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ぼくの秘密の家庭教師⑪

マラソン大会当日、ぼくの心配が的中した。十位以内という目標をクリアすることができなかった。隼人はダントツの一位。
「野比、おしかったな~。でも去年に比べるとすっげーよ。」
隼人やクラスのほかのみんなはぼくの順位に驚いていたけど、ぼくの目標は十位以内だったんだ。それが駄目だったんだよっ。ぼくは悔しくて、泣きそうになりながら、
「隼人が言ってくれたあの子たちへのプレゼントできなくなってしまった・・・ぼくのせいで。ぼくってやっぱり約束を守れない最悪なやつだ。ごめん・・・。」
「何言ってんだよ!学年では十四位だったかもしれないけど、このクラスではおれの次の二位なんだぞ。すっごいじゃないか。おれと野比でワンツーフィニッシュなんだ。それに、きっとクイミたちもおやつ期待してるぞ~。来週の火曜日におやつのプレゼントだ!いいな。」
確かに、クイミはしきりにマラソン大会の日はいつなのかと聞いていた。もう頭の中はプレゼントのことでいっぱいなんだ。
「うん。今日帰ったら目標はクリアできなかったけどいい?ってクイミに聞いてみるね。きっと大喜びだと思うよ」
「へぇっ?何でクイミに聞くんだよ?」
やばっ!
「間違った!お母さんに聞くんだった。」
とにかく、来週の火曜日にはプレゼントを準備して、今まで通り公園で待ち合わせすることになった。
「ただいま~」
どどどどどどどどどっーーーーーーーーと、玄関に四頭が全速力で走って来たと思ったら、今度は質問攻めだ。
「おかえりゴロク!どうだった?マラソン大会?」
「おかえり~何位になったの?」
「おかえり、おかえり!最後まで走りきることできた?」
「プレゼントは確保か?」
やっぱりクイミは、順位よりもプレゼントのほうが気になって仕方ないらしい。
「え~と・・・あのね・・・みんなごめん。十位以内には入れなかったんだ。」
「十四位だった。クラスでは隼人に次いで二位。ごめん。みんな。また、ぼくは約束守れなかった。ごめんなさい。」
ぼくは悔しくて、自分が情けなくて涙がぽろぽろぽろぽろ頬を滝のように流れた。お母さんやお父さんに叱られた時よりも泣いた。あんなに練習したのに。みんながぼくのこと応援してくれていたのに。どうしてぼくはこうなんだ。しゃくりあげて息ができなくなるくらい泣いた。すると、ぼくの頬をぺろぺろとジッチが舐めはじめた。ジッチだけじゃない。クイミもジュナもウニヨンまでもがぼくの頬をつたい流れる涙を舐めてくれた。
「ゴロク、十四位だなんてすごいじゃないか。それもクラスで二位なんだろ。こりゃすごいよペロペロ。すごいよペロ、すごいよペロペロペロペロ・・・さすが、おれの弟だ。」
ジッチは一番小さな体で、一生懸命ぼくのことを舐めてくれた。
「ゴロク、マラソンは足元をみて走ったか?違うだろ?マラソンはしっかり前をみて先の目標に向かって走ったんだろ。あの電柱、そしてまた次の電柱・・・。今、足元の順位にとらわれるんじゃなくて、前をむくんだ。前には目標になるものがたくさんあるぞ。足元には自分の影しか見えない。ゴロクは前を向いて走ることができた。これからも前をむくんだ。全力で頑張ったんだから、泣くことはないぞ。いいな。」
ジッチの言葉を、楠公園の周りの景色を思い出しながら聞いた。そうだったな。「ゴロク、あの角まで走るぞ。ほら次はあの大きな楠までだ。よ~し、ナイスファイトだ。」そうやってジッチはいつも前に前に目標を定めてくれていた。
「そうだ、隼人が来週の火曜日に予定通りプレゼントをみんな準備してくれるんだって。ぼくがクラスで二位になったからだって。でも、ぼくの目標は十位以内で、それが叶わなかったんだからプレゼントはなしでいいんじゃないかな?って言っておいたよ。」
「確かに十位以内はダメだったが、今回はゴロクの頑張りに免じてプレゼントはいただくとしよう。」
やっぱり、クイミはプレゼントのことが一番気になっていたみたい。
 その夜は、お母さんもお父さんも上機嫌でぼくの順位を何度も聞いた。
「去年からすごいアップじゃない。すごいわ。野比。」
「クラスで二位?これはおどろきだ!母さん今日はお祝いだ。ビールもう一本出してくれる?」
お父さんとお母さんには、ぼくが悔しくて泣いたことは秘密にしている。いつまでも泣いてばかりはいられないんだから。来年のマラソン大会には絶対に目標クリアしてみせるんだ。
 火曜日に隼人とぼくからのプレゼントを貰ったクイミたちは、ご機嫌で満足したからなのか、みんなウ○チをした。普段は散歩中はやらないウニヨンまでもがやったんだから、きっと食べ過ぎたのかもしれない。困ったもんだ。でも、ウ○チをしているときのみんなは無防備でかわいいんだ。

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