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メディカル・ツーリズムで日本を訪れること(2) 人間ドックで日米の文化の違いを内省した

また間は空いてしまったが今回はメディカルツーリズムとして日本で人間ドックを受けた経験について書きたい。


はじめに

メディカルツーリズムとは治療目的で他の国へ旅行することだが、アメリカ在住の私は、日本にそれ目的で帰ってくることがある。前回はそのきっかけとなった出来事について書いた。

上記の記事で検便から潜血反応が出てあわや$4800を払って大腸検査を払わなければならない危機に陥った話を書いた。結局、あまりにタイミングの良い法改正のお陰で払わずにすんだのだがこの潜血反応の影響が今でもあるのだ。というのもそのせいで55歳の時にもう一度大腸検査を受けるようにという指示があったのだ。これは残念ながら自己負担である。
 
それでも忙しさにかまけて先送りにしていたが、主治医から何度も言われて流石に受けないわけにはいかなくなった。それで大腸検査も含まれている人間ドックを受けてみようと今回は日本に帰ってきた。
 
基本の女性用のプランに母と祖母がくも膜下出血で亡くなっているので脳のMRIとMRAや、食品アレルギーの検査も加えた。これでも13万円程度、ドルに換算すると$900以下だ。同じ検査をアメリカで受けるとしたらビジネスクラスに乗って、高級な寿司屋に数回行ってもお釣りが来だろう。貧乏性なのでエコノミーで帰ってきたが。

人間ドック当日


人間ドックを受けたのは東京の郊外にある実家から近い人間ドック専門の病院だ。当日、到着すると建物自体は結構古いが清潔である。そして受付の人、案内する人、説明する人と何人もの職員がスムーズな連携で対応してくれてほとんど待たされることがない。下にも置かない扱いというか、まさに「おもてなし」の心が感じられる対応だ。
 
またその日はレディースデーということで女性の利用者しかいなく安心できる。職員もほとんどが女性で、やはり婦人科の先生も女性だったことはありがたい。男性職員、医師も数人いたがみんな親切で感じが良い。
 
血液検査、聴力検査、心電図、視力検査などが手際よく進められていく。いい意味でベルトコンベアーに乗せられた感じで、自分では次にどうしようと考えずに身を委ねていればいい。

看護師さんの優しさに身を委ねる


そして看護師さんたちがとても優しい。血液検査では「はい、ちくっとしますよ」「痛くないですか?」「大丈夫ですか?」と常に声をかけてくれる。いや、アメリカでも看護師さんは同じような声かけをするが、あくまでもプロフェッショナルなトーンである。それに比べると日本の看護師さんたちの声色はお母さんが赤ちゃんにかけるように甘い。私よりずっと年下の看護師さんが多いが、私はその優しさに身を委ねる赤子のような気持ちになってくる。日本に帰ってきた甲斐があったとつくづくと感じた。
 
しかし優しさはそれだけで終わらなかった。胃カメラを受けるために診察室に入ると、先生は若くて優しそうな先生で、私がハワイに住んでいるとわかるとハワイ島についての雑談もするような日本ではちょっと珍しいほどフレンドリーな先生だった。ますますリラックスして横になると、先生が鼻から胃カメラを入れる。「あ、スッと入りましたね」と言われてさらに安心する。
 
そして胃カメラが鼻から喉を通っているとき、ふと気づくと背中に人の手を感じた。「あれ、なんだろう?」と一瞬戸惑ったが、私がリラックスできるように看護師さんが背中を撫でてくれていたのだ。あまり緊張しているとは思っていなかったが、やはり人の手の温かさを感じると体が緩んだ。特に私が緊張していたわけでもないので多分、誰にでもしているのだろうが、まさにかゆいところに手が届くサービスだ。

このサービスはアメリカ人に受け入れられるか?


その優しさに身を委ねながら、これはアメリカでは絶対にないサービスだと思った。アメリカでは独立、自立を大事にする。そのためより良いサービスとはそれぞれが自分が求めているものを選択できることだ。例えばアメリカでカフェラテを選んだら、カップのサイズはもちろんのこと、カフェインありかなしか、エスプレッソは何ショット入れるか、普通の牛乳か低脂肪かはたまた豆乳かなど数々の選択肢の中から選ぶことになる。慣れない頃は私は「なんでもいいからカフェラテをくれ!」と叫びたくなった。
 
また独立を大事にするために特に男性は日本の男性よりも精神がマッチョである。だから自分が選択もしていないのに(同意をしていないのに)、誰かが背中を優しくさすってくれるのは、1)自分の選択を尊重されていない、2)自分が弱いものとして扱われている、と受け取って侮辱と感じる人もいそうだ。
 
私の夫や義父はまさにそういうタイプだから、二人が日本で胃カメラを受けながら、背中をさすられギョッとしてよけい緊張している図を想像しておかしくなった。
 
今回の人間ドックで唯一残念だった点は大腸検査で小さな良性のポリープが見つかったが、その病院は検査に特化しているためにポリープを取ってくれなかったことだ。だが安さ、サービスの質、そして異文化体験ができて大満足の体験となった。

日本のメディカルツーリズムの可能性


今回の帰国前に日本に行く理由を話したら、日本で検査や治療に興味を持ったアメリカ人はたくさんいた。インバウンドの追い風もあるし、英語での対応ができて、上記のような文化的な違いに気をつけたらアメリカからたくさんの人が観光がてら人間ドックを受けたり治療をしに来たりするのではないかと思う。
 
実はたまたま帰国中に医者をしている親戚に会う機会があってそんな話をした。彼によると日本でメディカルツーリズムを呼び込もうという話はもう20年くらい出ているが政府も含めて誰も本気でやらないから他の国に遅れをとっているとのことだ。日本の高い医療の質や素晴らしいサービス精神などの資質がうまく生かせていなくて残念だ。
 
その親戚から、「リリコイちゃん、やってみたら?」と聞かれたが、私はビジネスマインドが全くないしもう残りの人生他にやりたいことがあるので「ハハハ」と笑って流した。でも若くて医療にもビジネスにも詳しい人がいたら一考してもいい可能性ではないだろうか?


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