信頼を返すこと
人に信頼されるのが苦手だった。信頼を寄せてもらうことは多かったけれど、過分な贈り物をもらったようで怖かった。
人は他者を信じるより、各々自分を信じるべきだとつねづね思っていた。
今年、人の背中を押したり、現状から引っ張り出したりする仕事を何度かした。
そういう干渉の仕方は暴力になりやすいので普段はなるべく避けていたのだけど、それが相手にとって必要で、私ならできるし、他の人ではできないと思うことがあったので、思い切ってしたのだった。
勇気を出してみて分かったのは、信頼はもらう一方ではなくて、利子をつけて返すことができるものだということだった。
あなたは私を信じるより自分を信じるのがいいけれど、それができないときに、あなたが私を信じていてくれるなら、あなたが信じている私があなたは大丈夫だと言っているのだから自分を信じていい、と言ってあげられる。
あなたが何かをする勇気が必要なときに、あなたが信じている私があなたにはできると言っているのだから踏み出せる、と言ってあげられる。
あなたが助けを必要としていて、私が手を差し伸べたいとき、あなたが私を信じてくれていればそれができることがある。
私の手を握り返して大丈夫だとあなたが思ってくれていれば。
信頼という贈り物は受け取っても大丈夫だ、それを相手のためにもっと大きくして返せるから、というのが今年の私の知見だった。
書いた人:川野芽生
この記事は怪獣歌会2019年12月企画記事の2本目です
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