ベトナムで建設される石炭火力発電所は本当に止めるべきか
ベトナムのハティン省で建設予定の「ブンアン2」石炭火力発電所。これの融資を止めるべきと声を上げる若者が話題だ。声を上げた人の中に環境活動家として有名なグレタ・トゥーンベリさんがいる事もあっての事かもしれない。
ベトナム語で日頃から情報収集をしてるとはいえ、エネルギー事情には詳しくない。しかし現地の電力事情を多少は知っている身としてはいい機会と思って色々調べてみた。
持続性=環境保護偏重 になってないか?
そもそも今回の抗議活動の旗印となっている「SDGs」、日本語だと「持続的な開発目標」だが、これは経済成長とのバランスがその前提になっているものではないのだろうか。
これまでの経済成長偏重で、地球環境の破壊につながったことを反省してできた目標であるはず。SDGsを旗印に環境保護に偏重しても、それは過去の反省を活かしたことにはなってない。
環境破壊が若者の未来を奪うように、経済の低迷と貧困もまた若者の未来を奪う。電気インフラのニーズは今後も伸びると予想される中、ベトナムをはじめ途上国は国内の電気料金をなるべく上げずに、供給量を伸ばさなければいけない、という難題に直面している。
ベトナムの発電事情を調べてみると、ブンアン2石炭火力発電所が環境保護をないがしろにしているとは思えない。そんな実像が浮かび上がってきた。
電源構成比、発電量を比べてみた
国内の電力をどの燃料で発電しているか。それを比率にしたものが電源構成比だ。ベトナムの数字を出す前に日本はじめ世界各国の状況を見てみよう。
画像引用:電気事業連合会「発電設備と発電電力量」
石炭火力発電の世界平均が38.0%に対しベトナムは36.1%。決して突出して高い数字では無い。2030年までの計画では32%以下にする目標を掲げており、その割合を減らして行く方向性だ。しかもベトナムの石炭火力での発電量は年間20GW(ギガワット)。日本の半分、インドの10分の1、中国の45分の1以下。全世界の1%程度だ。*1
また「ブンアン2」発電所は数字の通り、稼働中の「ブンアン1」そしてが計画中3,4もセットになっている。しかし石炭発電は2で打ち止め。「ブンアン3」は計画段階では石炭発電の予定だったが、LNGに切り替えている。*2
つまりベトナムは環境負荷を全く無視した発電計画を進めている訳ではない。再生可能エネルギーによる発電も2030年までに21%、水力発電を合わせれば39%を占める計画を既に発表している。*1
ギリギリの電力で経済を支える
今後ベトナムの経済成長に電力は不可欠。「ブンアン2」は環境負荷が高い、それだけをもって批判することは短絡的だ。古く、環境負荷が高い発電所を新しい発電所で代替し、経済成長とともに環境負荷が比例して増えていく事を避ける。その為にベトナムは取れる選択肢の中で常にバランスを取ったものを選んでいるように思う。
しかもベトナムは電力ニーズの増加が激しく、災害等に備えた予備発電力がほぼない状態であり、万が一の事故や災害ですぐに電力供給力が足りなくなってしまう状態にある。これは今後も続くと予想されており、この事を考えれば石炭火力発電所はもっと増やしたいはずだ。
石炭はなんと言っても安い。安定的な供給もできる。「ブンアン2」の建設は環境負荷低減を考えるとベストな選択肢とは言えないかもしれない。しかしベトナムが国内の電力需要に応えつつ、電気料金も抑え、その中で環境負荷低減を考慮し、石炭火力発電所の数を絞る。長期的、持続的な視点で見たら前進と言えるのでは無いだろうか。
「ブンアン2」だけ切り取るな
バランスを取るのは手間だし、時間もかかる。地味で目立たないし、どっちつかずとの批判を浴びる事もある。「ブンアン2」だけを切り取ったらたしかに環境に優しくないように見える。しかしそれを中止に追い込んだ所で、既に稼働している有害物質排出量の多い発電所は止まらない。
ベトナムの電力事情は英語でもソースを見つけるのは難しい。しかし現地の事情を考慮せずに一つの切り口だけで批判をする事は事態の前進にはならない。私はバランスを考慮したベトナムの判断・選択を応援していきたいと思う。
参考、ソース:
ソース
*1:Vai trò của nhiệt điện than trong hệ thống năng lượng quốc gia
*2:Xây nhà máy Nhiệt điện Vũng Áng II công suất 1.320 MW
参考
Kế hoạch Năng lượng sản xuất tại Việt Nam (Phiên bản 2.0)