友達以上恋人未満②M【第四章:冷たい風の吹く春】
ケータイがメールを受け取った音で、すっかり暗くなった部屋で、ふて寝していた俺は起きた。
「Mか…」
何となくケータイを足下にポイと投げ、身体の向きをかえて、ぼーっとしながら今は何時かな?と考えた。
「そういやアイツ、あの後どうしたんだろ…」
メールを確認する。
「よっ。遅くなってゴメン、ちょっと出掛けてて」
何処に誰と出掛けてたんだろ、コイツ…。
ムスッとした顔をしながら、とりあえず返信する。
「よっ。そっかー、おつかれさん」
「あのさ、明日ちょっと話ある」
嫌な予感。
「何?メールとか電話だとダメな感じの話?」
「んー、そうだね。直接話したい」
「分かった。」
なんか嫌な予感しかしない。
「じゃあ今日は疲れたから寝るね、ごめんね」
「はいよー、また明日学校でね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
素っ気ない感じで日課のやり取りが終わった。
いつもなら馬鹿話をしたりお互いをおちょくりながら楽しく過ごしていたんだけどな。
「腹減った…飯もまだだったな…」
会合で出掛けている母が作ってくれてあった夕飯を温め直しながら、味のしない夕食を済ませた。
シャワーを浴びながら嫌な連想ゲームが頭の中に浮かび続ける。
「明日…聞きたくないなぁ…」
中途半端な時間に寝過ぎたせいか、明日が来るのが怖いせいか、目が冴えてなかなか眠れなかった。
次の日の朝。
いつものように、日が昇る前。
吐息が煙草の煙かのように濃密な水蒸気になって風に溶けていく。
ため息混じりにいつもの秘密基地に着いた。
なんだか居心地が悪い。
「おはよー」
「お。おはよう」
「寒いねー」
「寒過ぎる」
Mが到着した。
なんか目の周りが腫れてる感じがする。もしかして泣いてたのかな?
「大丈夫?なんか目が腫れてるぞ」
「へーきへーき」
「いや答えになってない…」
「全部話すから」
「お…おう…」
何だよ。どんな話だよ。怖いよ。
というか何が怖いんだ?俺は。
別れ話だったら怖いんだ。
失いたくないんだ。
それくらい好きになってしまったという事だ。
「ふー…昨日ね…」
「たんま!」
「ちょっとー、何」
「いつもみたいにくっつかない?」
「今日は…このまま話ししたい」
「………分かった」
やっぱり色々おかしい。もう無理、逃げ出したい。
そう思いながらも話をまっすぐ聞く事にした。
「昨日、先輩に告白された」
「………………」
「部活の後に付き合ってくれって言われた」
「そうか……」
「でも一回断った」
「えっ、何で」
「ハンの事も好きだったから」
「…………」
「てか私クソだよね、ずるいよね」
「………いや……」
「けど先輩折れなかった、前に一回フラれてるんだけどね」
「そうなんだ…」
「小さい頃からずっと憧れてた人なんだ」
「そうなんだ……」
「だから一晩考えさせてもらった」
「……………」
「ハン、ごめん…」
「………何が…」
「やっぱり先輩のことが諦められない…」
「…………………………………そっか…」
嫌な予感は確信に変わった。
そういえば、忘れていたけど最初にそう言ってたなコイツ。それでも気が紛れるなら良いかななんて思っていたっけ。俺。変な告白をしてくる上から目線の女子。面白いやんけ、とか思ってたな。
「まぁ…そういう話だったもんな…」
「ごめん…ごめん…」
何を泣いてんだコイツ。泣くほど悪いと思うなら俺を選んでくれよ。何で先輩を選ぶんだよ。あいつのどこが良いんだよ。悲しいのは俺だよ。悲しい。
「でも悲しい…」
Mは先に泣いていたが、俺も自分の言った言葉に飲み込まれて涙が溢れてきた。
「本当にごめん……最低だね…」
「いや……お互い様だよ…」
「本当ゴメン…」
いかがわしい音が反響していた教室で、今朝は啜り泣く音が反響している。悪戯に人を好きになるもんじゃないなと思った。歪んだ恋でも楽しければ良い、そんな風に考えてしまった自分を殴りたかった。こんなに離れるのが辛くなるなら、しない方が良かった。
「はー………泣き疲れた」
「目がもっと腫れた…」
「はは、真っ赤になってる」
「教室行けない…」
「顔洗ってから行かんとね、俺も水で冷やそ」
「だね、ハン。こんな形で終わらせて本当にごめん」
「本当だよ、大好きだったんだぞ俺」
「えへへ、私もすっかり好きになってました」
「先輩選んだ癖に」
「本当ごめん…」
「大好きだった…大好きだったんだよ…」
「ねーまた泣くからやめて」
「やめない…大好きだから、最後にキスして」
「ん、最後に…ね」
最後にキスをする。これが最後なんだなーと考えたら、途中で切り上げてしまうのが惜しくて惜しくて堪らなくなった。許される事ならずっとこうしていたい。最後の。最後のキス。終わってしまえばもう2度と出来ない。人生最後の。Mとのキス。
「んっ…は…」
「ん…」
今は俺だけのM。今だけ俺だけのM。この後は俺のMじゃなくなる。信じられない。
そんな思いが暴走して、最後のキスだけでは済まなくなってしまっていた。
次回かその次回最終章予定どす