんで独身のおまえが上から目線で長尺で結婚について講釈垂れてんだよ!」

「ははは、実はこの前マッチングAIに結婚について色々と聞いたんだ。あ、そうそう 「ねぇねぇ この服とこの服どっちが良いと思う?」ってよく出かける時に限って女って尋ねてくるよな。イヤリングやピアス、果てはかばんの時もある。もちろん 女性はあらかじめどちらかだと既に決めている。

「ああ あの違う方を指さすと途端に機嫌が悪くなるいつもの奴な 最初から決まってるなら人に聞くなっつーの もし間違った方を指さししようものなら、あんたは本当にセンスがないとか言うし、そのセンスない服はおまえが買ってるんだろって言って揉める 本当嫌だよな」
「ああ それそれ その答え A.l.に聞いちゃいました。」

「え!で、なんだって」

答え 78%の確率で利き手で持っている方が正解なのでそちらを選ぶべし。

論文誌
結婚は、自分自身のことになるとどうしても主観が入ってしまい、分からなくなるものなのだろう。非常に勉強ができ頭の良い大学を卒業したからとて、人類に属する限りこの難問を抱えて生きなければならない。若い頃に結婚に憧れるのは一体何故なんだろう。少し年齢を重ねてみるとあれだけ好きで結婚した割に飽きがくるのは仕方がない事なのだろうか。まるで子供の頃に買ってもらったおもちゃ同様である。「不倫」とは、社会が崩壊するから倫理に反するとしてるだけで、本当はただの生理現象なのではないか?相手が自分より大事と思って結婚したのか、自分の為に結婚したのかで不倫が起きるかどうかは、結婚前におおよそ分かる。お互いの優先順位が自分なのか相手なのかという隠された事実を脳科学者か心理学者にでも調べてもらって見解を伺ってから結婚すれば良いのではないだろうか?そうすれば離婚などの危機もあまり起きないはずである。


数日前

コクーンカプセル テーバイの中の拓也を心配そうに見守る繭
A.I.を操作して14年後をみせていたのも繭だった。事前にA.I.で、拓也さんが奥さんと別れる確率が1番高い年数はあらかじめ調べておいた。通常人間の脳は7年毎にパートナーに飽きるというデータがある。拓也の場合は14年目が1番大きかったに過ぎない。
A.I.の予言は、決してタイムマシンなのではなくて、確率の世界 時間が進むに連れて未来の選択肢が広がる。現実に起こる確率のパーセンテージがかなり減るのでどうなるのかわからないが、繭はその時1番高い確率に掛けたに過ぎない。14年後の世界が1番拓也はパートナーに飽きていて別れているはずである。念の為、2度目からはもう奥さんの姿を見せないようにプログラミングしておいた。次に拓也さんが14年後のバーチャルリアリティに入った時に私が上手にモーションをかければ私達が結ばれる確率が1番高いはずだ。そうすれば現実世界に戻ってもきっと私の事を意識するようになる。よし、そのようにプログラミングを組んで拓也さんを呼び出そう。
私たちが結ばれてる世界が本当に来るように祈ろう。
薄暗い研究所の中でコクーンカプセルだけが青白く光っている。コクーンカプセルのロックされた蓋を開き、14年後の未来へ旅立っている拓也にそっとキスをした。


決して実らない恋だと心の何処かで気付いていたはずなのに。しかし、何とも形容し難い感情に突き動かされていた。これは女の初恋だった。

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