walkeyサービス全体の品質を押し上げた、エンジニアの”越境”するスタンスとは。 Venture Architect / Engineer:志和 敏之
2022年5月、“歩行100年時代”の実現を目指す歩行専用トレーニングサービス「walkey」(ウォーキー)がローンチしました。これは大手医療機器メーカーである朝日インテック株式会社とquantumが共同で立ち上げたプロジェクトです。
このローンチにあたり、朝日インテックとquantumは合弁会社である「株式会社walkey」を設立。代表取締役社長にはquantum出身の渡辺達哉が就任しました。
朝日インテックの技術力を活かしたトレーニング機器だけでなく、東京・自由が丘のラボや専用アプリを活用した総合的なトレーニングサービスを提供する「walkey」。朝日インテックにとっても、quantumにとっても、新たな事業への挑戦となった同プロジェクトは、いかにして始まり、このかたちにいたったのか。quantumメンバーたちの連続インタビューを通じて、その全容を紹介していきます。
第2回に登場するのは、Webアプリの開発を担当した志和敏之です。
デジタルの担当者として何ができるか
――志和さんはquantumメンバーの中でもかなり在籍歴が長いそうですね。
志和:quantumが会社として創業する前の2014年にジョインしましたので、もう8年ほどになります。最初はIoT関連の企画や新規事業開発に関して、技術まわりを見る役割として誘ってもらいました。
――それで「walkey」でもWebアプリの開発を担当されたわけですか。
志和:ただ、私のもともとの専門はアプリではないんですよ。前職ではパソコンのファームウェアという、ソフトウェアの基礎の部分の開発者をしていました。だから、今回も最初からWebアプリありきではなく、あくまでデジタル側の担当者として、何ができるかということをプロジェクトメンバーと議論しながら探っていきました。
――ということは、志和さんもプロジェクトの初期から参加されていた?
志和:はい、最初からですね。とはいえ、デバイスに関しては朝日インテックさん側の体制がしっかりされていたのと、quantumのプロダクトデザインチームが緊密に連携していたので、自分はWebまわりに専念しようと自然に役割がはっきりしていきました。
――本プロジェクトではquantumから様々な専門領域のメンバーが参加し、アイデアを出し合ったと聞いています。志和さんからはどのような提案を?
志和:「歩行100年時代を実現するためのサービス」というテーマが徐々に固まってきたこともあって、私からは歩行のライフログをとり、いろいろなサポートをしていくIoTデバイスのようなアイデアを出した記憶があります。
――これはquantumの特徴でもあると思いますが、企画職ではない人がアイデアを出すこともしばしばあるようですね。
志和:「walkey」のような、世の中にまだないサービスをつくるときには、何が正解かなんてわからないですよね。そういうケースでは幅広いアイデアを出すことが本当に重要だと感じています。たしかに私は企画職ではないですが、自分の専門領域も踏まえてアイデアを出すことで議論の幅が広がっていくという経験をこれまでにもquantumでしてきたことが大きいですね。
開発者が企画から参加するメリットとは
――しかし、例えば優秀なエンジニアのように専門領域に特化している人ほど、「まずは何をしてほしいのか言ってくれ」となってしまい「そもそも何をつくるのか」という議論に乗ってくれない問題が、新規事業開発の“あるある”エピソードとしてよく挙げられます。
志和:それは職人的な人ほどありますね。
――「要件定義をしてくれないとなんとも言えない」と。チームとしては特定領域の専門家だからこそ、その知識や経験を背景にしたアイデアを出してほしいのに、それができずにすれ違いが生まれてしまう。
志和:私に関して言えば、前職でも途中からは外部のエンジニアさんたちを統括しながら開発を進めていく立場だったので、自分の技術に職人的なこだわりを持つほどのところまでいかなかったということはあります。でも、これはquantumに転職した理由でもあるんですが、そもそもが「いろんな職種の人たちと新しいものがつくりたい」と飛び込んだわけなので、個人的にはまったく抵抗感がないんです。
――むしろ望んでやっているくらいだと。
志和:ただ、開発者として参加していることもあり、実現性がないアイデアは出さないようには気を付けています。あるいは、ちょっと難しそうなプロジェクトであっても、「こうしたら具現化できるのではないか」という提案と一緒にアイデアを出す。それがquantumにおける自分の役割ではないかと考えています。
――あくまで実装にこだわる。
志和:そうですね。プロジェクトの上流工程からしっかりと技術面をサポートしていく。「これなら確実にできる」までいかなくてもいいんですが、「どうやったらできるか」というイメージは持ちながら議論していかないと、どんなアイデアも夢物語になってしまいますから。
――技術畑の方が企画から関わることのメリットは?
