閑話休題【次の恋愛に至るまでのお話①】
どうでもいいわ。全部が全部。
2連続で失恋し、若くしてNTRを経験し、その延長で暴力事件を起こし、アイツは危険だと噂を流され、転校生が遂にやば過ぎる本性を表した!村八分にせぇ!
と言った環境が与えられたその頃の俺は、日に日に全てがどうでも良くなっていった。
ちょうど良いタイミングで、両親の不仲が拗れて両親共に不倫が発覚したりして家庭内もぐちゃぐちゃになっていた。
友達がいない人間には多少の暴力を働いても、大衆が味方してくれるだろう。という"だろう運転の奴"も1ヶ月間で2人返り討ちにし、半殺しにしてやった。
幸い義務教育には退学が存在していない。
おかげさまで俺はまだ学生を続けられていた。
多感な時期にこうまで色々悪い事が続くと、人間ってのは吹っ切れてしまうもので。
ここから先の俺は独善的に物事を捉え、人間は全て自分の願望を叶えるためだけに存在し、顧みる必要などない、意味の無いものと定義するのも無理は無かった(多分)
それでも言いようのない不安と孤独感や寂しさが募り、どうにも眠れない夜は外に出て過ごすようになった。だけど案外、夜の世界は新鮮で楽しかった。
卒業するまでは転校生の俺を面倒見良くしてくれた先輩とコンビニで偶然再開した。
先輩は先輩で色々あったらしく、クラスの人気者のひょーきんキャラから不良少年達の中心的存在となっていた。
「あれ!?おうハン!久しぶりだなおい!」
「あ、ワタリ君久しぶりじゃん!」
「お前タメ口聞くなよww」
「ついね笑」
「おいワタリ、こいつ年下なん?」
「そうだけど前からこういう関係よww」
「おうコラ小僧。年上にはキチンと敬語使えや」
「すいませんでした…ところでテメーは誰でいくつよ?」
「このこぞぉ‼︎‼︎」
殴って来たら殺してやるつもりで啖呵を切ってみた。
「おーい!まてまて!コイツは俺の後輩なんだから、その辺の礼儀は言いっこ無しよww」
「でもよワタリぃ…こいつクソ生意気だぞ」
「いいんだよコイツ馬鹿だから、俺が良いって言ってんだから許せよ、な?」
「ちっ…俺は嫌いだねこういう奴」
「ハイハイ分かった分かった。俺のバイクでちょっと風当たって来い」
「お、いいの?じゃあちょっと行ってくらぁ」
その時はバイクの名前も分からなかったけど、こんな夜更けにそんな音出していいの?!という程爆音の排気音を出しながら、ワタリと一緒にいたトッポい奴が住宅街へと走り去って行った。
「んで、お前なんかあったんか?」
「いやー、べつに。だけど殴りたい奴は殴る事に決めたから、さっきのアイツもいつか殴るよ」
「やめとけお前wwアイツはチビだけどなかなかツエーよ。てか見ない間に随分やさぐれたなーお前」
「んな事ないよ。それより楽しい事がしたい」
「楽しい事?俺色々知ってるぞ笑」
「例えば何がある?」
「そーだな、バイクはめちゃくちゃ楽しいぞー嫌なこと忘れるのにはもってこいだし。あとは女とかかな」
内心浅いなこの先輩と思いながらも、自分の知っている狭い世界の外で生きている先輩が、少しだけ羨ましく思えた。
「バイクは確かに、楽しそうだしカッコいい。けど女はいいよ。結局やな思いするし」
「まぁ紹介出来るような女は居ねーけどなwwwガキのくせにそんなに早々と悟るなよ」
「うるせーよ。一個しか違わねーんだし月で言えば3ヶ月しか変わんないんだからほぼタメみたいなもんだろ」
「お前なー、さっきもそうだけどさ。2人だけの時以外は一応敬語使っとけ?うるせーのはうるせーからさ」
「ん、分かった、多分」
「次は止めないからなー、よろちく」
「別に負けねーよあんな奴に」
「先輩の顔を立てろよタコ助!いつの間にやらバイオレンスハンちゃんじゃんかー」
「別に….」
「おめーは嘘が下手だよな。何があったか言いたくないなら言わなくて良いけどよ。もっと楽しそうにしろよ。何か楽しい事見つけてみ」
「いいよそんなん。見つかる気がしないし」
「ま、無理にとは言わねーけどよ。あ、アイツ戻ってくるなソロソロ。あとお前、せめてアイツには敬語使えよな」
「ちっ…分かったよ、わかりましてございますよ」
「それ敬語以前に日本語じゃないけど」
ブォォンッブォォォォォーーー
さっきのチビイキリパイセンが、ワタリの原付で町内一周騒音走行の旅からコンビニへ戻ってきたらところだった。
「やっぱ2stは原チャでもはえーわww80近く出して来たwww」
「だろー?!こいつはババーが買い物に乗るには勿体無い性能があんだよ」
「いややっぱ楽しーなw…あ?てか…そいつまだ居んのかよ」
「ウス、さっきは生意気言ってスマセンシタ」
「今更おせーんだよクソガキ!ワタリの後輩じゃ無かったら殺してたぞ」
「ほんとスマセンシタ(次何か言って来たら車道に蹴り飛ばして車に轢かせよっと)」
「まぁ反省してんならいいよ、上下関係しっかりやらねーといてーめに合うからな、分かっとけそこんとこ」
「はいはいはい、もう終わりにしようぜ。そうだ!ハン、こいつ乗って来いよ」
ワタリが愛車のエンジンを掛ける。
全然ノーマルではない少し恥ずかしい位にイキったヤンキーエイプ(まだその時点ではバイクの名前は知らず)に、俺が跨るように手招きする。
灰色で血の滲む世界しか見えなくなっていた俺から見ても、その体験は何となく面白そうだったので、免許もクソも無かったが跨がってみた。
「お前でけーな体wwちょっと車体ちっちゃく見えんぞwwよし、俺が乗り方伝授してやるよ」
「え、免許ねーけど」
「免許てwww転がせればそんなもんいらねーだろww」
意味不明な所でツボるチビイキリにピキッとなったが、どうやら俺の常識の外側では免許なんて任意(取る奴は馬鹿)だったようだ。
「時間かかりそうなら俺先家送ってってくんね?」
「あー、いいぜ。ハン、お前そこに居ろ。すぐ戻る」
「まぁゆっくり外ブラブラするつもりだったからちょうど良いし待ってるよ」
「てめー敬語は?」
「まってまーす」
「ちっ…ワタリやっぱこいつシメといた方がいいぞマジで」
「コイツは馬鹿だから気にするな笑 じゃあ待っとけよー!」
ブァブァブァーーーーーーーー
ふう。
なんだかチクチクする。
恋愛とは違う刺激。
こんな時間に外で1人過ごしてるなんて、なんだか凄く新鮮な気がした。
外に居るのも何なので、コンビニの中で週刊誌を立ち読みしながら過ごす事にした。
この夜から、きっとグレた経験のない人からすると、不良の世界に染まってしまったと言われる経験を重ねる事になる。
全てがどうでもよくなってしまった灰色の世界に、ほんの少し鮮やかさが戻ってきた気がして、なんだかワクワクして読んでる本の内容が頭に入らなかった事を、今でも覚えている。