代表の伊部が登壇した、日本初開催「Avalanche: Bridge to the Real World」レポート
先日、渋谷にて、アメリカ ニューヨークに本社を置くAva Labs主催のイベント「Avalanche: Bridge to the Real World」が開催されました。
テーマは「Web3サービスの利点を生かすために、実際の経済活動との接点をどのように整備するのか?」
クエストリー代表の伊部は、Amazon AWSでWeb3領域のアジアヘッドを務めるIan Holtz、Chainlinkで事業開発をするSean Chungのふたりと共に、「How to build a bridge to the Real World」 - Web3と現実世界との架け橋をどのように作っていくかをテーマにパネルディスカッションに登壇しました。
全編英語で展開されたこのセッション。意訳、省略も多少発生するのですが、日本語でレポートさせていただきます。
— 皆さん自身と皆さんが関わるプロジェクトについて教えてください。
(Ian Holtz)私はAWSでWeb3領域のトップ、またアジア及び日本のスタートアップ支援を担当しているIan Holtzと申します。私のミッションは、スタートアップの成功のために全力で支援することです。支援するためのツールやチャンネルがいくつかありますが、中でも私はインフラ構築やマーケティングに関するプログラムの支援を担当しています。
(Sean Chung)私はSean Chungといいます。Chainlink Labsに入社して1年足らずですが、たくさんの改善を進めてきました。Chainlink Labsに入社する前は、10年ほど大手の企業でも開発経験があります。Chainlinkが提供しているものは、ブロックチェーンをさらに発展させ、エコシステムとしてさらに進化・拡大するための基盤を提供することです。
私たちは、作成されたすべてのプロジェクトがブロックチェーン上において、十分なスペースとボリュームを持つように努め、各プロダクトがより多くのユーザーを獲得し、すべてのアプリケーションや機能を実行できるようにするために、適切な標準を設定しています。
(Tomonobu Ibe)Questryの伊部と申します。Questryは、6年前ではなく、たった6ヶ月前に設立されたばかりのとても若くて小さな会社です。私もちょうど1年前は、金融業界で債券の営業をしていました。
会社を創業するにあたって、Questryのメンバーと長い時間をかけ議論した結果、私たちが扱っている技術は、多くの産業、特に金融産業の標準を変える可能性がある。特に金融ソリューションにアクセスできない人々に恩恵をもたらすだろうと信じて奔走しています。
Questryのメンバーは、金融関係者、行政関係者、エンジニアなど、日本のトップを走ってきたような人たちの集団です。現在は、「経済活動や文化活動をはじめとした現実世界の活動を支えるために、ブロックチェーン技術を使った新しいインフラをいかに作るか」というテーマのもとに、「Questry Protocol」という新しいプロトコルのコア部分を設計・開発しています。
まだ始まったばかりですが、すでに渋谷のナイトクラブを楽しむ若い世代が使っているプロダクトに実装されていたり、福島県の農家が近い将来に使う予定だったりと、楽しい未来が見えてきています。ユースケースは、それぞれ性質が全く異なりますが、だからこそ、この「Questry Protocol」は近い将来、実社会で様々な分野で応用できる核となる可能性を秘めていると思います。
今回のトークテーマである「Bridge to the Real World」は、私たちの経営理念と100%合致するものなので、今日お招きいただき、ここでお話しできることをとても嬉しく思います。
— お三方、それぞれの立場から見えている今後のトレンドはどんなものですか?
