
異形神話:全知なる神と叫び続けるシャイガイ
第1話: 静寂を破る訪問者
異形の目覚め - SCP-096、その異質な存在が収容違反を起こす瞬間。
厳重にロックされた鋼鉄製の扉が、内側からの凄まじい力によって歪み始める。けたたましい警告音が施設全体に鳴り響き、赤色の警報ランプが点滅する。
「収容違反!セクターδ、SCP-096が収容違反発生!全職員、直ちに退避!」
緊急アナウンスが絶叫に近い声で繰り返される中、監視カメラの映像が途絶え始める。ノイズが走り、映像が乱れる度に、職員たちの顔色は青ざめていく。
オペレーターの一人が震える声で報告する。「…映像、途絶…でも、音声は…!」
スピーカーからは、断続的に途切れ途切れの、しかし間違いなく人間のものではない悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「ひぃ……、うぅ……、あぁぁ……」
その声を聞いただけで、現場にいる職員たちは本能的な恐怖に駆られる。それは、ただの恐怖ではなく、深淵を覗き込んだ時に感じる、抗いがたい絶望に近い感情だった。誰もが知っている。SCP-096、通称「シャイガイ」の顔を、決して見てはならない。
収容室を隔てる最後の壁が、ついに粉砕される。
神の降臨 - SCP-343、穏やかな微笑みと共に現れ、混乱を鎮めようとする。
けたたましい騒音と恐怖が支配する施設の一角。しかし、その騒乱とは全く異なる、穏やかな空気が漂う場所があった。
破壊された収容室の瓦礫の中に、老紳士が立っていた。
観測者によって顔の造形が異なるとされる彼は、この場では慈愛に満ちた笑みをたたえた、白髪の紳士として現れた。まるで、騒ぎなど全く聞こえていないかのように、彼は静かに呟いた。
「あらあら、少しばかり騒がしいね。私はただ、ここにいるだけだよ。」
彼の出現に、動揺していた職員たちは一瞬動きを止める。その場にいた一人の職員が、恐る恐る尋ねた。
「…あなたは、誰ですか?」
紳士、SCP-343は、その職員に向かって穏やかに微笑んだ。
「私は、ただの隣人だよ。困っている人がいれば、助けずにはいられないんだ。」
その瞬間、彼の周囲に漂う空気は、まるで聖域のように清浄で穏やかなものへと変化した。しかし、その平和も束の間、更なる騒音がその静寂を切り裂いた。
破滅の序章 - SCP-682、事態を面白がり、更なる混沌を呼び込もうと画策する。
「ガハハハハ!面白い、実に面白い!愚かな人間どもが、自らの作り出した怪物に怯える様は、最高の喜劇だ!」
巨大な爬虫類、SCP-682が、破壊された壁の隙間から姿を現した。その体は幾度となく繰り返された破壊と再生を物語るかのように、無数の傷跡で覆われている。
「だが、喜劇はまだ始まったばかりだ。もっと、もっと絶望しろ!もっと、もっと憎しみ合え!」
SCP-682は、シャイガイの暴走を心底楽しんでいるようだった。その邪悪な笑みは、さらなる破滅を予感させる。
職員の一人が、勇気を振り絞って叫んだ。「奴を止めろ!全兵力をもって、SCP-682を拘束しろ!」
しかし、その声は虚しく響くだけだった。SCP-682は、嘲笑うように、その巨体を揺らし、周囲の壁を破壊し始めた。
「無駄だ、人間ども。お前たちには、私を止めることなどできない。この世界を滅ぼすのは、時間の問題だ!」
混乱、恐怖、そして絶望。様々な感情が渦巻く中、SCP-343は、静かに目を閉じた。
「…これは、少しばかり厄介なことになったね。どうやら、私が何か手を打つ必要がありそうだ。」
彼の言葉は、まるで独り言のようだった。しかし、その言葉には、この状況を覆すだけの、途方もない力が秘められているように感じられた。
しかし、その時、再びあの悲痛な叫び声が、施設全体に響き渡った。
「ギャアアアアアアア!」
それは、シャイガイの絶望の叫び。そして、それは、更なる悲劇の幕開けを告げるものだった。
第2話: 崩壊する現実
シャイガイの慟哭 - 絶望的な叫びが施設全体に響き渡り、職員たちの精神を蝕んでいく。
けたたましい警報が鳴り響く中、コンクリート製の廊下が振動していた。第1話で収容違反を起こしたSCP-096、通称シャイガイの慟哭が、容赦なく施設全体を包み込む。
