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閑話休題【次の恋愛に至るまでのお話②終話】


「おい止まれ‼︎ちょっと違反があったのでエンジン止めなさい、まず路肩に寄せてから」

全てが終わったと思った。

反射的に全開で、アクセルをふかし、信号無視をして夜の闇に消えようとした。奴等はしつこく俺の後を追いかけて高速で近づいて来る。

あ、この道だ!この先に初めて乗ったあの特殊な道に繋がってる。ヤバいヤバい、完全に危険運転だし捕まるわけにはいかない。やば過ぎる。クソッタレ。絶対ニマイテヤル…………………乗らなきゃ良かったか…?


その時から一年前のあの日、俺はバイクに乗る前に先輩のワタリからレクチャーを受けていた。

「この辺りなら、まぁ通報もされんだろうしパンダも見ねーからイケるべ」

「パンダ?熊とかじゃなくて?」

「嘘だろお前wwパトカーだよパトカー」

「あー…白黒だからか」

「そゆこと。んじゃ今度はお前が乗る番」

ワタリに連れられて、2ケツで工場地帯と山の間にある人の少ない広めの道路がある場所へやって来た。

「うわー緊張する、何をどうすりゃいいの」

「まずは跨れよ」

「それは俺でも分かるわ」

「良いから乗れ、そんで鍵回す」

「鍵でエンジンかけんの?」

「スイッチは別だよ笑 何も知らねーのな」

「しょーがねーじゃん初めてなんだから」

「その台詞キモwwww」

「我ながらキモwwww」

夜中の森に俺達の笑い声が響く。
若気の至り、御近所迷惑でございました。すみません。

レバーの握り方、クラッチ操作、ハンドル操作とバンク、各装備の操作方法など事細かに教えてくれたワタリ、本当良い奴。
ひとつ覚える毎にドンドンと夢中になっていく自分に気付く。今という瞬間が楽し過ぎる。何だこの乗り物。

「大体一通りの事は出来るようになったな、まだクラッチの繋ぎ方下手くそだけど笑」

「教え方が下手くそなんだよ」

「てめっ!相変わらずの口聞きやがる」

「けどめっちゃ楽しかったよ、ありがとう」

「どうだ?バイク欲しくなったろ?」

「まぁー、欲しい…けど金ないしなー」

「学生なんだからバイトに精だせよ」

「学業に精出さんとダメだろ」

「お前は違う方の精出してそうだけどなwww」

「ちっ…そういう話したくねーよ」

「お、やっぱり!女かぁ…フラれたんか?」

「ちげーよ(違わない)」

「だから死にそうな顔してたのか分かりやす」

「え、そんな顔になってた?」

「あぁ、生きてんのつまんなそうだったからよ」

「まぁね、落ちてたわ」

「お前マジでバイク乗った方がいいよ」

「なんで?」

「生き生きしてたよ、バカみてーに」

「そっか…確かに笑ってたかも」

「だからバイトもちょっと始めろよ。バイク売ってやるから」

「え!マジで?」

「まぁ俺乗り換え予定だから、安くしてやるよ」

「詐欺?」

「バカ言え!コイツは5万でいいよ」

「5万?!安くね!」

「だろ?いいよそれで。俺も頭金すぐ用意して乗り換えたいしよ」

「いや罠がありそうだな」

「ねーよんなもん。それで一緒に走り行くか!暇な夜にでもよ」

「いいな、それ…」

「だろ?やっぱ楽しい事やりまくって、嫌な事なんて考える暇作るなよ」

「それもそうだな」

「バイト代稼ぎに派遣行こうぜ笑」

「一緒に??笑何のバイトだよ怖っ」

「交通量調査 笑」

「なにそれ」

「交差点でパイプ椅子座って車見てボタン押しながら半分寝て過ごす奴」

「なにそれ」

「一日で2万稼げるwwww時間は長いけど」

「やる!」

「おっしゃ、じゃあバイクは先に渡しとくわ、金はバイト終わったら半分でもくれ」

「全額充てるよ、すぐ買い取りたいし」

「だけどお前、免許は?」

「取れないねー、金が足りない」

「ま、捕まりそうになったら連絡しろ、逃げて逃げて諦められるまで逃げてれば何とかしてやるよ笑」

「ヤバいけど…本当楽しそうだ」

バイクを乗り始めたその日、ワタリを家まで練習がてら送っていった。バイクは体格にも合っていて、着く頃には何の違和感もなく走れるようになっていた。

そして、ワタリから鍵とバイクを貰った。      一人で走るのは緊張した。
変にスピードを守り過ぎていた。
当たり前だ、アホな事をしているから。

15の夜ってまさにこんな感じの心境なんだろうなぁと思いながら、見慣れているはずの街並みがヤケに新鮮に、見知らぬ街のように、俺の目には映った。

バイクを自宅付近の大きなマンションの駐輪場に置き、少し歩いて帰宅するのが日課になっていた。
鍵は学校のカバンの奥底にしまって隠した。

もう恋愛なんてしなくても楽しいからいいもん、的な気持ちになっていた頃に、運悪く出逢いが生まれてしまった。どんな出逢いかと言いますと、


ファンファンファン

『とまれこの小僧!信号何個無視してやがる!』

「クソがー!」

ワタリから教わった車が通れない道があった。
舗装はされていないがバイクなら抜けられる。
全速力で飛び込んだ。

ファンファンファン

ドクン、ドクン。
心臓が波打つ。

俺を追えなくなったパトカーが巡回する中で無闇に走り回るよりも隠れてやり過ごす方が賢いと踏み、茂みに隠れてた。ダサい俺。

何とか逃げた、けどパトカーの音が明らかに俺を探している。そして台数も増えていく。ピンチの時のワタリパイセンに連絡した。

「おう、どした?」

「いや捕まりそう、助けてくり」

「何やってんだww今どこ?」

「初めてバイク乗らしてもらったとこの茂み」

「分かった。ちょっと待ってろ、…おいちょっと行ってくるわ、待ってて」

「すまぬ(誰かと話してる?)」

「いや後輩、パクられかけてやんのwだから助けに行く」

誰かと話をしている様子。
何でも良いから早く来てくれヒーロー。
適当に挨拶して電話を切り、たまに近付くサイレンにビビりながらヒーロー到着を待つ。
段々と聞き覚えのあるヤンチャなバイクの音が聞こえて来た。ワタリだ。

「おっす!よく捕まんなかったなお前ww」

「ありがとう、マジ怖かったわ泣」

「初回にしちゃ上出来だよwwなぁリカww」

「ウチもそーおもー」

「あ、はじめまして…ワタリ君の後輩です」

「名乗ってるようで名乗ってないな」

「ウチもそーおもー」

「口癖?」

「よく言うんだよコイツ」

「ウチもそーおもー」

ワタリのビクスクの後ろに乗っていた学生にもギャルにも見える女子が、ワタリと息ぴったりの掛け合いをしていた。ずっと緊張してたから、すげー笑えた。

リカ。
はい、また出逢ってしまいましたとさ。

次のエピソードを待て🫸

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