FANG+の神話:セクター集中型投資は市場全体を超えられるのか⁈
市場に「効率的市場仮説」という理論がある。
簡単に言えば、「市場に公開されている情報はすべて株価に織り込まれている」という考え方だ。
この仮説が正しければ、特定のセクターや銘柄に集中投資することで、市場全体を長期的に超えることは不可能だとされる。
ここで、FANG+指数を例にとって考えてみたい。
FANG+指数は、Facebook(現在のMeta)、Apple、Amazon、Netflix、Google(Alphabet)など、アメリカを代表する巨大テクノロジー企業で構成される。
この指数は、近年の市場で圧倒的な存在感を放ち、驚異的なリターンを記録してきた。
だが、その成功は長続きするのだろうか?
答えは「ノー」だ。
その理由を、効率的市場仮説と過去のデータをもとに解き明かしていこう。
市場効率性:割安な資産はすぐに割高になる
市場は非常に敏感だ。
FANG+のようなセクターが「割安」だと気づかれれば、投資家たちはこぞってその資産を買い漁る。
買いが集中すれば、株価は一気に上昇する。
株価が上がるということは、その資産の将来リターンが低下するということだ。
結果として、FANG+の期待リターンは、市場全体指数(たとえばMSCIオールカントリーインデックス、通称オルカン)と同程度に収束していく。
これが市場効率性の基本的なメカニズムだ。
つまり、どれほど魅力的なセクターでも、割安の状態が長続きすることはない。
短期的成功の代償
FANG+は、短期的には市場全体を大きくアウトパフォームしてきた。
2020年、コロナ禍が世界を襲い、私たちの生活は大きく変化した。
在宅勤務の普及やオンラインサービスの急成長により、デジタル化が急速に進んだ。
その結果、テクノロジー株の需要が爆発的に高まり、FANG+指数は異例のリターンを記録した。
例えば、2020年から2021年にかけて、FANG+指数のリターンは50%以上にも達した。
しかし、この成功は長続きしなかった。
2022年、インフレの高まりを受けて、アメリカの中央銀行(FRB)は金利を急速に引き上げた。
金利の上昇は成長株にとって大きな逆風だ。
なぜなら、成長株の価値は将来の利益に基づくことが多いが、金利が上がるとその将来利益の価値が減少するからだ。
その結果、FANG+に含まれる多くの銘柄が大幅に下落した。
たとえば、Meta(旧Facebook)は2022年だけで株価が約60%も下落した。
短期的な成功の裏には、こうしたリスクが潜んでいる。
リスクとリターンの冷静な評価
FANG+指数への投資は、確かに魅力的に見える。
過去数年間、特にパンデミック期において、この指数は高いリターンを叩き出してきた。
だが、リターンが高いということは、それに見合うリスクを伴うということでもある。
実際のデータを見ても、FANG+のリスクは非常に高い。
大和アセットマネジメントの調査によれば、FANG+指数のリスク(標準偏差)は約30%にも及ぶ。
これは、オルカンやS&P500のような市場全体の指数のリスク(おおよそ15%)の倍近い水準だ。
つまり、FANG+に投資するということは、非常に高いリスクを取ることを意味する。
そして、そのリスクが報われる保証はどこにもない。
セクター集中の罠
FANG+のようなセクター集中型の投資には、もう一つ大きな問題がある。
それは「セクター間のパフォーマンスのばらつき」が年々大きくなっているという事実だ。
S&Pグローバルの研究では、異なるセクターのパフォーマンスが以前よりも極端にばらつくようになっていることが示されている。
これはつまり、一つのセクターに集中した投資戦略が、過去以上にリスクを伴うことを意味する。
特定のセクターが好調な場合、そのセクターへの集中投資は一時的に高いリターンをもたらすかもしれない。
しかし、ひとたびそのセクターが低迷すれば、ポートフォリオ全体が大きな打撃を受ける。
分散投資が重要とされる理由はここにある。
異なるセクターや地域に投資を分散することで、一部の資産が低迷しても、他の資産がその損失を補うことができる。
セクター集中型投資は、この「リスクの分散」という投資の基本原則に反している。
分散投資の価値
では、FANG+への投資はまったく意味がないのか?
そうではない。
FANG+のようなセクター集中型指数は、ポートフォリオの一部として活用することができる。
例えば、大和アセットマネジメントのレポートによれば、FANG+をポートフォリオの一部として組み入れることで、全体のリスクを約10%削減できる可能性があるという。
つまり、FANG+は補完的な役割としては有用だが、それにすべてを賭けるのは非常に危険だ。
短期的な成功に魅了されるのではなく、長期的な視点でリスクとリターンのバランスを考える必要がある。
結論:FANG+は神話ではない
FANG+指数は、確かに市場の主役だった。
だが、それは一時的な現象に過ぎない。
市場が効率的である限り、特定のセクターに集中した投資が市場全体を長期的に超えることは難しい。
むしろ、それには過剰なリスクが伴う。
投資家が目指すべきは、安定したリターンを長期的に得ることだ。
そのためには、分散投資が最善の戦略となる。
FANG+の成功に踊らされるのではなく、冷静に投資の基本に立ち返るべきだ。
市場は常に情報を反映し、割安な資産を見逃さない。
その現実を忘れてはいけない。
そして、長期的な成功を収めるためには、一時的なトレンドに惑わされない投資家の冷静な判断が求められるのだ。