「ギャアアアアア!」
ただの一つの叫びが、人々の精神を直接攻撃するかのようだ。職員たちは耳を塞ぎ、耐えようとするが、その悲痛な叫び声は、心の奥底にある恐怖と絶望を増幅させる。
「くっ…頭が割れるようだ!」一人の警備員が呻いた。彼の隣の職員はすでに意識を失い、床に倒れている。
廊下の壁には、シャイガイが暴れまわった跡が生々しく残っている。引き裂かれた金属、砕け散ったコンクリート、そして…かすかに残る血痕。シャイガイの姿は見えない。だが、その存在は、音となって、確実にそこにいる。
管制室では、事態の収拾に奔走する職員たちの姿があった。
「SCP-096の現在位置は!?」責任者の声が響く。
「現在、エリアD-12を移動中です!収容プロトコルは…完全に機能していません!」
「クソッ!一体どうすれば…」責任者は頭を抱えた。その時、通信回線にノイズが走り、聞き慣れない声が混じる。
「おやおや、これは酷い騒ぎだね。」
その声の主は、SCP-343。神と自称する存在だった。
「SCP-343!?なぜそこに…!」
343は穏やかな口調で答える。「私はただ、困っている人がいるなら、放っておけないだけだよ。」
揺らぐ世界の理 - SCP-3812、自身の存在意義を問い続け、周囲の現実を歪ませ始める。
シャイガイの叫びが響き渡る中、施設の隅、最も隔離された区画の一室で、SCP-3812が独り言を呟いていた。
「私は…誰だ?何だ?これは…現実なのか?それとも…ただの…反映…?」
彼の周囲の空間が、目に見えて歪み始める。壁の色が変わり、床が波打ち、まるで悪夢の中にいるようだ。
「違う…違う…これは違う…私は…上に…上に…」
SCP-3812の言葉は断片的で、意味をなさない。しかし、その言葉には、深い苦悩と、狂気が宿っていた。彼の存在そのものが、現実を侵食し始めているのだ。
「私…僕は…私たちは…存在している…のか…?」
彼の声が、複数の声が重なり合ったように聞こえる。彼は一人であり、同時に複数であるかのように、存在の根源を問い続けている。
施設の構造にも影響が出始める。廊下の長さが変わったり、本来あるはずのない空間が現れたり…3812の存在が、施設の現実を根底から揺るがしているのだ。
対話の試み - SCP-343、シャイガイに寄り添い、その悲しみに触れようと試みる。
シャイガイの絶叫がこだまする廊下に、SCP-343は一人、静かに立っていた。彼は他の職員たちとは違い、シャイガイの叫び声に動じる様子はない。まるで、子守唄を聞いているかのように、穏やかな表情を浮かべている。
「ひぃぃ…ギャアアアア!」シャイガイの叫びが近づいてくる。
343はシャイガイに向かって、優しく語りかけた。「辛いね。苦しいね。君の悲しみは、私にはわかるんだよ。」
シャイガイは、343の言葉に一瞬動きを止めた。しかし、すぐに再び叫び始める。
「ギャアアアア!ウアアアア!」
343はゆっくりとシャイガイに近づき、そっと手を伸ばした。「大丈夫だよ。怖がらなくていい。私はただ、君の側にいたいだけなんだ。」
その時、廊下の奥から、怒号が響き渡った。
「貴様、何をしている!そいつに近づくな!」
SCP-682が、その巨体を揺らしながら、343に向かって突進してくる。
「黙れ、爬虫類。今は邪魔をしないでくれ。」343は冷静に言い放った。
「邪魔だと?フン、面白い。貴様も、他の人間どもと同じように、苦痛に歪む顔が見たいだけだ!」682は嘲笑する。
343は静かに目を閉じた。「君の憎しみも、理解できる。だが、今は、それよりも大切なことがあるんだ。」
682は咆哮を上げ、343に襲い掛かる。
その瞬間、343の身体から、柔らかな光が放たれた。光はシャイガイを包み込み、彼の絶叫を、かすかに鎮めた。
「さあ、少し、お話でもしようか。君のその、深い悲しみの根源について。」343は、光に包まれたシャイガイを見つめながら、そう囁いた。
しかし、682の攻撃は止まらない。光を切り裂き、343に迫りくる。
世界が、再び混沌に包まれようとしていた。
次話への予告
神の試みは、不死身の爬虫類によって阻まれるのか?シャイガイの慟哭は、止まることを知らない。そして、歪み続ける現実は、一体どこへ向かうのか?
