ぼくの秘密の家庭教師(15 )
我が家では四月になると、お母さんがオクラレルカというお花を毎年飾るのが恒例になっている。それはウニヨンとの出会いに関係しているんだ。
三年前の三月。ぼくたちは家族みんなでドライブに出かけたんだ。場所は、お母さんのたっての希望で、田んぼに植えられたオクラレルカが有名なところ。数日前に、休眠中の田んぼに植えられたオクラレルカが満開を迎えているというニュースを見てから、お母さんはお父さんに休みに行こうとくり返しお願いをしていた。せっかくだからクイミ、ジッチ、ジュナも連れてドライブがてら見に行こうということになったんだ。
オクラレルカの花は一面を紫色に染めてそれはそれはきれいだったんだけど、クイミたちはそばを流れる小さな川に入って水遊びしようとリードを引っ張るもんだから、ぼくはじっくり見ることなんてできなかったよ。
ドライブの帰りに飲み物とお菓子を買おうとコンビニ寄った時だ。
コンビニの玄関にちょこんと座っている子犬。かわいいなあと見ていたら泥だらけ。車の中で待っているお父さんに言いに行くと、
「えっ?捨て犬?それとも野良犬か?」
と言いながら車から降りてきてくれたんだけど、もう子犬はどこにもいなかった。その話をお母さんにすると「この辺を探してみましょうよ」というので、三人で探してみたけれどどこにも見当たらないんだ。あの子犬はどこに行ったんだろう。
それから一か月たった土曜日。お母さんとお父さんが用事でお出かけした時に同じコンビニによったら、また子犬が玄関に座っていたらしく、今度こそ逃がしてなるものかと二人で追いかけたら、遠くに若い女性がもう一頭の子犬に餌をあげていたんだって。「飼い主がいるのか・・・」と思い近づいていくとその女性が、
「野良犬みたいです。さっき、コンビニの店員に確認したら、お母さん犬が前からこのあたりに住み着いていたらしいんですけど、ここ数日見当たらなくなっているらしくて。この二頭が残されたみたいなんです。私は一頭なら飼えるのですが、二頭は無理なんです。初めてお会いするのにこんなお願い失礼だと思うのですが、もしよろしければ、この一頭引き取っていただけきませんか?オスなんですけど・・・。」
春だというのに冷たい雨の日で、雨に濡れたからだで寄り添って座っている子犬を見るとお父さんもお母さんも気持ちは固まったらしいんだ。オスならいいか。三頭も四頭も一緒よね。お父さんとお母さんは目で確認し合ってオスの子犬を引き取ることにした。その子がウニヨンさ。四月二十四日のことだ。
お母さんはウニヨンを撫でながら今でも話をする。
「この子はね、オクラレルカの贈り物。だって、オクラレルカの花言葉は『よい知らせ』なんだもん。オクラレルカを見に行ったからウニヨンと出会えたんだ~。ねっウニヨン。ウニヨンっていう素敵な子に出会うよっていうオクラレルカからの『よい知らせ』だったんだ~。」
お母さんは毎年、オクラレルカの季節になるとこの話をして、玄関とリビングにオクラレルカを活けるんだ。そういえば、ウニヨンが家族になってから一度もオクラレルカの満開のニュース聞かないなぁ。ウニヨンにも見せてあげたいのに。そうそう、ウニヨンのきょうだいのもう一頭の子犬は女の子だったんだけど、素敵なケーキ屋さんの家族になったんだって。きっと毎日あま~い香りに包まれているよ。