一般相対論は、紙1枚で理解できる
一般相対論は難しいと言われていますが、そのアイデアは紙1枚だけで理解ができます。ただし紙1枚分の計算で理解できるという意味ではありません。紙1枚を使って空間の曲がりをシミュレーションすることで理解できるという意味です。一般相対論は空間を3次元ではなく、2次元にしたモデルでみると簡単になります。このモデルはアボットが書いた『フラットランド(Flatland: A Romance of Many Dimensions)』に出てくる世界にも似ています。
紙を一枚持ってきます。紙の内部の世界は平らなため、図の赤い線のように2本の直線を平行に書き出すと、ずっと交わることはありません。これをこの2次元世界の中を運動する粒子の軌跡と思いましょう。
一般相対論のアインシュタイン方程式は空間次元を1つ落とすことで、この「フラットランド」でも考えることができます。その解をみると、物質が存在しない場所は曲率が零の平坦な空間のままであるが、物質(エネルギー分布)がある場所ではその空間が曲がってしまいます。例えば点状の重い粒子がフラットランドのある一点に存在するとしましょう。アインシュタイン方程式を解くと、その粒子を重力源として、その粒子の場所を頂点にする円錐形に世界全体が曲がってしまいます。時空曲率はその頂点だけ非零で、それ以外の場所では零(つまり局所的には平坦のまま)となっています。
この円錐にハサミを入れて展開すると、図3のように元の紙の一部を切り取った世界になっていることが確認できます。簡単のために図3では、切り取られた部分の角度を90度にしてあります。軽い粒子が進む軌跡の赤い線は確かに直線になっていることも確認できます。そしてもういちど境界をくっつけると、図2の円錐に戻ります。
一般相対論は重力を幾何学で理解する理論です。赤い線上を運動する軽い点粒子は、実は各瞬間にはただひたすら真っ直ぐに空間を走っているだけです。でも空間自体が曲がっているため、いつのまにか重い粒子からの重力を受けたように、図4のように平行だった2本の軽い粒子の軌跡が互いに交わるようになります。
境界を張り付けて、もう一度円錐にしたのが図5です。頂点の重い粒子が空間を曲げているため、平行に出発した赤い線の2つの軽い粒子はちょうど頂点の重い粒子に重力で引っ張られたように運動をして、軌道が交わっています。ただし図4で分かるように、この2つの赤い線それぞれは、この世界の中では直線になっています。2つのうちの上の赤い線は円錐の切り込み線を過るために折れて見えますが、それは見かけに過ぎません。粒子はその切り込み線に対して直交しながら切り込み線に入射し、そして反対側の切り込み線から、同じくその切り込み線に直交したまま出てきます。円錐上では2つの切り込み線は同じ線なので、粒子の気持ちになってこの通過を考えてもらえれば、切り込み線通過中も直線になっていることが分かります。
このように空間(一般には時空)の曲がりが、真っ直ぐ進んでいるだけの軽い粒子に重力として働くというのが一般相対論です。粒子の運動を変える力としての重力は本当は存在しておらず、曲がった時空の幾何があるだけなのです。図6のように、重力源となる重い粒子があちこちに分布していれば時空の曲がりも複雑になりますが、それを記述するのがアインシュタイン方程式になっています。
ここでは紙1枚、つまり空間二次元のモデルでお話ししましたが、空間3次元における一般相対論の考え方も基本的には同じです。重力という力が存在しているのではなく、曲がっている時空の中を軽い粒子達が局所的には真っ直ぐに進んでいるだけなのです。このように重力を時空の幾何に還元したのが、アインシュタインの功績なのです。一般相対論は難しいと言われていますが、美しいとも言われるのは、このような物理法則の幾何学化のためなのです。
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