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私的、青春が美しい理由
2009 年春。AKB48 というアイドルに僕等はぞっこんだった。なぜかは考えた事もない。 ただ新曲が出ればすぐ聞こうとしたし、野菜ジュースは「毎日これ一本」、お菓子は「ぷっ ちょ」を欠かさず買っていた。そんな中「10 年桜」という曲がリリースされた。PV は当時 のメンバーの 10 年後の回想シーンから始まり、大島優子は妊娠していたり、超〜といった 言葉や、プリクラも昔の産物になっていたりするという設定だ。うぶだった僕等は大島優子 が妊娠しているという設定だけでも心臓をキュッと掴まれるようにショックだったのを覚 えている。そんな PV を観て当然、僕等も僕等の 10 年後を想像していた。3 人ともいろい ろな意見が出ていたが、一致したのは「10 年後もきっと俺たちは AKB48 が好きだよな!」 という事だった。まさしく AKB48 は僕等の青春だった。
2018 年年末。帰省した僕は久しぶりに彼らと会うことになった。笑いのツボや価値観が 似ている僕等は、まるで中学生の時に戻ったかのように遊んだ。彼らといれば、ステーキハ ウスさわやかの 300 分待ちだって面白いし、好きな人の話なんかになればもっと面白い。 まるであの時に戻れたような感覚に陥った僕は、二人にこう質問した。
「まだ 2 人は AKB 聞いたりするの?」
「いやー聞かないね!」
うん。それもそうだよな。
「何聞いたりするの?」
「AAA とか、三代目とかかな。」
「西野カナがいいんだよ。」
ぐぅーっと、現実に引き戻された気がした。確かに、僕も今では AKB なんて全然聞かない。 そういえば、車の中では、AAA が流れていたっけ。聞かないなんて事はわかっていたはず なのに、なぜこんなになんとも言えない寂しさに襲われるのだろう。それは、二人が変わっ てしまったことに対する寂しさだった。まるで自分だけが取り残されたようだった。
そして 2019 年春。前田敦子が子供を出産したというニュースが流れた。それは「10 年 桜」の発売日だった。その瞬間。中学生時代の記憶が僕の脳内を包み込むように蘇ってきた。 「もうあれから 10 年経つのか。」 「そういえば、メンバーの中で誰が一番早く結婚するかとか話したな。」中学時代を思い出し、胸がキュンとなった。しかし。前田敦子の出産にはなんの感情もわか なかった。10 年前の自分では考えられない感覚だ。つまり、2 人と同じように当の自分も 10 年前とは大きく変わっていたのだった。
私が思うに青春が美しい理由は、それが永遠ではないからではないか。物事に終わりは 来るし、人も変わる。でも、それを認識できて初めて、恥ずかしいくらいに AKB に熱中し ていたことも、「10 年後もきっと俺たちは AKB48 が好きだよな!」と自分たちが変わらな いと思っていたことも、美しく、愛おしく、胸がキュンとして感じられていることに気づい た。いつか年を経 て20代前半を思い返す時、きっとわからなかった感情が込み上げてくるの ではないだろうか。