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群れのごくごく平凡な毎日①

入院はミッション
 
自分で自分の雨靴を踏んで階段から落ちた。
 落ちたのは記憶では、三・四段だったと思う。落ちる自分のからだを左手で支えたら、左肩が重さに耐えきれずに肩の腱板が2本切れた。激痛だった。ライフルで撃ち抜かれたときの痛さに近い。撃たれたことはないが。
 そのけがで手術をすることが決まり、入院が2週間かかると説明を受けた。
 入院前は、「2週間の入院なんて全然平気だぜ!でも息子たちと二週間も離れるなんてこと耐えきれるのだろうか。そこが問題だ」と思っていた。もちろん手術前は多少の痛みはあるにせよ、何も制限なく暮らしていたし元気で問題なし。毎日息子たちに庭で遊んでもらっていたし、夜はほんのちょっとの痛みを我慢して息子たちを腕枕しながら群れの安心感の中眠ることができていた。まあ、入院して術後の1・2日は痛さで体の自由が利かずしょうがないな・・・こんな甘い考えで入院生活はスタートした。
 ところが、入院生活は想像以上の苦しさだったのだ。何が大変か・・・全てである。特に私の場合、多少痛みがあっても行動制限がなくなり自分でトイレに行ったり、お散歩ができるようになってからの入院生活が、本当の意味での厳しい「入院生活」になったのだ。
 宇宙飛行士の訓練で、ある限られた密室でクルーが一定期間過ごす訓練が大変だと聞いたことがある。まさに入院は密室での訓練さながらなのだ。
 入院生活の1日は、『朝の検温→朝食→リハビリ→昼食→リハビリ→夕食→消灯』とほとんど決まっている。週2回、朝食の後に入浴が入る。きっと宇宙飛行士も決まった1日を過ごすに違いない。たとえば『起床→体調管理→朝食→実験→運動→昼食→実験→夕食』といった具合に(勝手に想像してる)。こうなってくると、入院と宇宙飛行士の訓練って同じのように思えてくる。入院生活と宇宙飛行士の訓練が同じ・・・かっこいいではないか!!いやいや!かっこいいなんて思えない。私には宇宙飛行士のような強い意思と根気は体中どこにもないのだから。
毎晩のように送られてくる息子たちの動画や写真。ミッションに疲れホームシックにかかっている隊員には、キズ口に塩をぬるような仕打ちに思えてくる。毛のぬくもりや四頭それぞれの匂いを思いっきり嗅ぎたくなる衝動。この怠惰な塊となっている私には、入院というミッションは耐えきれない。あと4日が果てしなく長く感じてしまう。宇宙に放り出されないようにミッションを遂行するにはどうすればいいのか・・・。
 そして、今日も窓の外の駐車場を眺め時間をつぶすのだ。

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