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歯痛と身代わり地蔵

歯列矯正をはじめて数年経つ。

プラスチック製のマウスピース(アライナーと呼ぶ)を頻回付け替え少しずつ動かしていく方式だが、心もとないと思われた透明の歯型は恐るべき根気強さで、それより奥の歯を手前に移動させることで、抜歯による間隙1本分すら埋めてしまった。前から見ても歯並びは大分揃ってきた。かつての不格好にねじれ飛び出た前歯はもうどこにもない。

見目整ったのはありがたいことだが、その過程で大変な目にもあったりした。
これは完全にn=1の話であり、誰の何の参考にもならないだろうけれど、実際霊験あらたかであったので、神仏には縋ってみるに越したことはないという知見を得た一件。


●月1日 (月)
リファのマッサージローラー(エスカラット)でゴリゴリ顔面マッサージ だるさを感じていた左側顎とエラ、頬骨を重点的に行った。熱感を帯びるほど
夜中に左側上下歯と顔面に鋭い痛みが走り目を覚ます。揉むとすぐ解消し再度入眠

●月2日 (火)
夜中に月曜夜と同様の顔面と歯の痛みで3回ほど目が覚める
耳をひっぱると速やかに痛みが消えるので、ひたすら耳を引っ張っていた

●月3日(水):アライナー交換
痛くて入眠できない。横になると痛むので就寝時間が先送りになる。何度も寝返りをうち、最終的に顎にサロンパス貼った。夜顔の痛みで起きる。5回ほど?この時まだマッサージのしすぎによる揉み返しだと思っていた。

●月4日(木)
夜間だけではなく日中も痛みが出るようになる。
夜間耐え難い痛みに襲われる。23時にセデス飲んで入眠したが、1時に猛烈な痛みで起きる。鎮痛剤が効かないことに愕然とする。

●月5日(金)
以前別の歯を治療した際、詰めた薬剤が神経に触れて神経がダメになってしまった時の痛みに似ていたため、神経が死につつあると感じる。しかしどの歯が痛いのかわからない。頭〜首にかけて左半分が痛い。痛くない時の方が多いが、痛いと何も考えられなくなる。
H矯正歯科の電話のシステムが変わったようで、何度転送されても人と話すことができない。
神経の治療が 必要かもしれないので、検診や抜歯でお世話になっているTデンタルクリニックの予約した。痛みがあることを伝えると最短で翌日土曜日とのこと。明日までだったら耐えられると思い、予約入れる。
夕方鎮痛剤を買いにドラッグストアに来たところ、卒倒しそうな程の痛みに襲われる。左側の上下歯の穴全てに棍棒突っ込まれてギューン押されてたまに拗られるような。
これは明日まで耐えられないと思い、駅近くのクリニックにほうほうの体で電話する。「すぐお越しください」と言ってもらえて渡りに船、地獄で仏過ぎて泣きそうになる。
初診のクリニックでレントゲン。特に虫歯もないし、矯正している院か治療院で見てもらった方がいいかも、と至極当然なアドバイス。ロキソニンだけだしてもらって帰った。

が、このロキソニンが全く効かなかった!延々痛い。セデスは1時間だけでも効くだけまだマシ
この日の夜も痛くて入眠できたのは3時とかだった。横になるとガンガンズキズキ響いて堪らない。これまで頑張って左側ゴムかけもしていたけれど夜中もぎ取るように外した。少し楽になった気がした。

●月6日(土)
TデンタルクリニックにてCT撮ってもらう。ちょうど痛みの波が引いた折で、歯を叩いてもそこまでの痛みもない。風をかけても少し沁みる程度。CTでは歯と歯茎の間に黒く写る隙間があり、歯髄炎には至らない、可逆的な歯髄充血(もしくは知覚過敏)では?とのご指摘だった。
この痛みで「可逆的」?!神経死ぬ予感しかしてなかったため、首を捻りつつ帰宅。
午後は元々予約していた月一の鍼灸院。「この1週間つらくて多分自己流マッサージで筋肉が傷ついて過度に縮んで、元々あった食いしばりが激化、歯の神経を傷つけちゃったんじゃ…」みたいな自説展開したら、顎周り鍼打っときますね、炎症どめにもなるので〜と施術してくださった。アイシングとかもいいですよ、とのご助言。肩と首はすっきり軽くなった。

やっぱり夜うめく程痛む歯と顔。もうどこが痛いのかわからない。顔触っても痛いし、こめかみは弾け飛びそうなほど張っていて、触ると歯と連動して痛む。氷嚢当ててみたけど余計痛くなっただけだった。左顔面にサロンパス貼りまくる。常温の水を口に含むと熱感持ってる歯茎と歯がスッと冷えて痛みも引くことに気がついた。ゴム掛けはもう右のみ。うとうとするたびにグッと噛み締めがあるようで鋭い痛みが瞬間走り目を覚ましてしまう。
全く眠れないので壁にオットマン(クッション)置いてもたれかかって休む。口をポカンと開けられるせいか、食いしばりせずに済んで少し眠れた。