(Ian Holtz)この質問をよく受けます。わかりやすい答えとしては、DefiやGameFiが挙げられますが、これらの技術はまだ初期段階にあります。我々の文化に入り込んできた「暗号通貨」や「NFT」などで、多くのことが起き、過去5〜10年間に信じられないほど発展があったと考えています。
ビットコインのホワイトペーパーが書かれた時期から何が起こったかを考えてみました。私は2016〜2017年ころに初めてWeb3マーケットに参加したのですが、当時はICOブームを迎えていました。
我々はICOにおける調達金額が、機関投資家の投資金額を上回る世の中なんて想像していませんでした。しかし今、みなさんがGoogleアラートで暗号通貨、NFT、ブロックチェーンに関するニュースをフォローしているならば、毎日受け取っている通知の量に圧倒されていることでしょう。
最近、マスターカード社のNFTプロジェクトについてのニュースを読みました。初日から40,000人のアーティストが参加していました。
参考:https://coinpost.jp/?p=452354
これはほんの一例で、新しいトレンドは無限に生み出されています。GameFiの他にも、国際的に利用できるデジタル通貨に参入する銀行や、身元確認、セキュリティなどの事例も見られます。
また、従来のマーケットプレイスで見られるもの以上に、NFTの側面を持ったものがあります。ちなみに、私にはAWSに入社する前からここ日本と密接な関係がありました。日本のプロサッカー公式のNFTプロダクトのプロダクトマネージャーをしていたのです。だから、今回、日本に来てこのトピックへのエネルギーを感じることができて嬉しいです。
私の意見としては、当社は東南アジア地域はグローバルリーダーシップをとっていくと思います。昨年と2021年を比較しても、マクロ経済的に芳しくない状況(COVID-19やウクライナ情勢による経済的打撃)があったにもかかわらず、新しいプロジェクトの成長や投資は20〜30%増加しました。
私は飛行機を使ってよく移動していますが、実際にブロックチェーン技術を応用可能な場面をよく見かけます。建物へのアクセスやイベントのチケット入手などは、ブロックチェーン上で行われるべきです。
現状では、何度も、たくさんの場所、空港においてセキュリティーゲートを通過しなければなりません。
先日、パリのブロックチェーンイベントに向かう途中、カタールのドーハで乗り換えていました。車が動かなかった場合に備えて、通貨を両替しようとしました。私はいつも海外旅行には、いくらか現金を持ち歩いています。
キオスクに向かって歩いていたら、長い行列ができていました。通貨を両替するためには、4〜5つのステップを踏まなければなりません。その度に、パスポートをスキャンされます。スキャニングされたデータは中央のデータベースに送信されます。
また、フォームを記入する過程で、自分のメールアドレス、自宅の住所、生年月日などを、知らない人たちと共有することになります。その先に何があるのかわかりません。私がコピーを共有すれば、そのデータが残ってしまうリスクもあります。たとえば、パスポートを忘れた場合には、すでにセキュリティを通過してしまっているために、搭乗前に困ることになります。そして、私たちは同じ経験を共有する人々に対して長い列を作ってしまいます。
人々はしばしば、ブロックチェーンのUI/UXについて不平を言いますが、空港のような現実世界でのユースケースが増えることによって、ハードウェアウォレットの会社も経験を積み、適応していくことが鍵であると私は信じています。
そして、本当に信頼性の高いトラストレスなブロックチェーンで運用を始めることができます。私たちは、より多くのスタートアップが現実世界のユースケースを解決するために取り組むようになるにつれ、企業もより幸せになると考えています。そして、空港のような実際のユースケースが拡大し、多様な場面で技術が採用されるだろうと思います。
(Sean Chung)私が強調したいことの一つは、マクロレベルで見られる傾向です。キーワードは「導入事例の拡大(Adaption)」です。実際には、シームレスなので、私たちは何も感じません。
最近、私たちのイベントである「Web3 Accessible Web3 Festival」が開催され、政府関係者、金融機関、VCなどが暗号通貨の世界に参入していることがわかりました。
イベントを通じて、政府はこの新しいテクノロジーの採用に向けて急速に動いているという印象を受けました。個人投資家がある一定のレベルの通貨を保有することを認める方針を打ち出そうとしているようです。これは始まりに過ぎません。
韓国では、財務の諮問委員会がデータステートメントを発表したり、証券のためのSTOを許可するという動きがありました。これらをHyperledgerに乗せるか、EVM互換のプライベートブロックチェーンにするかについてはまだ議論中だそうです。しかし、これは大きな進歩です。このような動きによって、セキュリティ企業などに、多くの機関が注目するようになるでしょう。
私の視点では、大手企業はどの会社も、何とかブロックチェーンに関わりたいと考えています。しかし彼らは、トークンをバランスシートに持つことはリスクを伴うと考えています。ただ、このようなトークンを持つことが、会社がブロックチェーンに参入するための最初のステップであると考えられています。
最初は批判的な意見もあると思いますが、ブロックチェーンのアイデアに慣れることは非常に重要です。誰もがメンバーシップを持っているダウンロードアプリのように、また、Ianが話してくれた空港のデータベースの事例のように、今は全てが中央集権的に管理されたデータベースによって制御されているからです。
これがNFT形式の場合は、「あなたのもの」になります。この概念はゆっくりとシステムに浸透し、人々はブロックチェーンの概念を理解し始めているところだと考えています。
(Tomonobu Ibe)ブロックチェーン技術を実世界の活動に応用することを真剣に考えるなら、「Web3」の人たちだけでなく、普通の人たちからWeb3業界、暗号通貨のイメージを向上させることが必要だと考えています。私のような普通の人たち、他にも地方の農家、アフリカの銀行口座を持たない人たち。そんな人たちが、知らないうちにこの先端技術を日常生活で使っているような未来を考えています。
また、私たちは、「ポンジ・スキームのトケノミクス(トークン分配)」をなくすことがとても重要だと考えています。難しい話ですね。 それを語るには、「ポンジ・スキームとは何か」「ポンジ・スキームはなぜ起きるのか」を知る必要があります。
これは技術の問題では全くなく、金融・経済的な価格理論の問題です。言い方を変えれば、これ以上ポンジ・スキームを作りたくないのであれば、実際の生産活動と結びつかない暗号トークンの発行をやめ、現実世界の生産活動を起点としたトークンの発行のみを行うことにしましょう、ということです。そうすれば、トークンの価格は、投機ではなく、生産活動の規模によって決定されることになります。
私たちのプロトコルは、このような問題をコントロールするために、非可換トークン(Non-Fungible Token / NFT)ではなく、譲渡不可能なトークン(Non Transferable Token / NTT)をいかに使うかを考えています。単に「譲渡可能」という特徴が投機の起源であるため、Non Transferable Tokenの運用方法をサポートするのが私たちのプロトコルの基本設計であり、強みであると考えています。
— Web3において、実世界のアプリケーションを生み出す時に課題になることとはなんでしょうか?
