見出し画像

ぼくの秘密の家庭教師(17 )

家に帰って、今日の出来事と明日の朝に会でのスピーチのことをクイミたちに話していると、いつもはぼくの膝の上にくるジュナが、ちょっと離れたところにちょこんと座ってジーとぼくを見て聞いている。いや、ぼくを見ているんじゃない。ぼくをすり抜けてどこかを見ている目だ。なんだかぼくは急にジュナがどこかに行ってしまいそうに感じてしまって、
「ジュナ、ぼくの膝にのってよ。おいで抱っこしよ。」
といって、ジュナを抱っこした。その様子をクイミとジッチは優しい目でみつめていた。
 夕ご飯の時に、お母さんにぼくの名前の由来を聞いてみた。お父さんとお母さんは顔を合わせた後、ジュナを見てうなづいた。
「お母さんのお腹の中に赤ちゃんがいます。三か月ですよって言われたのが十月だったのよ。お父さんもお母さんも嬉しくて嬉しくてね。お父さんはお腹の中の赤ちゃんにきれいな空気を吸わせるんだって言って、あの日海に行ったのよ。季節外れの台風が近づいていて、海岸にはほとんど人はいなかった。でも、お父さんが言う通り、風は潮の香りがして気持ちよかったの。きっとおなかの赤ちゃんも美味しいって言ってるねって話しながら海岸を歩いていたの。」
「そうだったなあ~。そしたら、台風対策で店じまいをしている売店のベンチを見ると、とても小さくてかわいい子犬がリードをベンチに繋がれてこっちを見ているんだ。お母さんとかわいいなあって言って見に行くとさ、売店の店主がいうんだよ。」
「まさか、お宅らの犬なの?迷惑なんだよ。早く連れて帰ってくれよ。台風が来ちまうぞ。」
「『ぼくらの犬ではありませんよ。』って伝えると、数日前の夜に誰かがベンチにつないだまんまいなくなったんだって。かわいそうに捨てられちまったのさって。その子は安くはない首輪とおそろいのリードをつけていて、お父さんとお母さんに尻尾も振らずに、ずっと海岸線をみつめているんだよ。誰かがむかえにくるのを待っているようにさ。その時の姿はかわいそうっていうよりもすごく凛としていたんだ。力強い目でね。」
「お母さんはね、なんて健気で強い子なんだろうって思ったの。」
「その売店のおじさんに、この犬を引き取りたいって言ったら『おお!よかったなステ。新しい飼い主ができたぜ』っていうんだ。ステって?聞くとさ、『捨て犬のステさ。』だって。その子を抱っこして車に乗る前に、お母さんが怒ってさ、つけていた首輪とリードを外して、『こんなセンスのないものつけなくていいよっ。君に似合うものを買ってあげる。それに、もうステじゃない。君の名前は栄 ジュナ。女の子のようにかわいいし、今日家族になったから名前はジュナよ。ありがとう。私たちを待っていてくれて』って言ったんだ。だからお父さんに相談なしにジュナって名前が決まったんだ。」
ぼくはジュナを撫でながら話を聞いていたけど、
「で?ぼくの名前の由来は?」
「そうだった、そうだった。それで、お母さんは生まれてくる子が男の子だったら、健気で力強い目を持っていて、そして何より強運を持っているジュナに出会った場所の名前をつけたいって言ったんだよ。そこが野比海岸だったからお前の名前は野比ってつけたんだぞ。かっこいい名前だろう?」
「ぼくはてっきりアニメの主人公からだと思っていたよ。」
「そんなことあるわけないだろう!お前の名前、著作権侵害になっちまうじゃないか。わっはっはっはっは・・・・」
お父さん、笑い事じゃないよ。まわりのみんなは充分そう思っているよ・・・。でも、ぼくは名前の由来がわかってすごく誇らしく思った。ジュナの優しさしい目の中に輝く強さの理由がぼくの鼓動を速くした。
 次の日のスピーチはうまくできたかわからないけれど、隼人や和樹、亮は得意げに、
「やっぱりな!おれたちのジュナ大したもんだ!。」
なんて言ったもんだ。スピーチはぼくの名前の由来だったんだけどな。
 ぼくのことを“のびえもん”とか“のびお”って読んでいた女子の間では、あの朝の会を境に“ジュナッち”と呼ぶ子たちがでてきてちょっとうれしくなったことは誰にも話さないよ。

いいなと思ったら応援しよう!