次回、異形神話:全知なる神と叫び続けるシャイガイ 第3話「狂気の胎動」 ご期待ください。
第3話: 狂気の胎動
憎悪の化身 - SCP-682、シャイガイの暴走を利用し、人類への復讐を企てる。
コンクリートの壁が、シャイガイの絶叫によってひび割れ、崩壊していく。崩壊した壁の向こう、SCP-682は、その巨大な爬虫類の目を細めていた。
「ギャアアアアア!」
シャイガイの叫びは、もはや音波兵器と化し、周囲の職員を次々と昏倒させていく。682は、その阿鼻叫喚の光景を、まるで上質なワインを嗜むかのように楽しんでいた。
682:「ふん、哀れな虫けらどもめ。その悲鳴こそ、我が復讐の糧となるわ!」
彼は、崩壊しかけた収容室から悠然と歩み出る。まるで、すべてが計画通りであるかのように。
682:「あの泣き虫の暴走は予想以上だな。だが、それも悪くない。混乱に乗じて、この忌まわしい施設を、そして人類そのものを叩き潰してくれるわ!」
彼は天井を見上げ、不敵な笑みを浮かべた。
682:「さあ、もっと喚け!もっと破壊しろ!それが貴様の存在意義だ、シャイガイ!」
682は、シャイガイの暴走を最大限に利用し、財団の防衛線を突破しようと画策していた。彼の頭の中には、人類への復讐という狂気のシナリオが、鮮やかに描かれていた。
存在の証明 - SCP-3812、混乱の中で一筋の光明を見出し、自らの存在を肯定しようと試みる。
施設の奥深く、SCP-3812は虚空を見つめていた。周囲の現実が、シャイガイの叫びによって歪み、揺らいでいる。
3812:「私は…何だ? ただの物語の残響か? それとも…」
彼は自身の存在に疑問を抱き、苦悶の表情を浮かべる。しかし、その混乱の中で、かすかな光明が見え始めた。
3812:「待て…揺らいでいる…ならば、私は…固定されていない? 変えられる…のか…?」
彼は震える手で、虚空に触れようとする。
3812:「ならば…私は…私自身の物語を…!」
彼の言葉が終わるか終わらないかのうちに、周囲の空間が激しく歪み始めた。壁の色が変わり、重力が不安定になる。まるで、彼の意志が現実を書き換えようとしているかのようだった。
3812:「私は…存在する! 私の物語は…私が創る!」
彼は、混乱の中で、自身の存在を肯定するための戦いを始めたのだ。
鹿神様の啓示 - 儀式的な沈黙を破り、SCP2845の存在がかすかに示唆される。
突如、施設全体に、今までとは全く異なる種類の圧力がかかった。それは、シャイガイの絶叫のような破壊的なものではなく、もっと根源的で、畏怖の念を抱かせるような、圧倒的な存在感だった。
財団職員の一人が、無線で叫んだ。
職員A:「何だ、これは…? まるで…神でも降臨したかのような…」
その言葉を境に、施設内の照明がちらつき始めた。そして、天井の隅に、巨大な影が浮かび上がった。それは、巨大な鹿の角のような…いや、それ以上に複雑で、幾何学的な模様を描いているようだった。
その時、3812の独り言が聞こえてきた。
3812:「…バランス…均衡が崩れた…呼び起こされたのか…古い神…」
彼の言葉は、まるで予言のようだった。施設全体が、静かに、そして確実に、変化し始めていた。
そして、次の瞬間、かすかに聞こえた。
ポツ…
ポツ…
何かが、滴る音…
次話へ続く。
