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小説 娘が同じ目に合う

「おまえ、そんなことしてると 将来、自分が同じ目に合うよ。
 もしくは、未来の自分の娘が同じ目に合うよ」

20年前、僕が新入社員だった時、仕事終わりに居酒屋で上司に言われた言葉だ。

上司から
「最近彼女とどうなの?」
と聞かれ、
「いや、社会人になって休みが合わなくなったんで、全然会ってないんですよ。電話も2週間に1回くらいしかしてなくて。自然消滅しそうです。。」
と答えたときに、上司に言われたのだ。

ちなみに、その上司は、40歳を過ぎて再婚して、再婚相手との間に2歳になる娘がいる。今は愛妻家で良きパパのようだが、その上司が過去に女性に対しておこなってきた浮気・暴言・詐欺など非道の話を本人から聞いたことがある。

「いや、あなたよりはマシでしょ。あなたみたいな人がよくそんなこと言えますね」と心の中で思ったが、
自分がしたことは、いつか自分に、もしくは、未来に産まれるかもしれない自分の子どもに返ってくるということを言いたかったのだろうと上司の言葉を受けとめた。



あれから20年。

近所のスーパーで4歳になる娘と買い物をしているときのこと。

「よしおくん!!」

私が買ったものをレジ袋に袋詰めしていると、娘が、保育園で同じクラスのよしおくんがスーパーに入ってくるのを見つけ、名前を呼びながら嬉しそうに足早に近づいていった。

よしおくんに近づくと、娘は、嬉しそうに
「よしおくん」
ともう一度言って、よしおくんの肩に自分の手をポンポンした。

両親と3人で買い物にきていたよしおくんは、嬉しそうな娘の態度とは真逆の反応を示した。

娘と1歩距離をとり、娘のことは見ようとせず、どうしてよいか分からない困惑した顔をしていた。よしおくんが何の反応もしないので、よしおくんの両親が、「保育園のお友達?」「こんにちは」など娘に声をかけてくれている。
よしおくんから期待した反応が返ってこなかったショックと、そんな状態でよしおくんの両親に話しかけられることの恥ずかしさからか、娘は袋詰めをしている僕の方に走って戻ってきた。

そして、
「んーーー!!」と叫びながら、僕のもものあたりを何度もパンチしている。やり場のない気持ちをぶつけているのが分かる。

袋詰めが終わって、スーパーの出口に向かう時、よしおくんの近くを通ったが、よしおくんは相変わらず無表情でこちらを見ない。
娘も、もうよしおくんに話しかけようという様子もない。

そんなよしおくんを見て、僕は自分の子どものころを思い出した。



僕は子どもの時、人見知りが激しかった。
話しかけられても、すぐに親の後ろに隠れてしまう。挨拶も返さない。そんな子どもだった。

中学生になっても、クラスの女子に話しかけられると、どう返してよいか分からず、「うん」「いや」くらいしか言葉がでなかった。

話しかけてくれた人の気持ちなど微塵も考えず、ただ自分が恥ずかしいとか、自分がどうしてよいか分からないとか、自分のことしか考えていなかったのだ。
相手の気持ちなど考える余裕などなかった。
自分にどういう気持ちで話しかけてくれたのか、自分がそっけない態度をとることで、相手を不快にさせたり傷つけてしまうことなど、少しも考えたことはなかったのだ。

よしおくんは昔の自分だ。

自分のことでいっぱいいっぱい。
無意識に自分が傷つけている人がいることに気づいてもいない。

自分がしたことは、いつか自分に、もしくは、未来に産まれるかもしれない自分の子どもに返ってくる
という上司の教訓を20年経って実感することとなった。
僕が子どもの時に振る舞っていた行動をされて、今、娘が悲しい思いをしている。

傷ついて、傷つけて、子どもは成長するのかもしれない。
だが、僕が過去、意識的に、また無意識に人を傷つけてきたことが、娘に返ってくると考えると、こんなに悲しいことはない。願わくは、自分自身で報いは受けたい。

スーパーを出て、娘と手をつなぐ。
いつもと変わらぬ様子で、気持ちの切替えはできているようでホッとした。


ちなみに上司の娘は、今22歳。
上司が過去にしてきたような非道行為を受けていなければよいが。
願わくは、上司自身で報いを受けていただきたい。

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