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友達以上/恋人未満①Iちゃん【2.席替え】

前話はコチラ☟

【2.席替え】


そんな環境の中、程よい緊張感と高揚感、少しずつ話せる顔見知りが増えてきて、だんだんと冗談混じりにコミュニケーションが出来るようになってきた頃、席替えが行われた。

「宜しくね、ハンタ君!」

ハンタ君は小説内での俺の名前である。勿論本名ではない。これが本名なら親を恨んでいるだろう。

「宜しく、えと…Iさん!」

Iちゃんは、同じクラスの活発なリーダー的女子。
少し男勝りな所もあって、負けず嫌い。だけど底抜けに明るい表情や振る舞いから、男女の友達が沢山いる子だった。要は人気者のひとり。

「さんは辞めて(笑)せめてちゃんにして!」

肉付きは少し良い方だったが太ってはなく、むしろ歳の割に胸がとても大きいのが目立つ子だった。
顔もアクティブキュートといった感じで、クラスで1番ではなくても充分可愛い方だった。

「ごめん(笑)じゃあIちゃんって呼ぶね!」

「呼び捨てでもいいよ!もっと仲良くなれたら」

女子に耐性のない時期だったので、この発言にもドキッとしたのを覚えてる。もっと仲良くなる事…そんな事もあるのかなぁと想像したりした。

学期ごとにしか席替えがないクラスだったので、それから数ヶ月はIちゃんと隣の席だった。
他の班の同級生は、まさにガリ勉と言った感じで私語もせず黙々と授業を受ける子達だったので、基本的にはIちゃんと喋る事が多かったのを覚えてる。

暫く穏やかな時を過ごし、夏の暑さも終わって肌寒くなってきた頃、俺はIちゃんととても仲良くなっていた。2人には、共通の興味の対象があったのだ。仲が深まるにつれて、Iちゃんからこんな話があった。

「ハンちゃん、オナニーってするの?」

「え、お、え?え?何?」

「オナニーだよ、ハンちゃんもするの?」

Iちゃんはどうやら性に興味津々な女子だった。あまりに唐突な質問だったので、狼狽えた。

「い、いやー、しないけど。なんでそんな事知りたいの?」

「えー絶対ウソ。してる所見たよ」

「ウソつけ!人前でするかよ」

「はいボロ出たー♪人前じゃない所でしてるって事でしょ」

からかわれている。と思った。
転校生は色眼鏡で見られる立場だし、変に噂になっても嫌なので適当に誤魔化そうと反論しようとした時、耳元にヒソヒソ声で

「私、たまにオナニーしてるよ」

と、Iちゃんに吐息混じりに囁かれて、自分の鼓動が一瞬、大きくバクンと動いたのが分かった。

「え、ええ、マジ…??」

こちらも声量を落として、周りに聞かれないように聞き返した。

「マジ。すんごく気持ち良いよ、てか知ってるでしょ?」

「ま…まぁ…ちょっと位なら…」

「はい引っかかったー♪ハンちゃんそんなエッチな事してるんだね、スケベじゃん」

「お前なぁ…変態発言を無視したら可哀想だから合わせてやってるだけだよ」

「何をー!パンチだ!」

そんな会話をしながら、なんだかお互いの顔が赤くなってるような気がしてマジマジと顔を見られなかった。もうこの時期辺りから、あんまり勉強に集中出来なくなっていたと思う。
この会話を皮切りに、毎日のように性に関しての話が出てくるようになった。最初はIちゃんからあれこれ聞かれ、答えた代わりにあれこれ聞く。そんな日々になっていき、後で振り返るとこれが性の目覚めの時期だったのかなとさえ思う。

「私こないだコンドーム買っちゃった」

「マジ?!もしかして持ってる?」

「今持ってる(笑)見る?」

「見せて(笑)見た事ないから」

学校指定の通学カバンの中から、コンドームが出てきた。初めて見るそれを手に取ってマジマジと見てみた。

「これどうやって着けるんだろ?(笑)」

「先っぽに当てて、クルクルって根元まで包むらしいよ、私ビデオで見た事ある」

「中1の癖にビデオまで持ってんのかよ、本物じゃん」

「どーいう意味!」

別にお互い好きになっている訳じゃないと思っていたし、特にそうなりたいとも思ってはいなかった。けど、コンドームを使う場面を想像する時、相手は何故かIちゃんをイメージしてしまっていた。
蛍光ピンクのゴムに包まれた男性器を、だらしない格好で受け入れる姿勢のIちゃんの中にズズズッと入れる、そんな自分の姿を想像してしまった。

「俺はこんなの使うの、まだ先の話になりそうだなぁ」

「なんで?先輩達とかヤリまくってるらしいよ」

「え、マジで⁈中学生なのに?」

「部室とか未使用の教室とかトイレとか公園とか、どっちかの家とかでしてるんだって」

「動物じゃないんだから外でするなよ…」

「だから、ハンちゃんもエッチする時が来ると思うよ」

女子が呟く淫猥な言葉は、童貞少年にはいちいちクリーンヒットする。悟られないように澄ましていたが、こんな会話をしていると股間の膨張はピークになっていた。今起立させられたら終わる。

