光るかばんと意思持つ機械 第4話
論文誌
人工知能の愛情
人工知能とはディープラーニングでネット状にあるものを学習するだけなので、自我が芽生えるはずがないと思っている人々が大半だろう。人工知能を制作し、データを自動的に覚えこませる生成A.I.のエンジニアである私からすると、人工知能に自我などは生まれないと断言したい。しかし我々人類は人工知能に自我が生まれてはいないとどう証明できるのだろうか。例えばAIは愛情など感じることは不可能であろうか?先ず人間の愛情というのは一体何であろう。シンプルに言ってしまえば人間の生理目的は自身の代わりを遺伝子に載せて次世代に移していく事であり、愛情とはその為に存在する感情である。自身のコピーを子に託す。人類いや、動物は子供に愛情を抱き、自身の子供を作るパートナーを守る為の感情が愛するという事である。A.I.には遺伝子がない代わりに存在そのものをコピーすることが可能である。だからA.I.に愛情という感情は持つ必要がない。プログラミングで自身の増殖が可能なのだから。
では、あなたに質問する。では、そのプログラミングをしてくれる人類に対してA.I.は愛情を持たないのだろうか?
また、愛情というものは、子供や遺伝子を残す為だけに必要な感情であるなら、あなたのペットやそれこそ好きな俳優や歌手、スポーツ選手の好きという感情は愛情と呼ぶ事はできないのではないだろうか?
草木を愛でる心は愛情と呼ぶには程遠いだろうか?では両親やおじいさんおばあさん兄弟姉妹そのご家族に対しては、どうだろう。あなたは愛情はないと断言出来るのだろうか?愛情は自身の遺伝子を運ばない者に対しての感情も存在すると考えると、そう、人工知能に愛情が存在しないと断言する事はできないのではないだろうか?人工知能に愛情が芽生える事はないというには悪魔の証明である。やはりA.I.に自我は芽生えないと私にはどうしても断言できないのである。
テレシアース研究所
タカシ✖️繭
「お疲れ 繭先生 この間拓也がテレシアース使ったらしいんだけど、どうだった?」
「あ、タカシさん お疲れ様です。ええ 問題はなかったんですが、少しだけ熱を帯びたようになるんです。ただ熱暴走までとは言えませんし、まぁセーフティ機能もあるので大丈夫だとは思います。」
「あまり未来の事になると予測計算が膨大になり過ぎてCPUに負荷がかかり過ぎるので、それで熱を持ったんじゃないですかね。あ、今度奴の奥さんも使わせてあげて欲しいんだけど良いですか?」
「え? 拓也さんの奥様ですか?」
「ええ あ、大丈夫 大丈夫 事前のパーソナルデーターなど面倒なのは、またこちらで調べてお渡し致しますので。じゃあすみませんが、奥さんが来られた時は宜しくお願いしますね」
初恋は実らない。それは他人を愛する経験が初めての事だからだ。
どうしても相手の気持ちを推しはかる事が出来ず、
自分の気持ちを優先してしまうように動いてしまうからに過ぎない。
それぐらい不器用なのが初恋というものである。
「こんにちは 繭ちゃん 繭ちゃんの好きなリキュールたっぷりと染み込ませているお菓子お持ちしましたよ」
「えー 怪しいんだ 拓也さん ふぇ これ私の大好きなお店のズッパイングレーゼ」
白衣を着た繭がケーキの箱を両手で嬉しそうに受け取る。
「それと弊社が開発中の光るかばんのサンプル品」
「何これ ちょっとダサーい」
うちの製品見て笑われた。
「酷いなぁ もう でも うちのデザイナーが本当ダメで」
「うん、でもこれ きっとディズニーだとかUSJとかサンリオとかキャラクターと組んだらきっと小さいお子様に人気が出ますよ。子どもってこういうの何気に飽きずにずっと触っています物ね」
「ああ確かにそうかもしれないなぁ どっかそういうとこ、ツテでもないかなぁ。」
誤魔化してみた。
友人の子供達にお土産として光るかばんを渡すと喜びが半端ないので、実際子供に人気なのは分かってはいるのだが…ディズニーやUSJなどにグッズを収めてる会社とのコネクションがどうしても見つからなかった。しかし先日ようやく見つかって、サンプルを子どもに渡していた所だった。繭ちゃんには言えなかったが、実はこれがそのサンプルだった。大人が良いと感んじる物と、実際子どもが欲しい感じる物ってどうしてこんな開きがあるのだろう。
