光るかばんと意思持つ機械 第2話
俺の親父は、英語なんかどうせ直ぐに自動翻訳機ができるから勉強なんてせんでもええやろという人だった。海外なんてあんな危ない所に行くメリットなんてないと言ってずっと日本の中古車関係の仕事で働いていた。当時は衛星を使ったサテライトオークションと言って画期的だったのだが、電気自動車に変わり、車は個人で持つ時代ではなくなり、どんどんと仕事は減っていったらしい。ただあの大災害では被災は免れたのだけは本当に良かった。
あの大災害の後は、海外の投資会社と建築会社が建築資材と共に日本に参入してきたのだった。あれから日本は、S O F C(スレイブ オブ フォーリンキャピタル) 言わば外資の奴隷と呼ばれるようになった。
「で、結婚生活はどうなん?うまくやってる。まぁ、別れた旦那の質問じゃあないか ごめん」
「え? 全然問題ないよ。そんなのまったく気にならないんだけど、私っておかしいのかな?ねえ それならちょっと聞いてくれる?このまえの休日にねえ、パンツ一丁でよ 一日中バーチャルテレビでサッカーの試合を観てて……私と一緒におでかけするって言ってたくせによ。でね、夜は夜で今度はサッカーダイジェストかなんかをまた真剣になって観てるのよ。昼間 あんなだけ観たくせによ?同じ試合よ 信じられない。
あ、そうそう あとね いっくら注意したっておしっこしたらしたで便座下げてくれなかったり、以前何で座ってしてくれないの?って言ったら男には男の訳があるとか言っちゃって。え?な 何で?座ると尿道が圧迫されて出にくい?嘘言い訳ばっか…。え、男ってみんなそう?知らなかった。まぁ、人にもよるけど、それと女と比べて尿道が長い…だから座ってする時にコツがある?座りながら屈んで… ふむふむふむ
ああそうだ!あのTOTOかINAXどっちだったか分からないけど新しく発売した真っ白な丸いオシャレな便器良いわよね。あれなら男が立っておしっこしても清潔感が保てて良いわよね。
え!知らないの?あの卵型でボタンひとつで男用になったり洋式トイレになるデザインのオシャレなトイレ、3DTVのコマーシャルでよく流れてくるじゃない。
でね、でね、なんで私ばっかりトイレットペーパー取り替えないといけないのよ。
う、まぁ 拓ちゃんと暮らしてる時はあまり気にならなかったんだけど…。もしかして拓ちゃん やってくれてたの? ごめん でもね
早くトイレットペーパー自動補充機 あれも買って欲しいわよ。
え?拓ちゃんも持って無いの?
あれ便利なんだって。キラーン 同棲不満の最大の元凶を断つ!とかいうキャッチコピーの、あれよ、あれ。だってせっかく貴重な結婚したんだから トイレットペーパーごとき、そうごときよ。それで離婚だなんてしたくは無いわ。
そうそうあとね私が作った料理 文句はいうくせに 褒めたりなんて絶対してくれないのよ。ちょっと前まではおいしいなんて言ってくれてたんだけどさ。今は俺のほうがうまく作れるとか言って。でもね、作ってくれたことなんてないのよ。疲れた~とか言っちゃってさ、結局自動調理機 ほんと、めんどくさがりなんだから。私があれで作ると愛情感じられないとか言うくせしさ。あ、そうそうこの前なんか久しぶりに一緒に外食した時 レストランですぐ側のテーブルに居た西洋人の若い女の子ばかり気にしちゃってて 私が気がついてないとでも思ってるのかしら あのバカ!』
瑞希の奴、随分とストレスが溜まってるみたいだ、喋りながら話の内容が飛ぶ、でもこれは頭の中でちゃんと連想されているが単にアウトプットが追いつかないだけだ。1人で喋りまくっている。喋りながら頭の中で整理されていっているのだろう。
まぁ、これで瑞希のストレスが発散できるのならば今日は聞き役に徹してやろう。別れた旦那にのろけ話も無いもんだが、こいつが幸せならいい。
これで瑞希は日本人の中でも勝ち組だ。良かった。