まずはIbeさんいかがでしょうか。
(Tomonobu Ibe)Non Transferable Tokenは、ポンジスキーム的なトークノミクスを排除するための「キーワード」であるとお伝えしました。これをオープンソースで開発し、実際の経済活動をプロトコルに乗せるということは、簡単ではありません。そのためには、まずとにかく強力なエンジニアリングチームが必要です。
その他に、現実の経済活動をプロトコルに乗せようとすると、当然ながらインターネットサービスの外にある現実世界に「トラストポイント」を設定する必要がある、という課題が発生します。基本的に、システムはインターネット外のトラストポイントを管理することはできませんし、プロジェクトの品質は、実世界のトラストポイントの品質によって決定されます。
このような課題があるからこそ、本当に現実世界でWeb3を使って何かを成し遂げたいのであれば、インターネットの外にトラストポイントが存在することをサポートする必要があります。
その上で、現実世界のビジネスオーナーやプロジェクトオーナーは、この技術を使いこなすために、様々な発想の転換をしなくてはならないでしょう。技術自体は、現実の経済を活性化させる魔法のようなものではなく、単なるツールに過ぎないです。
中でも、私たちは決済が重要な要素であると考えています。近い将来には暗号資産の中で、数少ない決済方法しか存在しないと思いますが(もちろんAvalancheはその1つだと考えています)、暗号資産の世界でどの決済方法がベストなのか、私たちのプロトコルでは一つの立場を取らないようにしています。そこは今後も考えていくべき重要な課題になると思います。
— 次はSeanに聞きたいと思います。Chainlink にはたくさんのアプリケーションがあると思います。「導入事例の拡大(Adaption)」に影響があるものをあげるとしたらどんなものがありますか?
(Sean Chung)ステーブルコイン、例えばUSDC、USDTのような安定したトークンがたくさんあります。
例えば、あなたがブロックチェーン上で流通している1000TUSDを持っている場合、銀行口座に1万ドルの残高がある必要があります。そのため当社では、代理店と連携して、常に銀行残高をチェックし、トークンの数が持つべきドルの価値と一致することを確認しています。
また、入札とロックの機能があり、たとえば100ドル以上のステーブルコインを入札する場合、銀行に追加で100ドル必要になります。その後、残高を確認してからトークンを発行できます。これにより、発行されたトークンが実際のドルに対応していることを確認できます。
別の例として、天候データなどの外部データを使用してアフリカの農家向けの保険を提供する保険商品があります。農地が定期的に干ばつに見舞われた場合、保険金を請求する必要があります。保険金の情報はポータルを介して取得されます。
また、ブロックチェーンには、検証可能なランダム関数という機能があります。これは、暗号学的に証明可能なランダムな数値を生成し、トランザクションIDの証拠としてチェーン上に書き込むことができます。
— AWSには多くのアプリケーションがありますが、アプリケーションと一緒に実世界との接点を解決する課題も解決できますか?
(Ian Holtz)いくつかのユースケースについて言及させてください。まず、私の視点から言えるのは、契約が必要なものはすべてブロックチェーンのユースケースだということです。結婚証明書、タイトルの所有権、不動産取引などもそうです。
例えば、アメリカのどの州よりも人口の多いカリフォルニア州では運転免許証の識別システムのテストが始まっています。このように契約に基づいた良い事例はたくさんありますが、メインストリームとしての導入に向けた課題はまだ多くあります。
その課題を挙げます。
まずは、「相互運用性(interoperability)」です。これは、今年特に注目されている大きな課題です。チェーン同士や州同士など、プライベートチェーン同士が通信する方法を確立することが、ブロックチェーンにおいて普及するために必要です。
2つ目は「規制」です。これは参入障壁にもなっています。Web3技術を使えば、全てが完全に分散化されるという理想郷のように聞こえますが、より大規模にこの技術が活用されていくためには、規制が必要です。
東南アジアに多くの企業が拠点を移しているのは、これが理由です。韓国や香港も例に挙げていましたが、その他EUやインドネシアにも優れた枠組みがあり、成果を上げ始めています。
3番目は「セキュリティ」です。政府機関や大学などの大きな組織への導入を後押しするためにも必要です。近年、この業界で何が起きたかは誰もが知っていることでしょう。私たちは、多くのパートナーとセキュリティを構築し、スマートコントラクトの監査を提供するセキュリティサービスを行っているパートナーとの関係を構築しています。
ウォレットやスマートコントラクトでは、常にハッキングが発生しています。そして、この技術を使って実現したい未来のストーリーを広め、より大規模な技術導入の実現をしていくにあたってハッキングは妨げになっています。
— Seanはどう思いますか?たくさんの機関と会話をする機会があると思いますが、どんな課題が見えていますか?