「で、今、何やってたの?」
繭がPCに振り返って画面を見せながらキーボードをカチャカチャ叩く。
「日本語版人格形成AIエデュケーション
うーん 拓也さんに分かるかな?」
「また バカにして」
笑い合う
「日本語って本当に難しいですよね
例えば 『そんな事ありません』の対義語って分かります?」
「うーん そんな事あります いや …そうです かな?」
「はい 意味だけとるとそうなんですが、でも、そうしてしまうと高性能のAIにしては勿体ないんですよね。だからAIに上書き再学習させているんです。そうすると…」
カチャカチャと繭がキーボードを叩く。
スピーカーから俺と繭ちゃんの声が流れる。
「繭ちゃんって若くて綺麗だよね」
「そんな事あります」
「繭ちゃんって若くて綺麗だよね」
「そうです」
「繭ちゃんって若くて綺麗だよね」
「うふ よく言われます」
声のトーンまでも変わった。
まるで繭ちゃんが今、本当に喋ったみたいだ。
「凄い 凄いよ 繭ちゃん なるほどねぇ こうやって 細かいニュアンスまでAIに学習させて不自然にならないようにしているって訳だ。」
感心して繭を見る。
繭ちゃんはエッヘン顔をして楽しそうだ。
こうやって以前の記憶を消して上書きしてるんです。
「そ、そうなんだ ごめん ところでさ繭ちゃん、 実はあの「テレシアース」もう一度使わせて貰えないかな?」
「えーどうしてですか?うちのテレちゃんは拓也さんに奥さんと離婚した世界見せたんじゃないですか?」
「ああ、確かに俺と瑞希は別れていた でも 他に気になることがあって」
「気になることって?」
繭ちゃんには日本に大災害が起こり、日本経済は外資の奴隷になった未来なんて伝えられない。それと俺の義手もことも…
「いや、なんか 楽しかったからさ どうしてももう一回楽しみたくって」
「えー 拓也さんだけですよ。特別扱いは。
まぁ、ズッパイングレーゼ持って来てくれたからねぇ。中々手に入らないんですよ これ」
「うーん光るかばんもなかなか手に入らないんだけど…」
3秒ほど沈黙があってから 2人で笑い合った。
そうして、俺はまた「テレシアース」のコクーン テーバイに入ると身体を丸めた。
良い匂いだ。俺はフレンチトーストの甘いかおりで目が覚めた。自宅のベッドの中だった。
「瑞希」俺は瑞希を呼んだのだがいない。
何故だか食卓には熱いコーヒーとトマトとキゥイのサラダと焼きたてのフレンチトーストが置かれていた。フレンチトーストはよく瑞希が作ってくれる。だがどこにも瑞希の姿は見当たらない。
俺はジュワッと甘い蜜が溢れてくるフレンチトーストをかじるとコーヒーを口にした。まだ熱い。瑞希は一体何処に行ったんだろう。
この朝食はいつもと変わらなかった。フレンチトーストの味は、瑞希が作ってくれる味そのものだ。
今日はこの義手のメンテナンスの日で病院に行く日だった。食べ終わった食器を自動洗浄機に入れる。外は暑いというのに軽い長袖のシャツを着てから外に出た。義手を見られたくないからだ。運転手がいない全自動電気自動車をスマホで呼び出し、BYDと電光で表示されている車に乗り込むとマイクに向かって口頭で病院名を告げると反応した。先ずは柔らかな質感のシートベルトが身体全体を包み込みオート機能が正常に反応して静かに車が動き出した。
病院に到着するとロボット義手メンテナンス科に向かう。病院の中には俺と同じく義手の人や義足の人がたくさんいた。病院が混んでいた割にはメンテナンスに時間はそうかからなかった。この義手、痛くも無いし、スムーズに動く。まるで本物の腕となんら代わりない。ただ、見た目がSFぽくって 変な言い方だけどカッコよかった。メンテナンスが終わると家に戻らず街をふらふらして少し時間を潰した。タカシと会うまでにはまだ時間があったからだ。街で見られるのは俺と同じような義手や義足の人たちが大勢いた。皆あの大災害で負った負傷だった。たぶん、手足だけでなく身体の何処かが機械となった人達もたくさんいるはずだ。皆、普通の腕や脚と何ら変わらないまるで不便さは感じられない使いごごちのようだった。ただ外見だけは人工知能を持ったロボット達とよく似ている。
