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エンタメのキッチンで日々考えていること

Mintoはアニメ・漫画などのエンタメビジネスをアップデートするスタートアップです。今回はコンテンツクリエイション本部の執行役員に就任した稲川がエンタメコンテンツを作る現場(キッチン)で、日々考えていることを記事にしました。

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突然ですが、NILE(ナイル)という化粧品ブランドをご存知でしょうか。
一昨年くらいからAmazonの主に男性の美容系カテゴリーを席巻し、2024年の今はAmazon上で大手化粧品ブランドをジャイアントキリングする勢いのブランドです。

この様な分析記事も書かれている、彗星のごとく現れたブランドです。

この記事中では「レビュー数、質」の他「なんとなく良さそう」ブランディングの妙が功を奏しているという見方がされています。初回購入における勝ち筋はそうでしょう。

一方で「情報と見た目のブランディング」で今に至るまで人気を保持できるものでしょうか。何がロングランの要素になっているかといえば「中毒性の高い手触り、感触」つまり情報や効能から得られる価値を超える「体験価値の高さ」がキモにあると感じます。

感じますと書いたのは、私も昨年、NILEのシャンプーを初めて使用したのですが、届くまで「セールの衝動でたかいシャンプーを買ってしまった。Amazonプライムデイはコワいなぁ。」と後悔すら覚えてました。が、いざ使ってみると想像を超える「指を押し返すレベルの濃密泡のムッチムッチな感触」と「圧倒的な泡量で頭を包まれる安心感」に一瞬で虜となり、これを味わいたくて、ふと頭を洗いたくてたまらなくなる衝動に駆られます。

さらにはシャンプーだけにとどまらず、例えば化粧水や泥パックなどにも、それぞれハマりそうな体験が含まれてます。おかげさまで、特にスキンケアに興味があるわけではないおじさんですが、無駄に肌が潤ってきました。つまり、効果を出すために頑張って続けるのではなく、中毒的な体験が先行して、ついつい続けてしまった結果、効能もついてくる。という状態です。

ちなみに、冒頭の記事画像はフェイシャルウォッシュの泡です。ちょっとの量でこの泡量。濃密泡をうたう商品は、女性向けを中心に今までもあったと思うのですが、この泡を体験すると、今までは効能の裏付けに必要な実用の範囲内で、この泡は実用からはみ出たやり過ぎ感でエンタメ体験に昇華しているみたいな印象です。つるとんたんのうどんの「器デカすぎてウケる」みたいな。

もう一つすみません。「とびだせ!きゅーびっつ」というおもちゃがあります。
昨年末、娘(小1)が「ヒカキンが配ってるおもちゃ」「動物にさわれるやつ」とサンタさんにおねだりしてゲットしてました。

こういう商品です。

ルールはたまごっち、体験はteamLabさんの展示を手のひらサイズに納めたような、空間に投影されたアニメ表現のデジタルペットに触れてお世話できるというなんとも不思議な体験です。ただ、不思議ではあるものの娘はあまりハマれず、「なんかピクミンの声おもしろい、オッチン、カワイイ。」とピクミン4へ興味がすぐにシフトしてました。

自分もお世話してみたところ、たしかに初見では不思議な感覚、感触なのですが、ところどころ技術が手段ではなく目的として組み込まれている印象の体験もあり、直感的にいつも可愛がりたい、お世話したいとなるには、子供向けにはもう少し体験を練り込む必要ありそうという印象を抱きました。ただ「デジタルに触れる」というワンアイディアで突き抜けるチャレンジ精神と意欲をとても感じる商品であることは確かです。
そして「I’m donut?」も「グミッツェル」も、不思議な食感を求める人たちの行列は絶えませんし、幕内力士も肌触り抜群のジェラードピケの化粧まわしで土俵入りする今日です。

何の話でしょう。

執行役員に就任した意気込みなどを書くようお願いされていたのですが、入社時にも書いた「直感をくすぐる中毒性の高いエンターテインメントの開発」が、最もやりたきことで、こういうことに集中できる環境をつくるために、Mintoのエンタメコンテンツのプロデュース&クリエイティブパワーを組織としてごりごりと高めていきたいと思ってます。

