少し明るい兆しが見えてきた今だからこその一冊
カミュの「ペスト」を読みました。今回のこともあり、とても売れているとのことで、私も手に取ってみました。先日「復活の日」を見たときもそうでしたが、今回のことを予見しているかのような記述で大変驚きました。特にこの「ペスト」では、1人ひとりの感情・機微があたかも現在の状況を的確に描写しているように感じたほどでした。
なぜ、ここまで的確に心情表現ができるのかと思っていたら、戦争の体験を寓話的に取り入れた旨の解説がされていました。
以前、企業のリスクマネジメントにおいて、「何が起こっても、やることはそんなに変わらないんだ」という話を聞いたことがあります。はじめにそれを聞いたときには、「そんなわけないだろ」と思ったのですが、(ある企業にとって)望ましくないことが起こって、事業活動が止まったときには、被害がそれ以上拡大しないように細心の注意を払う。トップが逃げずに陣頭指揮を執る。時系列で事実を把握したうえで、できうる原因究明をして対策を練る・・・などの説明を聞いて、なるほどと思ったことを覚えています。
確かに、いわゆるリーマンショックのような急速な景気悪化でも、品質トラブルであっても、台風などの自然災害においても、被害を最小化しつつ、事業をいかに迅速に元の位置まで戻すという点ではかなり共通点があると感じました。
そういう点でいうと、社会に大きなブレーキがかかり、底が見えないときの心情、そういうときに現れる1人ひとりの心の醜い部分などは、元凶がなんであれ、本質的に変わらないのかもしれません。さらにいうと、もしかしたらそういう気持ちというのは、元々、人間が持っている部分で、自然災害やパンデミック、あるいは戦争などが発生したときに露呈しやすくなるだけなのかもしれません。
だからこそ、この小説には、共感できるところがたくさんあるし、認めたくないけど、理解できることもたくさんあるのだと思います。
患者が指数関数的に増えている時期だったら、背けたくなるような表現もありましたが、終息の兆しが見え始めた今だからこそ、改めて、この小説と真正面から向き合える気がします。ある種の不条理さも理解して受け入れたうえで、社会や企業の一員としてどうあるべきか、どうありたいか、何ができるか、考え直すことも必要だと感じました