千代の僕達へ



TRPGシナリオ GoodmorningAll
重病人 遠司倖。
不死 村尾架世こと 「洞窟」。



太陽は暖かく誰かを包んで
月は夜の間、誰かを見護っている。


眠ることは好きだった。
ただ憂いも悩みもなくただ呼吸を繰り返して眠りに落ちるだけだからだ。
眠ることは嫌いだった。
吐血と咳に沈んだ青春は ただ明日を向かえる勇気さえ潰してしまう。そんな心持ちで寝れる訳がないだろう。もし寝てる間に死んでしまったら、
そんな杞憂がぐるぐる 蛇のとぐろのように頭を巻いて脳を満たしてしまう。
だけどもしも「おはよう」なんて誰かに言われたら、まだ生きていたいと思ってしまうじゃないか


水星は実は人見知りで
金星は地球と姉妹だったりする



とにかく僕と「洞窟」の冒険は今から1ヶ月前くらいに幕を開けた。
森みたいな山羊と乳白色の水、燃える氷と大きな芋虫、本物の魔術、生きてる彫刻と変な神様、蒼く光る剣。
そして「洞窟」。君だよ 君
こんな名前なんか付けて悪かったと今も少し反省してるんだ、
初めて僕らが出会ったあの日は月の光が綺麗で 洞窟と君の姿形がくっきり見えてて どうにもその姿が美しくてなんだか照れ隠しにその名前付けてしまって 「洞窟」と呼び続けてしまった。僕も思春期ってやつなのか。



地球は重量と人の重みで潰れそうで
火星は喉が渇いている。


なんでもない日に見た星々を今でも覚えてるよ、何億年も生きた私にとって朝と夜は同価値になってしまって もう夜空を見ても、 煌々と光る夕陽を見ても、しんみりしている朝日を見ても いつしか何も 詩的なことでさえ感じ想わなくなってしまった。
でも君はあの日 その一つ一つの星影に想いを馳せていた、
何回何十回何千回何億回 あの星々を見ることを
数えるのも忘れてしまった私にとって
その君のきらきらした瞳は 再び心の奥にある何かを想い出させてくれた。

人間が弱いのは 心が硝子細工みたいに綺麗だからか
そう私は感じたんだ。


木星は人と関わることを避けていて、
土星は少し食べ過ぎなのかもしれない


「物語はここで終わり、魔王を倒した勇者は始まりの洞窟で眠りにつく。」

そんな格好良いセリフが言えたらどれだけ素敵だったんだろうか もちろん僕には言える訳がない。君と離れたくないなんて女々しい想いでいっぱいいっぱいだったんだよ
僕はそんなことも知らずにせかせかと準備を進める君を傍目にみている。

「準備できたよ」
気のせいかも知れないが少し寂しそうに君が呟いた
「なるべく早めに頼むよ 僕の身体が腐ってしまう前に」 こんな別れの時でさえ僕を軽口を叩く
君がくすりと笑う
そんなくだらない会話でも僕達には充分過ぎる時間だった

「じゃあ 一旦 おやすみ」
「うん おやすみ」

僕は目を閉じる
口内を母山羊の乳が満たしていく
指の感覚が段々と薄れていって そのうち意識も薄れていくだろう
魔術が僕達2人をヴェールのように深く深く覆っていく この記憶を忘れてしまわないように



海王星には宝石の雨が降るらしい



あれから何年経っただろう
46億年と数千年の孤独 少し私にも長すぎたようだ。何をやっても中途半端な私にはこの作業が壮大すぎたかも知れない。引力が惑星同士を引っ張り合い、火焔が太陽の煌めきを再生させて 段々と植物が生い茂っていく。
孤独に飢えた時   倖と肌を重ねてあの日の思い出を 物語のように何回も読み漁り、想像に耽った。
私が好きだった緑の惑星で君ともう一度旅する為に

46億年と2000年と数十年後
人類の文明は大河の傍で誕生し、言語を作り、
鉄製の武器を作り、化学を操った。
そのせいか 二度の大きな戦争と各地の紛争が起きたが なんとか地球は形を成している。
現在では 車が走り 人々は列をつくって下を見ながら生活している。



私は大きな木の下、そう ゴーツウッドの巨木の陰で長いこと寝ている君に向かって呼びかけた。
「おはよう 倖 もう朝だよ」


海王星は深い青色に自分自身の孤独を重ねている
全部君が教えてくれたことだ。



































































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