●月7日(日)
前日にTデンタルクリニックで「冷たいもの、熱いものはしみますか?」と聞かれたとき「熱いものは大丈夫です!」と揚々と答えた。水曜日あっつあつのラーメン食べたし。
しかしこの朝、温かいお味噌汁啜ったらズキーンと沁みて、朝食後子に絵本読むこともままならず布団の上で七転八倒。「う…いたい…いたい…」とのたうち回る母を見たらさぞかし子は怖がっただろうけど、テレビを観ててくれたから良かった。
常温の水を携帯しておかないと痛みに耐えられない。口に含んで、口内冷やして痛みが癒される。しかし人肌になってくるとぶり返すので、慌てて飲み込んで、再び水を口に含む…
セデス飲んだら少し回復して家事もできた。出かける元気も出てきたので、家族で遊園地に。幸い痛み止めが効いて楽しむことができた。昼食時いつも通り歯磨きケースの中にアライナーとゴムを収める。熱いものはよく冷ましてから、左の歯で決して噛まないようにしつつ食べたら、少し沁みたけど大丈夫だった。
帰り道、痛み止めが切れてズキズキ痛み出した。陣痛の時は細く長く息を吐き出せば痛みを逃せたけれど、歯痛がある状態でそれをやると歯に熱い息がかかりその熱で悶えるような痛みが吹き荒れる。陣痛は産んだら終わりだけど、歯痛は終わりが見えないのが辛い。呼吸を止めると余計辛いから、息をいつも通りにしようと思うのだけどその身じろぎ一つで痛みにうねりが生まれて、ますます耐え難い。
水を少し含んで、飲み込んで、また含んで、を繰り返してようやく歩ける。
そんな帰り道、観光客らしき人が熱心に写真を撮るお寺があった。思わず立ち止まると看板には「身代わり地蔵」とのこと。通勤で幾度となく通った道だけど、初めて知った。その観光客の男性に先んじて、ふらりと境内に入り、すがるような思いでお地蔵様に祈った。(どうか神経が無事でありますように、この痛みからすみやかに解放されますように)…

そうして自宅に着き、水入りペットボトルを肌身離さずちびちびと口に含み、歯磨きを済ませアライナーを装着しようとしたところ、確かに昼、カバンに入れたはずの歯磨きケースがない。カバンをひっくり返しても、子供用のリュックまで探しても、ない。
1年半矯正しててアライナーを無くしてしまうのは初めてだった。途方に暮れて夫に、探してくるから子供お願い、と一言告げ家を出る。来た道を戻り、道々に目を凝らす、ない。遊園地に問い合わせる、ない。お巡りさんにたずねる、ない。乗って帰った地下鉄の駅員さんにたずねる、ない。
昼食以降カバンの中身を探ったのは、お地蔵様にお賽銭入れようと財布出した時だけだから寺院にも寄った。しかし境内にも見当たらない。思わずお地蔵様に向かって「歯磨きケースご存じありませんか…?」なんて聞いてしまう。すっかり弱りきった様子でお地蔵様に語りかける女、誰かに見られたら相当ヤバい光景。
歯磨きケースはどこにもないので仕方なく家に帰った。空腹一歩手前だけど耐えられないのでセデス飲む。お陰で料理も捗り、美味しくご飯が食べられた。久しぶりにしっかり栄養取れた気がした。

アライナーがないので一個前のアライナーを取り出し、キッチンハイターで消毒してから付けた。夜、痛みに備えてオットマンの前に毛布持ち込み待機する。あの痛みが来たらすかさず鎮痛剤を飲んで、オットマンに頭を預けて口をポカンとさせ眠りにつこうと思った。が、強烈な痛みは待てど暮らせど来ない。仕方なく眠りにつく。眠れる。あの凄まじい痛みが来ない。念のためオットマンにもたれて座ったまま寝ることにする。夜中夫が起きてきて心配そうに声をかけてくれたが、眠れる旨一言告げ、また眠りについた。久しぶりにちゃんと眠れた。

●月8日(月)
痛みがない。まだ痛みと呼べそうな感覚はあるし、違和感もあるけれど、この1週間の「神経を今すぐ取ってくれ、さもなくば死を」レベルの絶望的な痛みではない。普通に生活ができる。温かなお味噌汁も恐る恐るながら飲めた。身代わり地蔵が身代わりになってくれたとしか思えない程の変わりようである。
痛みの記録をしようとしたら思いがけず、身代わり地蔵の霊験あらたかさのスピリチュアル記録になってしまった。身代わり地蔵はすごい。




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仲 真理恵
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