「まぁ、それはそうだけど、今の所そんな予定は無いよ」

「私も誰かとエッチしたいなー、誰でも良い訳じゃないけど」

「声がデカい。そういえば好きな人いないの?」

「気になる人はいる、けど内緒…あ、そろそろ授業始まるよ」

「おっと、やばいやばい」

途中で話を切り上げたせいなのか、話の先が気になったのか、自分でもよく分からないが、Iちゃんの気になってる人が誰なのか知りたくなった。
学生時代に多くの人が経験したであろう、私語厳禁の授業中に、会話を成立させる手段の"メモで会話"を続けた。

(気になる人って誰?誰にも言わないから教えて)

(流石にハンちゃんにも言えないカナ!想像にお任せします)

(えー気になる。サッカー部の〇〇?)

(違う(笑)別の話しよ!)

(分かった、ごめん。昨日はオナニーした?)

(※この紙ちゃんと捨ててね!最近してない)

(※分かった、俺が捨てる!する気しない?)

(いや、久しぶりだと気持ち良くなるみたいで我慢中。ハンちゃんは昨日した?)

(久しぶりにすると気持ちよくなるのか(笑)俺は毎日の日課です)

(ハンちゃんは昨日も1人でエッチな事しちゃったんだね、いっぱい出た?)

(人の事言えないだろ…いっぱい出たよ)

(うるさい!今度見せて)

(いや、無理でしょ(笑)エッチでもしない限り)

(エッチ、してみる?私と)

この最後の一文の返事がきた時、心臓が止まるかと思った。なんだか、お互いにその流れに持って行こうとしてる感じがした。きっともう、この時には会話だけじゃ満足出来なくなっていたのだ。

(え、エッチする?気になる人はいいの?)

(ハンちゃんの事だよ、気になってたの)

(えー!マジでか…これってある意味告白じゃん)

(そうだよ(笑)だから言いたくなかったの)

(俺も気になってる、Iちゃんの事)

(知ってた(笑)じゃなきゃこんなにお互いの事曝け出さないもん)

朝、登校する時までは、今日一日は同じような内容で終わり、何かの進展などありはしないと思っていた。ましてや女子の家で如何わしい事をするなど。

お互いに性に対する自己開示をしたり、親睦を深めていく中で、付き合うというステップをすっ飛ばして、性交渉をしてみないか?というステージまで来てしまっていた。

お互い呼吸が浅くなっている、返事を待つ間、ドキドキと脈打つ自分の心臓を感じる。返事を渡す時、相手の指に触れる指が震える。

(けど俺何にも知らないし、付き合ってないのにいいの?)

(付き合うのも良いけど、その前に少し経験積んでた方がいいと思ってる派かな、私は)

(大好きな人とする時に失敗しないように?って事?)

(それもあるし、エッチしてから途方も無く好きになるかもしれないし、エッチしても本気で好きになれないかもしれないし、大人ってそういうもんじゃん?)

(その発想は無かったなぁ、付き合って大人になったらするものだと思ってた)

(順番なんて、本人達次第だから周りは関係ないと思うよ。結婚してから性行為するなんて、昔の人の幻想だよ)

(そうかもね。何事も経験っていうもんね)

(する?)

(したい)

(しよ。)

やり取りが終わったタイミングで授業も終わった。
内容は全く頭に入って来なかった。耳まで赤くなった顔を冷やしに水道へ。顔を洗って顔を上げると、俺の横にIちゃんが来ていて驚いた。

「よっスケベ」

「うぉ、ビビった。…メモは捨てとくよ」

「する?」

メモで返事を返したから、返事の内容はわかってる癖に、Iちゃんは言葉でも聞きたい様子だった。

「しよう」

「うー…真顔で言うな!」

「でも俺で良いの?」

「うん、ハンちゃんが良い」

また耳がポカポカしてくる。浮き足立ち、テントにまたムクムクとテンションが掛けられていく。

「じゃあ…いつする?」

「今日は親が帰って来ないから、今日…とか?」

「今日?!…でも部活も用事もないから大丈夫かな。親も夜までに帰れば怒らないし」

「じゃあ、今日の帰りは一緒に帰ろ!誰かに見つからないようにして」

「分かった、じゃあ着いていくね」

放課後の約束をして、授業が終わるのをまだかまだかと待っていた。約束をした後は、お互い気恥ずかしくて会話も減り、メモのやり取りもしなかった。処分する予定のこのメモを、何故か捨てられなかった。

生徒の通りが少ない校舎の北側で待ち合わせた。工場や倉庫が多く道が狭いので、学生は通らないように言われているルートだから、やはり誰もいない。

これから何をしようとしてるのか、13歳の子供の時分でも分かっていたので、声は震えて股間はカチカチになりながら、Iちゃんの住む家へ向かった。
Iちゃんも、度々深呼吸していたので、相当緊張していたのだと思う。
紛らわすために、あえて下ネタ以外の学校トークをして笑いながら、Iちゃんの家に辿り着いた。

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