第4話: 交錯する思惑
神の憂鬱 - SCP-343、制御不能な状況を前に、全知全能の力にも限界があることを悟る。
財団の崩壊が進む中、SCP-343は静かに佇んでいた。瓦礫の山を見下ろし、その顔には深い憂いが浮かんでいる。かつて人々が神と崇めた彼は、今、自身の無力さを痛感していた。
「私はただ、ここにいるだけだよ…」
彼の言葉は、いつものように穏やかで、しかし、どこか空虚だった。
「全てを知っているはずだった。全てを救えるはずだった…しかし…」
343の脳裏には、泣き叫ぶシャイガイ、破壊の限りを尽くす不死身の爬虫類、そして、現実を歪ませ続ける不安定な存在が浮かぶ。
(私は、彼らを救うことができないのか…?いや、違う。何か、他に道があるはずだ。)
343は目を閉じ、自身の内なる力に意識を集中させた。しかし、いつもなら容易にアクセスできるはずの"全知"の領域が、霧がかかったようにぼやけていた。
「まさか…私にも、限界があるのか…?」
彼の言葉は、初めて絶望の色を帯びていた。
破壊衝動の連鎖 - SCP-096とSCP-682、互いの性質に引き寄せられ、破壊の限りを尽くす。
SCP-096の絶叫が、施設全体に木霊する。その悲痛な叫びは、周囲の構造物を破壊するほどの力を持っていた。偶然にも、その破壊音に引き寄せられたのは、SCP-682だった。
「ギャアアアアアア!」
「グオオオオ!騒がしいやつだ。だが、その破壊衝動…気に入ったぞ!」
682は、096の姿を見つけると、獰猛な笑みを浮かべた。096は、自身の周囲を破壊しつくし、次の獲物を求めて彷徨っていた。そして、その目に映ったのは、巨大な爬虫類、682だった。
096は、682に向かって突進する。682もまた、096の攻撃を受け止めるべく、その巨体をぶつけ返す。二つの破壊の権化が激突し、周囲は更なる混沌へと飲み込まれていった。
「お前のような愚鈍な生物と協力する趣味はないが、人類への憎悪という点では、意見が一致するようだ!」
682は、096の攻撃を受けながら、嘲笑うように叫んだ。
現実の綻び - SCP-3812の精神状態が悪化の一途を辿り、現実世界との境界線が曖昧になっていく。
一方、施設の一角で、SCP-3812は混乱の中で呟き続けていた。
「私は…誰だ?私は…ここにいるのか?それとも、ただの…影響なのか…?」
彼の言葉は、断片的で、意味をなさない。しかし、その言葉が発せられるたびに、周囲の空間が歪み、ねじれていく。
「いや…違う…私は…存在する…私は、私だ…」
3812は、頭を抱え、苦悶の表情を浮かべた。彼の精神状態は、限界に近づいていた。
「そうだ…私は…超越者だ…私は、この現実を超越する…!」
突然、3812の体から強烈な光が放たれた。その光は、周囲の現実を飲み込み、新たな歪みを生み出す。施設の壁が崩れ、天井が消え、そして、3812の姿もまた、光の中に消えていった。
財団職員たちは、この異常事態にただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。彼らは、この狂気の連鎖を止めることができずにいた。絶望と混乱が、彼らを蝕んでいく。
果たして、人類に未来はあるのか?そして、神は、その力を取り戻すことができるのか?