(Sean Chung)私たちのブロックチェーンは変更不可で、非常に安全です。しかし、ブロックチェーンが現実世界と接続されていないと、全く利用価値がありません。私たちは分散型の方法を用いた世界で生きていないので、このコンセプトに慣れていません。
例えば、東京の温度やビットコインの価格を確認したい場合、インターネットで簡単にその情報を取得できるので、これらの情報が自然に私たちに受け入れられています。しかし、これらの情報をブロックチェーンに配置する場合、話は全く異なってきます。
また、遅延やエラーなど、技術的な問題もたくさん出てくるため、エコシステムが成長することは不可能です。仮想通貨価格、株価、ブロックチェーンの高さ情報、天気データ、IoTセンサー情報などが含まれます。現実の世界のデータをブロックチェーン上に取り込むことがアプリケーションを作成する上での課題になると考えています。
— Web3技術と現実世界とは、今後どのようなコラボレーションを生み出していくことが理想的なのでしょうか?
(Tomonobu Ibe)私たちのプロトコルは、現実世界でのあらゆるビジネス活動や文化活動をサポートするものなので、現在主流となっているWeb3の技術や使い方からは少し離れ、世の中のインフラになれるようなプロジェクトであることが望ましいと考えています。
クエストリーは、すでにエンターテイメント業界や地方自治体、大学との提携実績があります。将来的には企業やプロジェクトなどとの提携も増やしたいと思っています。そして、私たちが扱う問題に沿っている経済的なプロジェクトであれば、どんなビジネスでも適応可能です。
また、支払い方法に関しては、ステーブルコインが非常に重要だと考えています。旅行においてもステーブルコインが使われるようになっているようなので、安定したステーブルコインを持っている企業と協力することが望ましいと考えています。私たちは今後、このトピックについても検討していく予定です。
(Sean Chung)政府との大きなプロジェクトもありますが、並行して小さなプロジェクトも推進しています。また、ステーブルコインについても準備が必要だと聞いているので進めていきます。
Ianは「相互運用性」に関して、話してくれましたがこれは非常に重要だと思っています。私たちはCCIPというクロスチェーン相互運用プロトコルのソリューションをリリースする予定です。これは、クロスチェーンメッセージングやトークンの移動にとても重要です。
これにより、マルチチェーンのNFTを立ち上げたいゲームや、マルチチェーン環境で動作する他のゲームとの協力が可能になります。
また、私たちは主要な銀行と協力し、アメリカや他の地域においてクロスチェーンの相互運用性を試すための取り組みを始めています。よろしければこのパネルディスカッションの後にお話ししましょう。
(Ian Holtz)コラボレーションは鍵となると思います。私たちは、グローバルな規模でアカデミック研究機関同士が話し合うことや、スタートアップ企業や開発者を受け入れることなど、多岐にわたる協力を進めていくつもりです。私たちは、グローバルなコミュニティでの協力が非常に重要だと考えています。
現在、多くの分野での協力が不足していると感じています。しかし、過去2、3年間で採用が進んでいることや、グローバルな規模でスタートアップが相互協力を行っていることなど、協力があらゆるレベルで進んでいることを確認しています。多様な研究分野の協力の次には、パートナーシップが重要だと考えます。AWSはパートナーシップにも大きな影響を与えています。顧客同士の紹介なども行います。
しかし、ビットコインを自国の通貨に取り入れるような国もあれば、そのまた隣の国ではビットコインが違法とされているようなケースもあります。だから、各国で受け入れられる規制枠組みのグローバル化も重要です。また、ベンチャーキャピタルへの投資も重要です。前年よりも多く見られるようになってきましたが、まだ必要になってくると思います。
クエストリーに関するお問い合わせ
代表の伊部への登壇や取材のご依頼、その他Questry Protocolに関するお問い合わせは、下記から受け付けております。お気軽にご相談ください。
https://form.jotform.com/223582402718051
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