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場違い過ぎた「新天地」~タントラマンへの道(第84話)

--せっかく応援団からの脱出に成功したのに、バラ色のキャンパス生活にはならなかったんですね? 何かまた障害でも?

TM:地獄から脱出できた解放感が素晴らしすぎたんですよ。なので、部屋でくつろぎまくっていたらすぐに夏休みになってしまったんです。東京ではまだ友人もいなかったので、ひとまず大阪の実家に帰省することにしました。

--良かったですね~、竹刀の餌食にならずに済んで!

TM:ホントにねぇ! 今頃、同期の団員たちは、地獄の練習に明け暮れているんだろうなぁ。オレが辞めたせいで余計に酷い目に遭わされているかもしれないなぁ。でも、辞めたければ辞めれば良いんだから、オレのせいじゃないもんね~、等とも思ってましたよ。

--家族の反応はどうでした? 応援団の話はしてあったんですか?

TM:いや、家族には何も知らせていなかったんですよ。なので事情を説明すると呆れられるやら笑われるやらで。
で、まず最初に気になったのは、角刈りにした頭髪が伸びてきていて見苦しかったことでした。
そこで、かつての行きつけだった散髪屋に行くことにしたんですよ。

--また角刈りにしたんですか?

TM:そんなわけないじゃないですかぁ! もう二度と角刈りには戻りたくなかったんだから。

--でも、角刈りからちょっと伸びた状態からだと、選択できるヘアースタイルも限られてしまうんじゃないですか?
カツラにでもしたんでしょうか?

TM:散髪屋のおっちゃんに、「パーマあててもらおうかな」と頼んだんですよ。そうしたら、「この状態からやと、パンチパーマしかあてられまへんで」と言われてしまったんです。
当時の僕の中での「パンチパーマ」のイメージは、チンピラみたいにガラの悪い男が好む髪型でした。
例えば、三菱銀行人質事件の犯人、梅川昭美みたいなね。

なので、一瞬、戸惑った反面、「おもろいかも?」という気持ちも芽生えてしまったので、「パンチパーマでもええよ!」と返答してしまったんです。

「ホンマにええんでっか? いかつぅなりまっせ~!」
と念を押されたけれども、
「うん。ええよ!」

ってことで、生まれて初めてあてたパーマは、パンチパーマだったのでした。

当時の写真が残っていないのは残念なのですが、ホンマになかなかいかつい感じになってしまいました。
下手に街中を歩いたとしたら、ホンマもんからは絡まれそうだし、
普通の人からは怖がられるかもしれない、どっちもありそうな感じになってしまったので、「これなら角刈りやスポーツ刈りの方が爽やかな(?)感じで良かったのかもしれないなぁ」と少なからず後悔したものでした。

で、二学期が始まる頃にはキリキリに締まっていたパンチパーマも若干は緩んできていたし、自分ではもう見慣れたものになっていたので、そのまま二学期が始まったキャンパスに足を踏み入れたのでした。

次にやろうとしたのは、新しく入る部活を探すことでした。
僕には、中学の頃にたまたまFMで聴いた「モーリス・アンドレ」というトランペットの神様の演奏に衝撃を受けたのがきっかけとなって、クラシック音楽の鑑賞に夢中になったという経歴がありました。
トランペットは小学生の頃から憧れの楽器だったんだけど、ニニ・ロッソの「夜空のトランペット」みたいにゆぅ~ったり、のびやか~なフレーズの曲が普通だと思ってたんですよね。

ところが、モーリス・アンドレの演奏は、そんなトランペットのイメージを完全に覆してしまう驚くべきものだったんです。
彼は、トランペットのために作曲された曲だけでは物足らなかったのか、他の楽器のために作られた難曲をトランペット用にアレンジしたものなども含めて、高難易度の曲を楽々と見事な演奏で聴かせてくれたのでした。

その初めてFMで聴いたもののうちの一曲がこれ。
バッハの管弦楽組曲第2番の中の「バディネリ」ですが、原曲はフルートのために書かれているのですが、FM放送の解説者が「フルートでも難しい」と言っていたのを覚えています。
最初聴いたときは、音が高く感じたので「早回し再生してるんとちゃうん?」と疑いましたが(笑)、これは「ピッコロトランペット」という、通常サイズのものよりかなり小さいトランペットを使用しているからだそうで、通常のトランペットよりもさらに演奏するのが難しいとのことでした。
それ以来、僕はアンドレのレコードを聴きまくり、彼にクラシックの水先案内人になってもらったのでした。

実は、応援団を辞めたいと申し出た際にも、完全に退団することが許されないのなら、同じ応援団でもある「吹奏楽部」に転籍できないだろうかと相談したこともあったのですが、あえなく却下されていたのです。

なので、吹奏楽部以外でトランペットに関われるような部活がないだろうかと探すつもりだったのですが、二学期早々、探すまでも無く、キャンパスに足を踏み入れるまでも無く見つかりました。
「●●大学交響楽団 定期演奏会」の立て看板が目に飛び込んで来たのです。

ただ、僕は楽器演奏の経験はなかったので、交響楽団に入団なんか無理だろうと思う反面、ダメで元々だとも考えて、思い切って交響楽団を訪問してみたのでした。

--応援団から交響楽団に転身ですか! なかなか珍しいパターンですね!

TM:そうでしょうね。全国民の中でも僕しかいない可能性もありますね!

--じゃあ、このインタビュー記事を読む人が読めば、あなたが誰だかわかってしまう?

TM:その可能性は十分にあるでしょうね。

--それで、入団はさせてもらえたんですか?

TM:はい。でも、最初は居心地悪かったですよ。
何しろ、応援団崩れでしょう。しかもパンチパーマ。
しかも楽器経験無しのど素人なわけでしょう?
「いったいこいつは何しに来たんだ?」と思われてるような気がしたし、
女子はもちろん、男子からも避けられているような気がしました。
要は、歓迎ムードは全然感じられなかったです。

僕も、中学、高校と帰宅部だったけれど友人は運動部員ばかりで、文化部の友達はいなかったんですよね。どうも文化部の人とは気が合わなかったんです。
なので、ホント、馴染むまでには時間がかかりましたね。
というか、最後の最後までしっくり馴染み切ることはなかったようにも思います。

でも、応援団にいるよりははるかにましだったですし、楽器演奏、それも大好きなクラシック音楽に、演奏する立場から関われる環境を得られたことは、人生において貴重な体験になったのは間違いないですね。




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