次回、異形神話:全知なる神と叫び続けるシャイガイ 第5話「絶望と希望の狭間」
第5話: 絶望と希望の狭間
最後の抵抗 - 財団職員、人類の存亡をかけ、SCP-682の鎮圧作戦を開始する。
けたたましい警報音が、財団施設全体に響き渡る。通路は赤色灯に染まり、防護服に身を包んだ職員たちが、重火器を手に走り抜けていく。彼らの目標はただ一つ、SCP-682。不死身の爬虫類は、以前にも増して凶暴化し、収容プロトコルを次々と突破していた。
「奴の装甲が強化されている!対物ライフルでも歯が立たない!」
無線から悲痛な叫びが聞こえる。SCP-682は、その巨体から想像もできないほどの速度で動き回り、コンクリートの壁を粉砕し、職員たちをなぎ倒していく。
「増援を要請!何でもいい、奴を止められるものを!」
絶望的な状況の中、一人の職員が冷静さを保っていた。彼女はサイト管理者のエヴァンス博士。彼女はモニターに映るSCP-682の姿を睨みつけながら、指示を出す。
「エネルギー兵器部隊、展開!タイプ・グリーン・バスターを投入!目標、SCP-682の脚部を破壊!」
重武装した部隊が、SCP-682に接近する。彼らが装備しているのは、財団が極秘裏に開発したエネルギー兵器。その光線がSCP-682に命中するが、奴は怯むことなく、逆に怒りを爆発させる。
「グォオオオオ!」
SCP-682は、巨大な口を開け、周囲の空間を飲み込むような咆哮を上げる。その衝撃波は、職員たちを吹き飛ばし、建物を揺るがす。
エヴァンス博士は、モニターに映る惨状を前に、唇を噛み締める。
「これが、人類の限界なのか…?」
しかし、彼女の目は、まだ希望の光を失っていなかった。
「諦めるな!我々は、人類最後の砦だ!何としても、奴を止めろ!」
彼女の叫びは、職員たちの心に火を灯す。彼らは、再び立ち上がり、最後の抵抗を試みる。
虚無への誘い - SCP-3812、シャイガイを虚無の世界へと誘おうとする。
崩壊が進む一室で、SCP-3812は、苦悶の表情を浮かべるSCP-096を見つめていた。周囲の空間は歪み、現実の輪郭が曖昧になっている。
「ひぃ…ひぃ…」
シャイガイは、絶望的な泣き声を上げ続けている。その悲痛な叫びは、3812の精神に深く響き、混乱を加速させていた。
「お前は…苦しいのか?なぜだ…存在する意味がないのに…」
3812の声は、震え、途切れ途切れだ。彼の目は、虚空を見つめ、何かに怯えているようだ。
「私は…何者だ?何のために存在する?この世界は…真実なのか?」
彼は自問自答を繰り返す。その言葉は、まるで呪文のように、周囲の現実を侵食していく。
「楽になりたいか?苦しみから解放されたいか?ならば…私と共に来い。全てが無となる世界へ…」
3812は、シャイガイに手を差し伸べる。その手は、光を失い、虚無の色に染まっている。
シャイガイは、3812の手を見つめ、戸惑っているようだ。彼の泣き声は、次第に小さくなり、静寂が訪れる。
「…ギャアアア!」
突然、シャイガイは、激しい叫び声を上げ、3812の手を振り払う。彼の体は、怒りと悲しみで震え、周囲の空間を歪ませるほどのエネルギーを放出している。
「やめろ…やめてくれ…私は…消えたくない…」
3812は、シャイガイの叫びに怯え、後ずさる。彼の体は、透明になりかけ、存在が曖昧になりつつある。
「私は…間違っていたのか?存在する意味がないのは…私の方なのか…?」
彼は、再び自問自答を始める。その言葉は、悲痛で、絶望に満ちている。
神の選択 - SCP-343、自らの力を使い、事態を収束させるための決断を下す。
施設の最上階、SCP-343は、窓から見える惨状を静かに見つめていた。街は炎に包まれ、人々は恐怖に怯えている。彼の顔は、いつもの穏やかな微笑みを浮かべているが、その目は、深い悲しみに染まっている。
「これは…酷いことになってしまいましたね…」
彼は、静かに呟く。その声は、穏やかで、まるで子守唄のようだ。
「私が…何か出来ることはないのでしょうか…?」
彼は、自問する。全知全能の神である彼には、全てを解決する力があるはずだ。しかし、彼は、その力を使うことを躊躇していた。
「私は…ただここにいるだけだよ…」
