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ぼくの秘密の家庭教師(13 )

風のにおいが変わった。大きく成績がアップした通知表をもらって、春休みに突入した。
 クイミたちとの勉強や散歩も二カ月半が過ぎた。時にはぼくのなまけ癖が顔を覗かせてズルしようとしたこともあったけど、クイミたちの励ましやペロペロ攻撃でどうにか続けることができていた。ズルしようと思っていても完全に嫌気がさしているわけではないんだ。みんなとの勉強も散歩も全て楽しいもので、ぼくにとってはかけがいのないものになっていたんだ。そのおかげで、さっきも言ったように成績は上がるし、お父さんやお母さんには褒められるし、そして、何より気の合う友だちもできたんだ。あのマラソン練習からずっと隼人とは一緒に散歩している。週二回だけどね。ちょっとずつぼくの周りが変わってきたんだ。一番変わったのはぼくなのかもしれないね。
 春休みは宿題もない休み。それに数週間後の始業式のクラス発表をワクワクとしながら待つ特別な休みだ。公園では今までのクラスとは関係なく、遊びのグループができて朝からにぎやかだ。
「野比、ずっと一人で留守番になるけど大丈夫なの?宿題がないからって遊んでばかりはだめよ。しっかり勉強もしないとね。でも、
もう、お母さんがいちいち言わなくても野比は自分で考えてできる子だもんね~。お母さん、うれしいっ!」
「勉強が終わったら、みんなとお散歩に行くっていう計画立てているから心配しなくていいよ。」
 一月十二日に宣言をして、ずぅーとやり通しているぼくをお父さんもお母さんも喜んでくれている。もういちいち褒めたりはしないけど、信頼してくれているのがぼくは一番うれしい。もちろん春休みもジュナと一緒に勉強しているし、ウニヨンには国語の教科書だけでなく、社会科や理科の教科書、そしていろいろな本を読み聞かせしてあげている。
 そして、ジッチの考える体育のメニューは大体が①マラソン、②ボール投げ、③フリスビーだ。ジッチだけが楽しそうなメニューだけど実はぼくにとってすごく効果的なメニューなんだ。たとえば、ボール投げでは投げるときのステップの着地とその時の肩のラインや正しいひじの位置、そしてからだをひねって前に思いっきり投げることを教わったおかげで、初心者のぼくがコントロールよく投げることができるようになった。投げたボールはジッチとジュナが交代ずつ拾いに行ってくれた。ジッチとジュナはクイミからストップがかかるまでエンドレスにボール投げを要求するくらい大好きなんだ。そのおかげでぼくはボール投げがうまくなったもんだから、学校の休み時間に野球に誘われるようにまでなったんだ。ほんとにジッチのおかげだよ。
 春休みの間に、ジュナのアドバイスで三年生の総復習をやった。それは四年生になるための準備なんだとジュナが力説していたからね。半信半疑だっただったけど、やってみると忘れていることも多かったからやっぱりジュナの言うことは正しかったということかな。
また、教科書を全部ウニヨンに読み聞かせしたことで、一年間の授業の場面や先生の一言一言を思い出すことができたのもすごくよかった。ウニヨンには教科書以外にも読み聞かせをすると、すごく喜んで聞くだけじゃなく平仮名だけの絵本は自分で読めるようにまでなっていた。ウニヨンって犬だよ・・・。
「ゴロク、この二カ月半、おれたちが家庭教師をやってきたけど、どうだ?やってよかったと思うか?」
一通り勉強が終わったころにクイミが言ってきた。
「もちろんだよ。こんなに勉強が楽しくて、運動が気持ちいいなんて思ってもみなかったよ。でも、ぼくひとりだと絶対につまらないと思うんだ。だから、みんながいてくれて、みんながぼくの家庭教師になってくれて本当に感謝しているんだ。」
「ゴロク、勉強が楽しい?ちがうぞ。勉強が楽しいんじゃなくて《やるべきことしっかりやり通す》ことができているだけなんだぞ。
 人間はやるべきことから逃げるのが本当に上手なんだ。ゴロクもそうだっただろ?でも、《やるべきことしっかりやり通す》ことができると苦しいこともめんどくさいこともそう感じなくなるんだ。ゴロクは次は四年生だ。上級生になるんだよな。これから今まで以上に大切なことは、ゴロク自身の思いで今やっている《やるべきことしっかりやり通す》ことを続けていくことなんだぞ。もうやだなあって思う時もくるさ、そう思うことは悪いことじゃない。でも、その気持ちに流されたらいけない。わかったか?」
「うん。わかった。約束するよ。」
「よしっ。えらいぞゴロク。それじゃあ、おやつの時間にするとしよう。今日は“カタクチイワシの煮干し”を五匹ずつにしてくれるとうれしいな。」
「ダメだよ。お母さんが近頃おやつの減りが速いって言って、あげすぎはダメってくぎを刺されているんだ。今日は煮干し二匹ずつだよ。いいね。」

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