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DNAの複製と選好基底問題

我々生物は、DNAを複製することで生きている。一方で、量子力学では、量子複製不可能定理

任意の未知の量子状態に対し、それと全く同じ状態を複製をすることはできない

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8F%E5%AD%90%E8%A4%87%E8%A3%BD%E4%B8%8D%E5%8F%AF%E8%83%BD%E5%AE%9A%E7%90%86

が知られている。それではなぜ、量子力学に従うと思われるDNA分子の複製ができているのであろうか。それは、全ての状態が複製できないというわけではないからであろう。Wikipediaには、

複製の不可能性は、量子状態の任意の集合が持つ性質であると捉えることができる。ある系の状態が集合Sに含まれる事を知っているが、そのうちのどれであるかを知らないとき、他の系に同じ状態を作る事は可能であろうか? もしSの要素のそれぞれが互いに直交しているなら、答えは常にイエスである。そのような全ての集合について、系を乱す事なく、その正確な状態を確かめる実験が存在し、そして一度状態を知る事ができば、他の系に同じ状態を作る事は可能である。もしSに、互いに直交していない2つの状態が存在するなら、(特に、そのような対を含む全ての量子状態について)ここまでと類似の議論によって答えがノーである事が確かめられる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8F%E5%AD%90%E8%A4%87%E8%A3%BD%E4%B8%8D%E5%8F%AF%E8%83%BD%E5%AE%9A%E7%90%86

と書かれている。すなわち、複製可能なDNAの状態の集合$${\mathfrak{R}}$$は存在しえて、$${|\text{DNA1}\rangle \in \mathfrak{R}, |\text{DNA2} \rangle \in \mathfrak{R}}$$で、$${|\text{DNA1}\rangle}$$と$${|\text{DNA2}\rangle}$$が異なる状態であれば、$${\langle \text{DNA1} | \text{DNA2}\rangle = 0}$$ということである。また、$${\alpha |\text{DNA1}\rangle + \beta | \text{DNA2}\rangle}$$は、$${\alpha = 0}$$か$${\beta = 0}$$でなければ複製できないということである。

したがって、多世界解釈で考えることにすると(ちなみに、私は特段多世界解釈が望ましいと考えているわけではありません。)、宇宙の波動関数は、集合$${\mathfrak{R}}$$に属するDNAが存在し、それらの重ね合わせ状態のDNAは存在しない世界に分かれると考えられる。なぜならば、重ね合わせ状態のDNAの世界は、生物が生きていないからである。すなわち、生物が存在しない世界である。その世界は、その世界を認識する生物が存在しないので、存在しないのと同じであろう。

もちろん、全てのDNAが複製できなくても、一定割合以上のDNAが複製できれば生物は生きていける。ある割合で複製できて、ある割合で複製できないようなDNAの状態の集合があれば、そんな世界もありえるかもしれないが、存在すると積極的に考える理由も私は知らない。そのため、$${|a \rangle , |b \rangle , |c \rangle , |d \rangle \in \mathfrak{R}}$$として、宇宙が$${(\alpha |a \rangle + \beta |b \rangle ) \otimes (\gamma |c \rangle + \delta |d \rangle )}$$を含む状態であれば、$${|a \rangle \otimes |c \rangle}$$を含む世界、$${|a \rangle \otimes |d \rangle}$$を含む世界、$${|b \rangle \otimes |c \rangle}$$を含む世界、$${|b \rangle \otimes |d \rangle}$$を含む世界に分かれると考えるのが最も自然であろう(本稿で行う推論は(以後の記載を含めて、断定的に書いてあっても)この程度のものであり、本稿は随想的なものである。)。

複製できる異なる直交集合

$${U}$$をある恒等変換ではないユニタリ変換として、集合$${\mathfrak{R}_U = \{U|a \rangle \, |  \, |a \rangle \in \mathfrak{R}\}}$$を考えよう。$${\mathfrak{R}_U}$$の元は、我々が知っているDNAの重ね合わせ状態のDNAである。かつ、互いに直交しているので、複製できる。しかし、我々知っているDNAを取り巻く環境(水やDNAポリメラーゼ)では複製できないだろう。我々知っているDNAを取り巻く環境(水やDNAポリメラーゼ)で複製できるのは、$${\mathfrak{R}}$$の元であり、$${\mathfrak{R}_U}$$の元も複製できたら、量子複製不可能定理に反するからである。しかし、異なる相互作用を行う環境であれば、$${\mathfrak{R}_U}$$の元は複製できる可能性がある。

物理的(物理的に決まる)とは?

多世界解釈解釈には、選好基底問題あると言われている。例えば堀田さんは、

多世界解釈が抱える基底選択問題(線形性しかない理論で、脳の意識などの基底が自然に選ばれる機構が無いという原理的問題)

https://x.com/hottaqu/status/1430396317574987777?s=46

と書いている。日本語で選好基底問題に触れたものは少なく日本語の多世界解釈のWikipediaにも書かれていないが、英語のMany-worlds interpretationには、The preferred basis problemの項目があり、解消されたふうに書かれているところもあるが、完全にそうというわけでもなく、

This special role for measurements is problematic for the theory, as it contradicts Everett and DeWitt's goal of having a reductionist theory

https://en.wikipedia.org/wiki/Many-worlds_interpretation

と選好基底問題が説明されている。このように多世界解釈には、選好基底問題あるのであるが、しかし前述したように、現に我々の世界にある水やDNAポリメラーゼを前提にすれば、DNAが複製できるという理由で基底が選ばれて、世界への分かれか方が自然に決まる可能性がある。

「自然に選ばれる」というのは、物理的に選ばれると言い換えても良いだろう。我々が認識している水やDNAポリメラーゼを前提としてよければ、選好基底問題は解消され、世界への別れ方は物理的に決まるかもしれない。

しかし、我々が認識している水やDNAポリメラーゼがDNAの周りにあるというのは、物理的な要請ではない(物理的の意味を前段とは異なる意味で使っている。)。物理理論的に必須なわけではないのである。量子力学の理論がそうであることを要請しているわけでも理論と矛盾することもない(今のところ矛盾することは知られていない。)。私が認識する外界は、人工物を除くと自然である(自然という言葉も私は多義的に用いており、自然に決まるの自然と水は自然であるの自然は同じ意味ではない。)。水やDNAポリメラーゼは自然に含まれると言って問題ないだろう。その自然を前提とすると、世界の別れ方は自然に決まりえる可能性がある。

世界は今あるように分かれる

前節までの考察をかなり飛躍して一般化してみると、「多世界解釈における宇宙の波動関数の世界への別れ方は、今ある世界と同じように分かれる」ということができるだろう。特段、今の世界が物理法則で許容される唯一の世界ではないだろう。”たまたま“そうなだけである。そしてその“たまたま”は、少し後の時間にも継続される。いつ世界ができたのかはわからないが(DNAの複製が可能なことが唯一の世界への別れ方の決まりなのであれば、宇宙に最初にDNA分子ができた時ということになるが、そうであるとも限らない。)、特に物理理論の要請からではなく”たまたま“できた世界は、それと同じルールで複数の世界に分かれ続けていても不思議ではない。

その他、色々書くことを考えていたのだが、補足を書き足してみても、本稿は所詮随想レベルの考察でしかなく、書けば書くほど焦点がわかり難くなると思われることから、疑問感じることが多いと思われる本稿であるが、ここで筆を収めることにしたい。

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