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自由という不安感とどう向き合うか
私たちは今、個人としての自由が比較的尊重される時代を生きていると思います。
昔の人からすれば、そのような社会はまさに理想郷だったかもしれませんよね。
生まれや性別によって役割を決定されることなく、努力さえすれば、自分の希望する道に進むことができるんですから。
でも私は、自由であるが故に生じる「不安」や「後悔」も、決して侮れないと思ってます。
むしろそれは私たちを追い込んで、苦しめて、絶望さえさせるものなんじゃないかと。
自分で道を選ぶという不安。
自己責任だと言われる行き場のなさ。
選ばなかった道への羨望。
自由であるがために私たちの足場はグラグラと揺れて、自分が何をするべきなのか、何をしたいのか、もう何も分からないと言いたくなる時が訪れるのかもしれない。
自分の望む居場所や価値を見出だせないことはすなわち絶望ですから、自由をもて余した結果自責と後悔に苦しんで、頭を傾ける度に涙が垂れてしまうことがあるのかもしれない。
私は、巷でよく言われる生きづらさ云々というのは、この「自己決定の重さ」が結構関係しているんじゃないかなと思っています。
もちろん、その他にも色々なものが私たちの周りには渦巻いていますけどね。
ですが、私たちはそんな風に頭を抱えながらも、なんやかんやと生きていきます。
ここで、小説『ラッシュライフ』に出てくる会話をすこし紹介させてください。
登場人物の黒澤さんと佐々岡さんが話す場面です。(ネタバレ嫌!という方はスクロールをお願いします)
「君が卒業間際に言った言葉を思い出したよ」佐々岡は声を高くして、言った。「『オリジナルな生き方なんてできるわけがない』私にそう言った」
「そうだったか?」
「世の中にはルートばかりが溢れている、とね。そう言ったよ。人生という道には、標識と地図ばかりがあるのだ、と。道をはずれるための道まである。森に入っても標識は立っている。自分を見詰め直すために旅に出るのであれば、そのための本だってある。浮浪者になるためのルートだって用意されている」
「俺はそんな偉そうなことを言ったか」
黒澤は頭を掻いた。
「その言葉で私は、ひどく納得して就職していった気がする。あの時、私は普通の企業に就職することに疑問を持っていた。『こんな人生でいいのか』とね。それが君の言葉で楽になった。結局、どこへ行っても同じなんだ、と気分が楽になった」
(伊坂幸太郎『ラッシュライフ』、新潮文庫)
どうでしょう。
私は佐々岡さんと同じく、黒澤さんの言葉に元気付けられた気がするんです。
今から思うとおそらく、私がこれまでに人生の分岐点に立たされた時に誰かに言って欲しかったのは、
「自分の道を突き進め」
とか、
「あなたは自由なんだから、誰にも縛られずに自分で全部決めればいいんだよ」
とか、
「大丈夫、あなたの行く道はきっと正しい」
とか、そういうものじゃなかったんですよね。
むしろ、こんな風に言ってほしかったんだ。
「世の中には数えきれないくらい沢山の道がある。
そして確かに君には、その中からどれかを選ぶ自由がある。
でも、その選んだ道がたった一つの『本筋』で、そこから外れたら生きていけない、なんていうことは決してない。
どれを選んだって、どこに行ったって、その場所に立つと何かしらの悩みは出てくるだろうし、多少の後悔もするだろう。
どれを選んでも、おそらくそれは変わらない。
だから、そんなに気負うことはないよ。
せっかくの自由を苦しいだけの責任感にすり替えたりしないで、基本的にはただそれを楽しめばいいんだ。」
…って。
「この決定が自分の幸不幸を分けるんだ」なんて思ってたら、怖くて何も選択できなくなりますよね。
人生は選択の連続。
だからこそ、ある程度は気楽に行かなきゃ身が持たない。
大事なのは、自由をプラスに捉えることと、自由な自分を愛すること。
完璧主義であり且つ臆病な人は、きっと責任感が強く、真面目で、目標のためなら自分に厳しくできる人なのでしょう。
私はそういう人にこそ、自由であることの素晴らしさについて、ちょっとばかし考えてもらえたらな~と思っています。
自由でいるというのは大変だ。
でも私たちは、実はきっと何よりも自由を愛しています。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました✨
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