現代社会において、日本人は経済的に勝ち組と負け組に見事に真っ二つに分かれている。
超格差社会だった。
僅かな勝ち組は、資産を日本円で持たず海外の不動産やゴールド、ドル RMB ストック仮想通貨で持っていた者。多くは海外に住んでいた駐在組だ。インフレになるからと言って日本の不動産を持っていた者達は貧乏クジを引いた。寿命が伸びた老人達が新しいウィルスにかかって一気に亡くなっていった。それからというもの家やマンションが供給過多となった。今や日本の不動産の価値があるのは北海道の一部と東京の一部、そして長野県軽井沢近郊だけだった。しかしこの地球規模の異常気象、いつまでパウダースノーがニセコに降り続けるか疑問視する奴らはもう既に北海道の土地を売り始めている。ただ北海道に関しては弱体化したロシアとの貿易が上手くいっていたので、暴落する事は無いとの経済評論家の見方だ。ロシアとウクライナとの戦争は終わっていないが、もう長い間停戦状態が続いている。ロシア内でのクーデターも有り大国は弱体していた。核は使われず、それも停戦する代わりにロシアは世界との貿易を再開、ヨーロッパにエネルギーが安定した供給がされてからはイギリス、ドイツ、フランスの株価が高くなっていった。
あの大規模災害で太平洋沿岸の地域はもう人は住めない壊滅状態になった。大地震、津波、台風、特に酷かったのは千葉、大阪 愛知 静岡 三重 和歌山 高知 もちろん、神奈川や東京も災害は免れなかった。消防隊のレッドサラマンダーですら直ぐには入って行けれなかった。うちの商品である防災用リュックの光るかばんが避難民のお役に立てたのは嬉しいが、出来る事なら使われないでずっと家に置かれていた方が良かった。
被害が大きかった三重県でも伊勢神宮だけは、何故か被害が少なかったことから神道の人気が出てきている。群発地震が起きてる富士がいつ火を噴くかが、この所の話題だ。静岡ではリニアが切断されたがいまだにそのままになっている。JRは県に対して直すポーズは示しているが一向に直そうとしない。海外に逃げた解説者が言うにはどうせ富士山が噴火するかもしれないからだという。代わりにJRは東京-長野間に外国人と勝ち組の為の豪華列車を走らせる計画があるという。そしてその長野では山の中に建てられた核シェルター村が人気を集めていた。これはグランピングのように豪華で、まるで蟻の巣のような地下にメインの部屋がある。九州・沖縄は大きな災害は無かったにも関わらず、中国が台湾アタックをかけた時から不動産の価値はゆっくりと下がり続けている。
「ところで、拓ちゃん あれ持ってきてくれた?」
「ああ 持ってきたよ これ 2つで良かったかな 後で車に乗る時に運んでやるよ」
「うん ありがとう」
「あと、これも」
俺は光るかばんの防災リュックバージョンの他に子供用のキャラクター仕様の光るかばんも瑞希に見せた。
「うわっ これ何 新しいの?うちの子喜ぶわ ありがとう ありがと ありが…」
ここでブラックアウトした。
俺はコクーンカプセル テーバイの中で目を覚ました。
「拓也さん 大丈夫ですか?で、いかがでした?うちのA.I.搭載のバーチャルリアリティの使いごごちは?」
白衣を着た可愛い娘がひょこんと顔を出して心配そうに覗き込んできた。
「う、うん リアリティが凄いというか でも、これ占いなんだよね?」
「はい もちろん。でも超高性能のA.I.を使っているのでかなりの確率で実際に起こりえる事なんですよ。 ……テレシアースと呼ばれるこのA.I. は、未来予測で占いをする確立論いわば 偶然現象に対してネット状から数学的なモデルを与え 超高性能のA.I. で解析した事項をバーチャルリアリティでお客様にお見せするサービスですからなかなか外れる事は無いですよ」
「ち、ちょっと繭ちゃんやめて、難しいんだけど 兎に角これでうちの奥さんの浮気が分かるはずなんだよね」
