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地方で車は甘え、からの 地方で車がない場合、を考えてみる。
1月半ばでしょうか、Googleのオススメに「地方暮らしは車がないと生活できないは甘え、自転車があればなんとかなる」というポストに対するいろいろなご意見のまとめが上がってまいりました。
たった一言無理だと言うことは可能なのですが、ちょっと具体的に見てみようかなと思ったので書いてみます。
まず、出て来たまとめはこちら。
自転車で日常の生活ができる距離/時間は?
たまに東京で地上を歩くと、けっこう高低差があって面倒だなと思うのですが、それは私の過去の出先が渋谷周りだったからでしょうか。(いやそんなこともないと思う)
大きめ盆地の京都でも、北向きに上がるのは、徒歩だとそんなに分かりませんが、自転車の人はしっかり分かるといいます。
それに比べれば東京の坂は激しいんじゃ・・・と思いつつ、田舎の山は更に本格的。
高校のクラスメートでちょっと小高い場所の方がいましたが、登校(下り)は自転車で20分、帰宅(上り)は40分と言っておられた記憶があります。
さて。
e-Statから、統計データをマップ上に可視化できるjSTAT MAPに参ります。
生活に必要なものというと、スーパー、職場、病院。
地方ではそういうものは既に郊外型・ロードサイド店舗と言われ、駅前にはないのですが、いったん目安として、駅から「時速12㎞・30分」で行ける(と表示される)場所を可視化してみます。
ざっくりしか触らないと思うので、今回は自分が資料なしでも実地である程度のことが分かる、富山県の西部を使用。
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jSTAT MAPでは、任意の位置を中心として、同心円であったり、車もしくは徒歩で何分圏内といったエリア指定を行うことができます。
車の場合一定の時速が必要になるので、今回は「徒歩」の時速を12kmとし、JR・3セク鉄道、またそこから漏れる私鉄(路面電車)の駅から30分の位置を可視化しています。
また地形が分かりやすいよう、マップ選択からGoogleMapの地形図を選んでいますが・・・たどり着けないところはやはり、山です。
なお、図左側の山の中に縦に赤い線が入っていますが、こちら石川県との県境。
人の居住の様子は?
では、この赤いエリアの外に人は住んでいるのでしょうか。
2020年国勢調査のデータを、3次メッシュ(1㎞四方)で重ねます。5次メッシュ(250m四方)の方が面白そうですが、重いと叱られますのでご容赦を。
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被せてみたところ、赤いエリア外にも人は住んでおられます。
(概ね青丸のエリアのところです)
ポストされた方は頑張れば自転車で生活ができるというご意見でしたが、病院に行きたい時に30分自転車を飛ばすのか、自分で?二人乗りで!?という話もあり。
この理論の背景には、地方の車社会がエネルギーを過剰に使用しているというような論調でいらっしゃる感じなんですけど、この病院自転車は実際無理なので、タクシーか救急車を使用しますね。
タクシーであればこの赤いエリアから来てもらって病院に行き、帰りも送ってもらったあとタクシーは帰っていきますから、自家用車1往復のところ2往復。「病人Aさんを病院へ連れていく」という単独の目的のためのエネルギー使用量は単純に倍、となります。
また、有料のタクシー代を惜しんで救急車を呼べば、その少ないリソースが不足するかもしれませんし、そちらはまた大問題です。
産業的には・・・販売農家を見てみますと
さて同じエリアに、今度は販売農家数を重ねてみます。
「販売農家」とは、農業系の統計でいう、よそに「出荷」をしておられる農家さんのことです。
スーパー併設の直売所でちょっと・・・などではなく、500万円以上の農家さんを選択して表示してみました。
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青以外のところには、年間500万円以上出荷しておられる農家さんが1件以上存在しています。
車がないとここの出荷品はリヤカー?馬車?とかいう話になります。
となれば新鮮な農作物が都会へ流通していくまではかなりの時間を要することになり、この方の表現を借りれば「都会で新鮮な生鮮食品が食べたいというのは9割甘え、加工食品があれば生活できる」となるかもしれません。
が、加工食品についても都会に工場があるとも限りませんし、工場までの輸送の時間がかかりますから、物価の高騰は必須でしょう。エネルギーというか、単純に「ガソリン」の使用量は減るかもしれませんけれど。
いや物流は別だろう、と仰る可能性があるので、それでは・・・ですが。
山間地にある出荷額の多い農家さんは、「養鶏場」「養豚場」「(肉/乳)牛の牧場」「山間地を利用した果樹園」の可能性が高いです。特に家畜系の農園は臭いの問題などから近代に入り山間地へ移動されているケースが多く、そこに住居をお持ちとは限りません。
すると、「そこへ通う」「家を建てて住む」という選択肢が出て来ます。
「通う」を選択した場合、自転車での通勤時間はかなりのものになるでしょう。
というより、自転車で上がれる坂には限界がありますから、徒歩(登山)かもしれません。
これを「通勤はビジネスだから社用車化」と言ってしまうと、地方の企業は基本こうした地域から通う社員への社用車貸与が必須としないと人が来てくれない可能性があります。
特に、「山間に工業団地を作ってしまった」場合の、居住地ではなく職場がこの赤いエリアから外れた位置にあるケースもある訳で、結局元々の理由である「エネルギーの無駄を減らす」ことには繋がりません。
また、家を建てて住むとした場合、人が住めるインフラを整えることになります。昨今のコンパクトシティ政策から考えても、「新たなぽつんと一軒家」を増やしてよいものかというところです。
ざっくりまとめ
ということで、かの方の主張はエネルギー使用減には繋がらないのですが・・・
地方では現在、公共交通が減っていき、またコロナの頃に観光や外食が減ったことでタクシー運転手も減り、という状況にあります。こうしたことのフォローのために、乗り合いタクシーだったり、シェアライドであったり、という施策が進んでいます。
高齢化が進んでいますので、免許返納が進むことはよいと思いますが、家に籠りがちになることは健康によい訳もなく、外出したいときに外出しやすいシステム作りは非常に重要です。
集住方向の施策は重要だと思いますし、個人的には住宅造成もすべきではなく、現存空き家の利用・建て替えが優先だと思っていますが、今山間地、いわゆる辺地・僻地に人が住んでいるのも事実、そこに不動産という財産をお持ちなのも事実。
今回のポストは正直議論にもなっていない感じですが(とはいえ別のまとめによると、勝利宣言なるものをなさったそうですが)、実際の施策づくりの場合には、いろいろなことを多角的に検証・理解したやり方が必要だと改めて思いました。
余談の余談
なお富山は大きな河川がありまして、これをまたいで移動するには勿論橋を渡る訳ですが、中には「国道」というものがございます。
国道は融雪装置(道から水が出るアレ)ではなく、凍結防止剤散布と除雪車対応のため、必然的に排雪が歩道側によって根雪になります。
通学高校生の自転車は歩道を利用していますが(むしろ歩行者はほぼいない)、こうなると「雪が残って細くなった車道の端を自転車で通る」か「固い排雪が堆積し数十センチ高さが上がって、端のガードが膝程度の高さしかない橋の歩道部分を、冬の河川上の吹きっさらしの強風に吹かれるリスク込みで徒歩で歩く」ことになります。
まあ実態は、保護者の送迎になる訳なんですが、その保護者から車を取り上げると言われたら、ねえ、ありえないって話になりますよね、もう。