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投資に初心者も熟練者も存在しない:S&P500が示す厳しい現実

「投資の初心者」や「熟練者」という言葉を耳にするたびに、私は疑問を抱く。

特に個人投資家が自らの能力を過信し、S&P500をアウトパフォームしようと挑む姿を見るとき、その思いは一層強まる。

米国株式市場におけるデータは明確だ。

投資において、「初心者」と「熟練者」の差は、実のところ、ほとんど存在しない。

その理由を順を追って説明しよう。

市場が証明する平等性:S&P500のパフォーマンス

S&P500は、アメリカの代表的な500銘柄で構成された株価指数だ。

この指数は、過去数十年にわたり年間平均約10%という安定したリターンを提供してきた(1926年~2021年の平均は約10.5%)。

個別株でこのリターンを継続的に超えるのは極めて難しい。

理由は3つある。

1. 分散の力が生む安定性

S&P500は500社の株式を分散して保有しているため、個別企業のリスクが指数全体に与える影響は小さい。

一方、個人投資家が数社に集中投資すると、たった一つの失敗で全体のリターンが大きく崩れる危険がある。

たとえば、2022年に話題となったメタ(旧フェイスブック)の株価下落(年間で約-60%)を一社だけで補うのは不可能だが、S&P500全体に与えた影響は限定的だった。

2. 市場効率性が生む壁

米国株式市場は世界で最も効率的だと言われている。

新たな情報が株価に反映されるスピードは目覚ましく、個人投資家が「割安株」や「成長株」を見つけるのはほぼ不可能だ。

モーニングスターの調査によると、アクティブファンドマネージャーの約85%が、長期的にはS&P500を下回るパフォーマンスを記録している。

3. コストの罠

頻繁な売買を伴う個別株投資では、取引手数料や税金が重くのしかかる。

たとえば、年間で5%の取引コストがかかれば、10%のリターンを得るには株価が15%上昇しなければならない。

一方、S&P500に連動するETF(たとえば、VOO)は年間0.03%という低コストで保有可能だ。

「熟練者」も例外ではない

それでも、S&P500をアウトパフォームする人が存在するのは事実だ。

しかし、それは極めて少数派であり、以下のいずれかに該当するケースがほとんどだ。

1. 特定分野の専門家

ある業界に深く精通した人は、有望な企業を見抜ける可能性がある。

たとえば、医療分野の研究者がバイオテクノロジー企業に投資して成功する例がある。

しかし、専門家の知識が成功を保証するわけではない。新薬の承認が遅れるなど、不確実性は常に存在する。

2. 長期集中投資の成功者

バフェットのように、数銘柄に集中投資し、長期間保有する戦略で成功を収める投資家もいる。

しかし、バフェットの投資手法は時間と膨大なリサーチを必要とし、ほとんどの個人投資家には再現できない。

3. 運の勝者

短期的に成功する人の多くは運の影響を受けている。

市場は常に変動し、正しい判断が偶然の結果である場合も多い。

たとえば、2020年のテスラ株の急騰で利益を得た人々は多いが、それを予測できたのは少数にすぎない。

投資に「初心者」も「熟練者」もいない理由

以上の事実を踏まえれば、投資において「初心者」と「熟練者」の境界線を引くのは無意味だ。

むしろ、すべての投資家は市場の前で平等だ。

市場の効率性、リスク、コストといった要素は、個々のスキルや経験を軽視する。

また、長期的には「熟練者」の自信が過信となり、リスクを増大させるケースも多い。

統計的に見れば、全体の80~90%の投資家は市場平均を下回るパフォーマンスに甘んじることになる。

反論に答える:Q&A

Q1: アウトパフォームする個人が存在するなら、熟練者がいるのでは?

A1: 短期的な成功例はあるが、それが長期的に続くことはほとんどない。

データはそれを証明している。

Q2: 特定の分野で専門知識を持つ人は成功しやすいのでは?

A2: 可能性はあるが、それでも市場効率性や分散の力を超えるのは難しい。

専門知識だけで成功するのは一部の例外にすぎない。

Q3: 個別株投資を楽しみたい場合はどうすれば?

A3: 資産の大部分をS&P500に投じ、一部を「遊び」の枠で個別株に割り当てるのが現実的だ。

Q4: インデックス投資だけでは物足りないと感じる場合は?

A4: コア&サテライト戦略を採用すると良い。

資産の80~90%をS&P500に投資し、残りの10~20%でテーマ型ETFや個別株に挑戦する方法だ。

結論:インデックス投資こそ最良の選択肢

結局、S&P500をアウトパフォームしようとする試みは、ほとんどの場合、徒労に終わる。

投資に「初心者」も「熟練者」も存在しない。

市場はすべての投資家に対して公平だが、その公平性ゆえにインデックス投資が最良の選択肢となる。

手間をかけず、市場全体の成長を享受する戦略こそ、最も賢明な道だ。

個人投資家が取るべき道は、シンプルで、長期的な視点を持つことである。

それこそが、真の「投資の成功」を手にするための唯一の鍵なのだ。

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