意気込みとしては以上で、冒頭の「体験価値の高い感触/手触り」の需要は年々高まっていると感じます。日常生活においてスマホやキーボード、マウスなどに触れてる割合が多く、平らな画面をこすったり、こづくだけで大抵のことが済ませられるので、手指をはじめとした身体が感じられる感触のバリエーションは、普段から意識をめぐらさないと着実に減ってます。私自身も、手指に感じる刺激が少なすぎて早々にボケてしまうのでは?という危惧から、食洗機をやめて手洗いに回帰しました。

村上春樹のハードボイルド作品の一コマに「左右のポケットに硬貨を入れ、感触だけで硬貨を判別し、並行して金額を数える」描写がありますが、作品が流行った当時は「一度は真似してみたくなる」仕草だったように思いますが、お金を触ることも少なくなったデジタルネイティブからしたら「意味わからなすぎて草」かもしれません。

日々感じる手触りや感触のバリエーションが減ったことの「体験」への飢え、リテラシーそのものの低下を招き、反動で「感触の体験価値」マーケットが発生し、YouTubeなどではグミなど食感のおもしろいおかしを食べる動画が度々流行っていましたが、その「隙間」はどんどん広がっているなと、改めて気付かされたのが、冒頭のNILEのシャンプーでした。

お風呂という日常生活の動線上にあり、説明不要で手軽で中毒性のある体験、そして効能もついてくる…今風に言えば「タイパに優れた体験」です。

加えて「とびだせ!きゅーびっつ」。

「触れるデジタル」という未来的な体験をおもちゃに実装できるレベルに廉価となったプロジェクション技術を用いて粗削りに叶えるチャレンジ。とても「粋」を感じております。自分はここまで、ワンアイディアで突き抜けられてないなと反省するばかりです。

Mintoではスタンプキャラクターを中心にさまざまなキャラクターを展開してきていますが、その中でもシンプルに「感触」や「気持ち良い手触り」を想起しやすい、「良いオノマトペを当てられる」コンセプトのキャラはグローバルで長く支持される傾向にあるように感じます。
私も、ずっと触ってたい!食べてみたい!クセになる!となる直感的な「シズる」とともに皆さまの感触に対する飢えを満たし続けるキャラクターや体験を産み出すべく、いろいろ画策していますので、ご期待ください。

百人前後のエンタメ業界のスタートアップにおける作る側の機能って?

感覚的な話が続きましたので、Mintoのような百人前後のエンタメスタートアップの組織におけるクリエイティブ/プロデュース寄りの執行役員の所感も補足的に。

Mintoは中小規模ながら「エンタメビジネスの総合商社」とも言えるような様々な表現、顧客、プラットフォーム、国々をドメインとしたエンタメビジネスを扱っている関係で、その台所となるクリエイティブ/プロデュース機能も和洋中なんでも作るレストランの様相です。

自分が組織から期待されてる役割は「ヒットコンテンツの再現性を組織的に高めること」や「コンテンツができること(収益を生み出せる使い方)を増やす」です。そこに近づくためにMintoのクリエイティブ/プロデュース組織をアップデートしていくことだと認識してます。

私の社会人歴22年の中では…i-modeバブルに始まり、ドラマ邦画、ソシャゲ、スマホ、サイネージ、YouTube、SNS、電子書籍、サブスク…と様々な新興エンタメバブルにあやかれましたが、昨今はスタートアップでもワンチャン急成長できそうなビッグウェーブが一巡した状況です。直近のAIやWeb3、メタバースなどもエンタメとして調理して、お客さまにおいしく食べていただけるまでは長い長い道のりです。

他方で日本のコンテンツマーケットは、円安も味方して海外を含め最も盛り上がってる状況です。ですので、今までコンテンツに何かしら新しい波に乗せたり、ジャンル特化で急成長できていた「搦手の波」は落ち着き、シンプルにどのプラットフォームでも生きれる強いコンテンツ同士が殴り合う、コンテンツ・イズ・キング状態がしばらく続くのではと捉えてます。

では、武器となる強いコンテンツは老舗大手 or 個人クリエイターに二極化している中で、そのどちらでもない我々のようなスタートアップはどのように振る舞えば、成長していけるのでしょうか。自分は以下の2点に着目して、それぞれ上手く回る組織になれたら、コンテンツ業界でユニークなポジションが取れるのではと、組織や戦略をアップデートしていっています。