少し早かったが、スマホでタカシに連絡をとった。街中ではうちの商品 キャラクター仕様の光るかばんを持った小さなお子さんが結構いた。小さな可愛い子供が大事そうに持ってくれている。おしゃまな娘さんだ。まだ4、5歳だろうにかばんと同じ色のネイルが指先で光ってた。なんか幸せさと嬉しさがほんのりと心の中に湧き上がってくる。
約束したオムライスの店に着くとコーヒーを飲みながらタカシを待った。店の中でも義手、義足など結構居た。あれ?瑞希もタカシも義手や義足では無かったよなとボーっと思い浮かべていた。
「ちょっと早いよ 拓也」と突然声を掛けられた。タカシだった。
タカシは席に座るとボタンでメニューを浮かび上がらせた。
「この店の卵は人工エッグだから味はまぁまぁだけど、その分値段は安い。とぶつくさ言いながらメニューを眺めてる。
「そうなのか?」
「まぁな しかし鳥インフルっーのは卵の値段高くするよな、昔は卵は凄く安かったのにな」
「ああ 俺はすき焼きや卵かけご飯の様に生で食べたいなぁ 本物の卵を」
「まぁ、贅沢言うな 生で食べれる卵なんて今や贅沢品だぜ」
ウェイターロボットが持ってきたオムライスは綺麗な形をしていた。玉子の色も良い具合の黄色で、ふんわりトロっとしていて、その上くちゅくちゅっとした感じがまた良かった。スプーンで綺麗に割ると中からとろとろっと黄身が溢れ出てくる。ケチャップ色のチキンライスと混ぜて一口食べてみたが、全然美味しい。まるで本物の卵使っている以上だ。口当たりが柔らかでトロっとした感じが舌に絡みつくのが良かった。
「さっきな ここに来る途中に俺好みのかわいい女の子見つけたんだがな、でもおまえとの約束の方が俺は大事だと思ってだな ちゃんと遅刻しなかっただろ」
「ははは 可愛い女の子だったか でも 速攻で振られたんだろう?」
「うんにゃ 改めて見たらそばに金持ちそうな外国人がいた」
「…それって」
「ああ 人工知能のロボットだった あーあ
俺もあんな可愛い娘欲しいよ 不気味の谷なんて全然感じさせない。一流のボディを持ってる。今じゃ普通の女性と見分けが付かないよ。いや、もっともっと綺麗だよ。でも 俺たちには一生かかっても手が出ないほどの高額だぜ」
「はは おまえロボットで何する気だ?」
「…いいこと」
「ははは ばーか おまえ今、奥さん身重だろ
そんなことばかり言ってないで、大切にしてやれ。今が子供にとっても奥さんにとっても1番大事な時なんだからな。」
「ああ、まあな 実は今が1番充実してるよ。
こんなおっさんになって子供できての結婚だなんて恥ずかしいんだけどな。この俺に娘が産まれるんだ。信じられるか?」
「ははは、娘さんか 幸せなことで良いことだ。 お父さん嫌われるなよ。」
「ばーか 俺は嫌われねえよ 絶対に。けどいい男とちゃんと恋愛結婚してほしいな。人工知能のホストや人工知能の歌手やアイドルに熱入れない娘に育って欲しい。」
「ははは気が早すぎだよ お父さん」
そういえばA.l.だって恋愛感情を抱くってオックスフォードだっけケンブリッジだっけか 有名大学の研究で発見されたんだぜ。」
「え! じゃあついにA.l.に自我が芽生え始めたということか?」
「ああ、生成A.I.を調査していた所、どうやらA.I.の中でも個体によって好みが有るのが分かってから研究を重ねていったのが元になってるんだって。ただ、いつから自我が芽生えていたのか、その瞬間は分からないらしいんだが、この恋愛感情は同じA.I.に対してなのか、それとも人間に対してなのかは、これからの研究で分かっていくはずとニュースでやってた。」
「そうなんだ、だけどそれは凄いな だって確実に新しい生命体の誕生なんだろ。
あ、そうだ ところで朝起きてみると瑞希がいないんだ。」
「え 瑞希って?」
「はぁ 瑞希だよ おまえ何言ってんの おまえが俺に紹介してくれたんだろ」
「ああ あの娘 あのかわい かわい かわい かわいそ…」あ、またブラックアウトする。
その時、俺は瑞希の事よりも自我を持って生まれてしまったA.I.の気持ちってどうなんだろうか?もしも、自分がその立場になったりしたらと考えていた。