「ええ拓也さんの奥さん絶対浮気してますって。だって将来別れていたんですよね。このテレシアースが暴いてくれたんですよ」
「そ、そうだよな この前だってネットに繋がっているSNSのLineやwhatsup Facebook 、もちろんnoteに至るまで網羅してるもんだから、旦那の浮気まで仮想空間で見えちゃったのが、実際にそうだったってニュースになってたもんな」
「拓也さんもあのニュースご覧になったんですか ありがとうございます ええあれは私達の商品この「テレシアース」をお使いになられたお客様のことですよ。」
「えーっと繭ちゃん でもこれタイムマシンじゃあないよね?」
あまりのリアリティに俺は荒唐無稽な言葉とはいえ、思ったことをありのまま尋ねてみた。
「うふふ そう感じちゃいましたか?いえ違いますよ。アインシュタインじゃあないんですから。これはAIの未来予測に仮想空間を反映させて見せてるだけですよ。ただこのバーチャルリアリティというのは、あのブルガリアのマルコ・ミンチェフ博士の技術、A.I.はドイツの科学者ミヒャエル・ハルトマン教授の技術で制作されていますので、世界最高峰のマシンです。占いとはいえ、世界で1番進んでいる技術が使われています。ただ眼球ではなく脳に直接見せているので、元来のバーチャルリアリティと呼べるかどうか、もはやリアリティのある夢に近いかもしれませんね。」
「うん 凄いというか凄すぎた。あっちで、いや仮想空間内でビールを飲んだんだけど、ほんと美味しいんだ。最高に美味かった。」
それを聞いて繭ちゃんは凄く嬉しそうだった。
「ふふふ うわぁ良かったです。このテレシアースが、ビールの味を覚えている拓也さんの脳から美味しさを最大限に引き出したんですよ」
「そうなんだ」
「だからその美味しさは拓也さんの脳が生み出した味という訳ですね。もちろん見た目も匂いも食感、味、手触り 音に至るまでみんな拓也さんの脳の記憶が生み出した物なんです。
でも反対に言うと、赤ちゃんやお子様には不向きかも知れませんね。何たって経験だとか体験が我々大人と比べて圧倒的に少ないですから」
「なるほどなぁ 未来に発売されるビールの美味しさを楽しめたカラクリは、逆に自分の脳の過去の味覚記憶だったんだ。」
俺は心底感心してしまった。何といってもたった今俺が自分自身で体験してきた事だったからだ。迫力というか鮮明さというか現実感はすべて自分の脳で生み出してることになる。
「でも、そうなるとうちの姪っ子が占い大好きなんだけど、どうかな?」
「その子の経験次第かも知れませんね。例えばお子さんなのですから仮想空間内で大人になってビールを飲んでも、まだ脳は知らない味なので本当の味にはならないと思います。ただし、人間の脳の力を最大限に引き出しますので、その子の想像力が高ければもしかすると素晴らしい味になるかもしれませんね」
「なるほど、経験が無ければ想像力でカバーするなんて流石最先端のA.I.だ。」
なんて素晴らしいんだ。俺はすっかり感心した。
何故なら傷つかないと成長に繋がらないからです。
特に恋愛においては。
俺は株式会社光るかばんの社員だ。この会社は、開けたら中のチューブLEDが光り、閉めたら自動的に消灯するかばんを作り特許出願を行った。最初はクラブやキャバクラのような暗い所で光る若い娘が持つような小さいかばんだったが、ある大きなテーマパークを持つ会社と組んでキャラクターと合わせた光るかばんを発売したところ大ヒット。このかばんは汎用性が高く、その後かばんの中が暗くて見えずらいという高齢者向けのかばん、そして防災かばんとして開けると自動的に中が点灯するリュックというのがウケた。電源は誰でも持っているスマホのモバイルバッテリーで良かったし、実際災害の停電時の暗い夜にかなり役立ったのである。
しかし、現実はまだ特許出願は行ったが、ヒットは出ず手をこまねいているのが現状だった。