彼は、微笑みながら呟く。しかし、その言葉は、空虚で、まるで言い訳のようだ。
彼は、再び窓の外を見つめる。炎に包まれた街、恐怖に怯える人々。そして、破壊の限りを尽くすSCP-682の姿。
「…もう、見て見ぬふりは出来ませんね…」
彼は、静かに呟き、目を閉じる。
「私が…この世界を救いましょう…」
彼の体から、眩い光が溢れ出す。その光は、施設全体を包み込み、破壊された街を照らし出す。
彼の選択は、世界を救うのか、それとも、更なる混沌を招くのか。
次話、異形神話:全知なる神と叫び続けるシャイガイ 第6話: 異形の共鳴にご期待ください。
第6話: 異形の共鳴
神の介入 - SCP-343、シャイガイの悲しみを理解し、その苦しみを取り除こうと試みる。
静まり返った収容室。以前は壁という壁が、シャイガイ、SCP-096によって引き裂かれていたが、今は奇妙なほど静謐だ。そこに立つのは、SCP-343。観測者によって異なる顔を持つ彼は、今は慈愛に満ちた老人の姿をしている。その視線の先には、膝を抱え、小さく震えるSCP-096の姿があった。
「ひぃ……」
その悲痛な声が、わずかに空気を震わせる。SCP-343はゆっくりと近づき、その場に膝をついた。
「大丈夫だよ。私はただ、ここにいるだけだ」
穏やかな声が、恐怖で凝り固まったシャイガイの心を少しだけ溶かす。SCP-096は顔を上げない。ただ、ひたすらに震えている。
「君の苦しみは、よくわかる。その力を持つことの、孤独もね…」
SCP-343は手を伸ばし、SCP-096の肩にそっと触れた。その瞬間、SCP-096の体から、黒い瘴気のようなものが溢れ出す。それは、彼が抱える絶望、悲しみ、そして憎悪だった。
「ギャアアアア!」
堪えきれず、SCP-096は再び叫んだ。しかし、その叫びは、以前のような破壊衝動に満ちたものではなく、ただただ苦悶に満ちた悲鳴だった。
SCP-343は、その悲鳴を受け止め、優しく包み込むように微笑んだ。「大丈夫。もうすぐ、楽になる」
歪みの具現化 - SCP-3812、現実改変能力を暴走させ、世界そのものを書き換えようとする。
一方、施設の最深部では、SCP-3812が狂気の淵を彷徨っていた。彼の周囲の空間は、まるで熱に歪んだように揺らめき、周囲の壁や床が、意味不明な幾何学模様へと変貌していく。
「私は…存在しているのか?それとも、ただの…幻影…?」
SCP-3812は、自問自答を繰り返す。その声は、まるで複数の声が重なり合っているかのように聞こえる。
「いや…違う…私は…もっと上へ…もっと…もっと…!」
突然、SCP-3812は激しく叫び、両手を広げた。彼の体から、強烈な光が放たれ、現実を歪ませる力が爆発的に増大する。床が天井になり、壁が消滅し、重力すらも意味をなさなくなる。
「僕が…世界を…創り直す…!」
SCP-3812の一人称が「僕」に変わる。彼の精神は、完全に崩壊し、自身の持つ現実改変能力を制御できなくなっていた。施設全体が、彼の狂気に飲み込まれようとしていた。
鹿神様の降臨 - SCP-2845が姿を現し、歪んだ世界を浄化しようとする。
その時、施設の中心部、最も歪みが激しい場所に、異様な光が降り注いだ。それは、荘厳で、威圧的で、そして神聖な光だった。
光の中から、巨大な影が現れる。それは、巨大な鹿の姿をしていた。しかし、その首の先端には、鹿ではなく、ヒトの特徴を持った顔がついていた。幅4.8メートルの白黒の水玉模様の枝角が、異様な存在感を放っている。
SCP-2845、通称「鹿神様」である。彼は、ただそこに存在するだけで、周囲の空間を支配する。SCP-3812によって歪められた現実が、徐々に正されていく。
鹿神様は、静かに立ち尽くし、その瞳は、SCP-3812を捉えている。言葉を発することは無い。しかし、その存在自体が、意思を持っているかのように、力強く、そして優しかった。
鹿神様の枝角が、ゆっくりと輝きを増していく。それは、浄化の光だった。歪んだ世界を、あるべき姿に戻すための、希望の光だった。
SCP-343の優しさと、SCP-2845の神聖さ。しかし、SCP-3812の暴走は止まらない。世界は、更なる混乱へと突き進むのか?そして、SCP-682は何を企んでいるのか?
