竜とそばかすの姫 その②
竜とそばかすの姫を金曜ロードショーで鑑賞。何故か不思議なんだけど、2度目に見た方が感動してしまったので、再度感想を記入。1度目に書いた感想は読まずに書くので当時と矛盾していても気にしないで下さいね。
というわけで、思いの限りネタバレ感想を記載します。
まず一度目の鑑賞以降に楽曲にハマってしまっていて、特に『歌よ』なんかはかなり何度も聴いていたので、より歌唱シーンの没入感は前回よりも深かったかもしれない。そして展開を知っているからこそストーリーを追うことよりもよりキャラクターの心理描写を追いかけられたからか、グッと来てしまった。
映画としての纏まりなんか気にせず、主人公すず一人の物語として見ると思いの外すんなり受け入れられた。
私にも幼い娘がいるのだが、彼女はとある出来事をきっかけに酷く傷つき塞ぎ込んでしまったことがある。今は回復し日常を過ごせるようになったけど、その時は毎日を乗り越えることで精一杯だった。とにかく娘にとって辛くてしょうがない日々だったと思う。
だから主人公のすずが6歳で母を亡くすのは、あまりにも不憫でならない。10年も喪失感に苛まれて、歌おうとするだけで嘔吐するような精神状態。
自尊心は育たず、クラスの人間関係にもしのぶ君絡みで心労が絶えない。ルカちゃんに泣きながら返信するシーンからもすずの心の軸がブレているのがわかる。
今作の面白いのは、大きな喪失感を抱えているすずだからこそ、多くの人の心の琴線に触れられたこと。
劇中でも、私のために歌っているように感じる。というシーンで喪失感や孤独感に響いているのが伝わる。
※余談だけどこのシーン、なんか昔ジャンプでやってた脳噛ネウロという漫画のアヤエイジアというキャラクターを思い出した。
竜も同じように虐待されていることで、耐える力が強さとして現れている。精神的に一番酷い状態だからその不安定さや危うさが力として現れている。二人とも、圧倒的な力を発揮しているのに、誰よりも満たされていない。
そう思うと、すずはbelleとして歌っている時にもすずとしてではなくて、あくまでbelleとして自分を偽らないと歌うことができない臆病者で、自尊心のカケラもない。結果的にネットでたまたま有名になってしまっただけと、belleとしての自分も評価できていない。
そのすずが、同じような痛みを抱えて生きている竜を前にした時、自分の意志で決断して行動する様に胸が打たれる。
前述した通り私の娘は深く傷付いた時に、自分で何かを決断して、行動をすることが出来なくなっていた。回復して行く過程で自分らしく、自分でこれがしたいと決めて行動できた時は本当に些細なことでも私は嬉しかった。
比較的に今作は批判的な意見も多いようで、大人達が一人で東京に行かせた意味がわからないという意見も見かける。確かにそうかもしれない。
でも、すずのお父さんや合唱団のマダムたち周りの大人は母の居なくなったすずをずっと見てきてくれた人達だ。大人達にも妻や友人を失った喪失感があるだろう。そして深く傷付いた6歳の子供をみて、どうしてあげることも出来ないことにきっと心を砕いてきたのだろう。寄り添ってそばにいることしかできない。傷を癒すどころか、これ以上傷付かないようにすることしか出来ない10年間だったはずだ。だからマダムたちはbelleであることを気付いていても何もせず、力が必要な時には駆けつけている。父も我慢強く、娘が帰ってくる居場所として日々彼女と接していた。
そのすずが、自分の意志で東京に行きたいと、決断したのだ。寄り添ってきた側としては、その決断を尊重してあげたい気持ちもよくわかる。
何故なら今までのすずは自分でこうしたいなんて言えなかったのだから!!それが言えることだけで本当に凄い大きな変化なのだ。
それに多少の住宅エリアを特定したところで、まさか家まで辿り着けるなんて思わないしね。多摩川駅周辺に何世帯の家があるかわからないけど、行ったところで出会うことも出来ない、どうにもならない可能性の方が高い。
何より彼女が決断したことを行動させてあげたかったのだ。そしてその自立した行動に保護者がついていくのは野暮だ。
だから大人たちは送り出したんだろうと思う。
行った旅先で何も出来ず帰ってきてもいい。自分で決めて行ったことこそが大事なことなのだから。
もちろん映画なので、行った先では色々あるんだけどね。
今作は声優の起用も変わっているなぁと思う。
歌唱シーンだけ歌手を使っているのかと思ったら歌っている人たちは全員歌手を起用。特に合唱団のマダムたちは錚々たるメンバー。不思議なのは主人公の友人もYOASOBIのボーカルの幾多リラ。脚本に歌唱シーンが元々あったのかや?今作では歌うシーンは特に無かったが、普通に演技もできるんだから多彩だな。そしてやはり役所広司!バケモノの子ではあんなにチンピラみたいな粗暴な話し方なのに、今作ではエラいシュッとしたお父さんに。粘り強く我慢強く娘を信じて待つその姿が切なかった。心情的には一番お父さんに感情移入がしやすいので、最後に『おかえり』というシーンでは目頭が熱くなりました。
というわけで、一人の女の子にフォーカスして心情を追うととても面白かったです。たまたま超大物歌手だっただけで話の規模が大きいけど、あくまで傷を負った女の子がちゃんと未来を向いていく再生と成長の物語だったんですね。
個人的には批判者のペギースーが、歌うのを止めるなというシーンも好き。
以上、読んでいただきありがとうございました。
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