志和:アウトプットがスピーディーになったり、試行錯誤のムダが少なくなったりするメリットはあります。ただ、実現性にこだわるあまり、アイデアの芽を「できそうにないから」と潰してしまうのではないかという恐怖感も常に持っています。
安易に「それは難しいですね」と言ってしまうと、そこで話が終わってしまうじゃないですか。だから、誰かが突飛なアイデアを出したときには、「こうやればできるかも」と背中を押してあげる。そうやってバランスをとることが大事じゃないかと思っています。
全体の中での自分の役割を考えることの重要さ
――今回のプロジェクトで一貫して意識したことは?
志和:アプリとしての完成度の追求よりも、「何のためにつくるのか」を常に意識していました。例えば当初は、AndroidやiOSといったスマホのネイティブアプリにすることも検討したんですよ。でも実証実験の段階で、時間と予算をかけてつくるメリットがないということになったんです。むしろWebアプリとしてつくってしまったほうが手軽だし誰もが使いやすい。それで現在のかたちに舵を切りました。
もちろん開発者としては、ログイン画面の処理にもっとこだわりたいなど思う部分はあります。でも、実証実験で知りたいことは、サービスに対するユーザーの反応です。限られたリソースの中でそこに集中するためには、ログイン画面なら「ログインできればいい」というところで仕様を切ってしまい、本当に検証したい部分に注力したほうがいい。そのうえでほかの部分は実際に動かしながら直していく。そういう方針で開発していきました。
――では、もっともこだわった部分は?
志和:まず、ユーザーが使いやすいように、は基本としてあります。それに加えて、トレーナーの方々にとっての使いやすさもこだわりました。
――それはなぜでしょう?
志和:このアプリは自宅で使ってもらうことを想定しているのですが、最初に使い方を説明したり、定期的にトレーニングのアドバイスを受けたりするのはラボなんです。そこでトレーナーの方々が扱う管理画面の使いやすさも、サービスのクオリティに直結します。だから、そちら側の反響もかなり気にしていました。
――つまり、ユーザーとトレーナーの両方のフィードバックを受けながらアプリの使い勝手を改善していったわけですね。
志和:実際、ラボではアプリだけで完結しない部分もあって、ユーザーからヒアリングするときに、トレーナーの方が紙にメモをして、それをデータに打ち直すという工程が入っています。ちょっと面倒に見えますが、現場ではこのほうがオペレーションはスムーズだということになったんです。
これは今までの経験上、たとえ開発側で使い方をイメージしてつくっても、実際に現場で使ってもらい、そのやり方に合わせて修正していくほうが結果として効率がいい。アプリ単体の完成度だけを追求しても、現場のオペレーションが煩雑になったら意味がないですよね。現場に寄り添って改善していくことが、結局はサービス全体の品質を高めることにつながるんです。
――それはデジタル完結ではない、リアルでの体験を中心にした「walkey」ならではの視点ですね。
志和:それこそ開発者がプロジェクトの上流工程から関わる意義なんです。これがどういう思想のサービスかと理解していなければ、全体の中でのデジタルの役割を考えることができません。Webアプリとしてはこうしたいけど、サービスとしてはこっちを追求するほうが大事だよね、という考え方です。そういう意思決定ができたのは、このチームならではのことだったと感じています。
――全体を見ながら自分の役割を考える、という経験ができたことは志和さんにとって大きかったですか。
志和:そうですね。普段のプロジェクトでは1人でアプリの開発や運用を担当することが多いんですが、今回は特にチームの中で自分の得意分野をいかに発揮するか考えながら働くことができました。quantumでは“越境“という言い方をしますが、「自分の担当はここだから」という態度ではチームとしてのメリットを生むことは難しいですよね。
実際、私もラボの担当者やUI/UXの担当者と密に連携して開発をしていきましたし、それこそ実証実験ではラボのパソコンやメールのセットアップだったり、無線環境の手配みたいなことまでやりました。自分ができることは担当分野にこだわらずやる。そういう考え方の重要性をあらためて教えてくれたという意味で、このプロジェクトは自分にとっても非常に価値があったと思います。
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