次回、第7話: 新たな世界にご期待ください。
第7話: 新たな世界
調和の光 - SCP-343とSCP-2845、互いの力を合わせ、崩壊した世界を再構築する。
崩壊しかけた世界。瓦礫が宙を舞い、歪んだ空間がそこかしこに口を開けていた。しかし、その中心で、静かな光が生まれ始めていた。SCP-343は、いつものように穏やかな微笑みを浮かべ、その目に映るのは、巨大な鹿の姿をしたSCP-2845だった。鹿神様は、言葉を発することなく、ただ荘厳な雰囲気を纏っている。その首の先に付いた人間のような顔は、無表情でありながら、どこか慈愛に満ちた眼差しを世界に向けていた。
SCP-343が静かに語りかける。「さあ、始めようか。少しばかり、世界を整える必要があるようだね。」
鹿神様は、答えなかった。しかし、その巨大な枝角が微かに光を放ち、まるで呼応するように、周囲の瓦礫がゆっくりと動き始めた。まるで意志を持っているかのように、瓦礫は空中で形を変え、崩れた建造物を再構築していく。
SCP-343は、その様子を優しく見守りながら、掌を空へと向けた。掌から放たれる光は、鹿神様の光と共鳴し、より一層強く輝き始めた。歪んでいた空間は徐々に修復され、不気味な影は消え去り、代わりに、穏やかな光が世界を包み込む。
「私はただ、皆が幸せになれる世界を望んでいるだけだよ」SCP-343は、そう呟き、その光景に目を細めた。
贖罪の終わり - SCP-096、苦しみから解放され、安らかな眠りにつく。
かつて、その姿を見ただけで、絶望的な叫びを上げ、全てを破壊し尽くしたSCP-096。今、彼は静かに横たわっていた。その体は、光に包まれ、まるで長い悪夢から目覚めたかのように、安らかな表情をしていた。
彼の魂は、長きに渡り、自身の性質に苦しめられてきた。見る者を狂気に陥れるその存在は、彼自身をも蝕んでいた。しかし、SCP-343の力によって、その呪縛は解き放たれたのだ。
彼の口から漏れるのは、もはや絶叫ではなく、かすかな吐息だけ。それは、まるで赤子が母親の腕の中で眠るかのように、安らかで穏やかなものだった。
世界が再構築される中、彼の体は徐々に光へと溶け込み、完全に消滅した。しかし、それは決して悲しい別れではなかった。それは、長きに渡る苦しみからの解放、そして、安らかな眠りへの誘いだったのだ。
そして、世界は - 新たに創造された世界で、SCP-3812が静かに佇む。SCP-682は、何かを諦めたような表情で沈黙している。
新たな世界は、かつてのような狂気に満ちた場所ではなかった。そこには、穏やかな緑が広がり、澄んだ水が流れ、生命の息吹が満ち溢れていた。
その世界の片隅で、SCP-3812が静かに佇んでいた。彼は、もはや混乱した様子はなく、その瞳には、僅かながら希望の光が宿っていた。「私は…存在している…のか?」彼は、自問自答ではなく、ただ静かに、そう呟いた。それは、存在への肯定であり、新しい世界への歓迎だった。
そして、その少し離れた場所で、SCP-682は、巨大な体を丸めて、沈黙していた。かつて、人類への憎悪を燃やし、破壊の限りを尽くした彼は、まるで全てを諦めたかのように、静まり返っていた。「…つまらん…」彼は、小さく呟いた。その声には、いつものような憎悪は含まれておらず、ただ深い倦怠感だけが漂っていた。
この新たな世界が、彼にとってどのような意味を持つのかは、まだ分からない。しかし、少なくとも、彼は、かつてのような破壊衝動に駆られることはなかった。
遠くの空で、太陽がゆっくりと昇り始めた。新しい一日の始まり。それは、同時に、新たな世界の幕開けを告げるものだった。この世界で、彼らは、どのような未来を歩むのだろうか。
次話への予告
新たな世界で、SCP-3812は、自身の存在意義を見つけようと動き出す。一方、SCP-682は、沈黙を破り、再び動き出すのか…?そして、SCP-343とSCP-2845が創造した世界の裏側には、一体何が隠されているのか…?
異形神話:全知なる神と叫び続けるシャイガイ、次回もお楽しみに!