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量子力学では、物理量の測定での乱れが波束の収縮を起こすわけではない。

前世紀には量子力学という理論に「観測問題」という欠陥があると言われつづけてきましたが、実際にはそのような欠陥も矛盾もないことが、現在では知られています。

また、これも現在でも誤解をしている人が多いことなのですが、不確定性関係を満たす物理量測定の乱れ(擾乱、じょうらん)が、「波束の収縮」とも呼ばれる波動関数や状態ベクトルの収縮を起こすわけではありません。粒子の位置xの測定において、波束の収縮が運動量の乱れの量Δpを生じさせているわけではないのです。

今回は改めて、その物理量の測定での乱れと波束の収縮にスポットを当ててみます。

例として、非相対論的な粒子の位置座標の観測を考えます。この場合、その粒子だけでなく、その粒子を観測する測定装置が必要です。そしてその粒子と測定装置はある時間帯だけ相互作用をして、その後に測定装置の中で、粒子の位置情報の信号の増幅が行われ、そして、測定装置のモニターにどの場所に粒子が見いだされたかが表示されます。

粒子の初期状態を|ψ>とし、測定装置の初期状態を|0>としましょう。そして、測定の相互作用が時間発展を記述するユニタリ演算子Uを生成しているとします。この測定装置は、今回は位置の測定を行うために、それ専用の相互作用が用意されます。位置が測られる測定装置では、粒子と測定装置の状態に対するそのUの作用が

(1)式:測定相互作用による粒子と測定装置の時間発展

となるように設計をされています。この相互作用の時間領域では、まだ波束の収縮は起きていないことに留意してください。(1)式右辺に出てきたψ(x)はまさにこの粒子の位置表示での波動関数です。なので、その絶対値の2乗は位置の確率密度分布を表します。

(2)式:粒子の位置の確率密度分布

ここで重要なポイントは、(1)式の段階で、運動量などの他の物理量の確率分布を乱す現象自体はすでに済んでいることです。測定のための物理的な相互作用が起きている間だけ、その乱れは起きています。測定装置が粒子から切り離れされると、粒子との相互作用も消えています。その後には、物理量の乱れの量はもう増えません。

乱れが発生し終えた(1)式の状態における粒子を測定装置が測定をすると、その測定装置のモニターには(2)式の確率分布で粒子の位置座標の値が映し出されます。その結果を観測者が見て、認知記憶をしたとき、その観測者にとっては、(3)式のような、粒子と測定装置の合成系の「波束の収縮」が起きるのです。

(3)式:観測者にとっては、相互作用が終わった後に波束の収縮が起きる

つまり、他の物理量への乱れが起きるタイミングと、観測者にとって波束が収縮するタイミングは、ずれています。

まとめると、乱れが起きた直後では、まだ粒子と測定装置の合成系は収縮していない(1)式の状態のままです。つまり、乱れは波束の収縮を起こしてません。波束の収縮は図1のように、観測者が測定結果を知ったときに初めて起きます。

図1:乱れが波束の収縮を起こしているわけではない

そして、後で起きるこの波束の収縮が、運動量などの他の物理量の乱れを粒子に起こすわけでもありません。観測者がモニターを見て、粒子の位置の結果を知ったからといって、その粒子の運動量の乱れの量Δpがその瞬間に生じているわけではないのです。この辺りを丁寧に考察しておくことが、無用な誤解を避けることにつながります。

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Masahiro Hotta
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