1つ目は「エンタメ業界におけるブティック(コンサル)化」です。

エンタメ市場の拡大に伴い、様々なエンタメ外の業界がコンテンツをマーケティングのみならず、あらゆるシーンに活用の幅を広げていってます。一方で、エンタメ/コンテンツ企業と活用したい企業を結ぶパイプはまだ太くありません。経営/事業コンサル業界の方々も、エンタメビジネス領域の型の再現性の薄さ、その割に期待できる売上の桁数も高いプロジェクトも限られているので、参入には消極的です。この隙間にシュッとハマりやすいのが我々のようなスタートアップです。

自社のIP/コンテンツ事業・広告をはじめとしたコンテンツによるソリューションの2面をドメインとしているMintoは、自分らで武器を作って売るだけでなく、その経験から世の強力な武器を扱う武器商人として暗躍することもできます。制作、ライセンシング、広告、それぞれのブティックは既にかなりの数が存在しますが、それらを横断してワンステップで行える組織はまだ少ないです。

IP/コンテンツホルダーと非エンタメ業界の各社の温度感や慣習を踏まえたコミュニケーションでふんわりとしたリクエストを実現レベルに落とし込み、エグゼキューションとして、社内のクリエイティブ/開発機能でコアとなるコンテンツやサービスのMVPの開発までワンストップまで進められます。新規にエンタメ事業の構築をアシストする上で、ちょうど良いビジネス経験値、柔軟性、クリエイティビティを備え、自社事業レベルに高いコミットメントを持てるチームに対するニーズの手応えを入社以来の業務から得られたので、このラインを太く、よりスムーズに動けるようにしていっています。

2つ目は「強いコンテンツの素をチームプレイで産み続ける」です。

Mintoにはキャラクターを描くチームとWebtoonのスタジオがあります。
いずれもコンテンツの中では「素」となる「原作」「原案(設定/世界観)」の寄りのアウトプットを手掛けるチームです。自分のキャリアも、Mintoになる前身の組織を含め、前述での「何かしらのバブルや特定のジャンルに集中してのヒット」を狙ってきているので、スタンプ/スティッカー業界、Webtoon業界など、特定のプラットフォーム/ジャンルにおけるヒットコンテンツはかなり高い確率で産めています。

Mintoのような規模のスタートアップで、社内にこのようなチームを抱えられているのはかなりレアです。コア人材をインハウスのチームにできているところが良いと思っています。
コンテンツやIPは原作/原案に近しいほど「個人の作家性」に依存する性質ではありますが、いかに原作/原案に近しいフェーズで、チームプレイで作家個人の負担を分散し、有意義な部分に集中させられるかが、その後の展開の安定性を担保する上でとても大きな要素です。その点で、Mintoは0⇒1で産み出したものの1⇒10段階の安定性がかなり高いです。

一方で課題もあります。各チームで生み出されるコンテンツの多くは「特定のプラットフォーム/ジャンルへの特化」している関係で、そのプラットフォーム/ジャンル特有のクローズドなコンテキストをとことん攻めたりもしますので、そのジャンルでのヒットの再現性は高くなってきますが、その他のジャンルやプラットフォームへの横展開がスムーズにはいかない状況が生まれます。これは前述のプラットフォームを選ばない「コンテンツ・イズ・キング」な時代においては「弱いコンテンツ」と見なされやすくなりますし、実際に痛感してます。

この課題に対して「コンテンツの基礎体力を上げる」という取組みをし始めてます。私自身は、常にコンテンツ・イズ・キング思想で、今までのエンタメバブルも「既得権益をぶっ壊すぞ」よりは「キングの活躍フィールドを広げてく」という感覚で乗っかってきました。その多くは皮算用でしかないですが「どのプラットフォームからも愛される、重宝される」という観点で共通項を探るようなコンテンツの企画/プロデュースに従事してきました。その経験値をいかして、日々のコンテンツ・プロデュースおいて、特化すべきところと、キングを目指せる要素を可視化した上で、足し引きする視点を加えて「基礎体力の高いコンテンツ」を安定して生み出せるような体制づくりに取組みはじめています。

長くなりましたが、毎週日曜、娘ととちびまる子ちゃんやサザエさんのアニメを観ながら、サスティナビリティの権化のようなコンテンツを今の時代にどう作るかをうんうんしながら、頑張ってます。


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