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そんなことぐらいで不自由になるのかい?

肩や背中をポンとさわって「部長、それセクハラです」と言われ、ただの挨拶みたいなもんだし、励ましただけなのに、とぼやく人。浮いた噂の一つもない女子社員に「彼氏はいないのか」「結婚しないのか」「子供はほしくないのか」みたいなことを無自覚に聞いて、それもセクハラと言われ、これじゃ何もできないし言えないよ、不自由な時代だなとぼやく人。

そんなことぐらいで不自由だと感じるなら一度きちんと講習を受けた方がいいし、今の役職が本当に自分に相応しいものなのか考え直した方がいい。よく言われるけどそれは誤解・曲解だなと思っていることは「昔は許されたけど今はダメ」というもの。これ、日本語の使い方、間違ってます。今ダメなものは昔もダメだったの。でもそれを勝手に自分で許可してたの、セクハラしてた側が。昔もNGな行為だったものを己の権力や周囲の寛容さや社会通念の当時のリテラシーの低さに甘えて手を打たなかっただけなのだ。今も昔も嫌なモノは嫌なことに変わりはないので。

お笑い芸人の中でも毒舌やきつい突っ込みで笑いをとる人は今もとても多い。相方の頭を叩く人も多い。昔、ダウンタウンの浜ちゃんが大物だろうが女の子だろうが頭を叩くことを「忖度しない勇気」としてもてはやすような風潮があったけど、当時から「どつき漫才の流れでしかなく、これは古い笑いである」と僕はずっと思ってた。そもそも人の頭や背中や胸を叩いて笑いが生まれるなんて文化、日本ぐらいじゃないのか?知らんけど。

お笑いの系譜は綿々と受け継がれていて、今でも体型や容姿をいじる笑いは根絶するどころかむしろそれを売りにする女性芸人などの台頭もあり増える一方。女性がそれを「おいしい」と一言言うだけで免罪符になるわけで、それがセクハラをされて泣いてる女子社員に「触られたぐらいでギャーギャー言うなんて社会人失格」などとのたまう先輩女性の存在と同じくらい害悪となっている。また、こういうことを言ったり書いたりすると「言葉狩り」「表現の自由の侵害」と言われることもあるわけだが、こういうハラスメントを禁じられるとできなくなる芸なんかむしろなくなった方がよいのではと思うほど。

高校の頃、欽ちゃんは「下ネタで笑いをとらない」と言ってると聞いてそれはすごいなと思った。それくらい漫才やコントで下ネタを一切言わない芸人は少なかったから。ドリフを見て笑ってた子供の多くが志村けんや加藤茶が繰り出す下ネタに喜んでた。大爆笑の舞台の上でちょっと居心地悪そうにしている仲本工事や高木ブーのことは見えてなかった。とんねるずやダウンタウンなどの世代になると女性タレントにセクハラしてなんぼみたいになってしまう。それを乗り越えたから篠原涼子やYOUやキョンキョンや宮沢りえは偉い、みたいな話になりがちなのだけど。でも当時、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らに逆らえるタレントは少なかったはず。だから昔がOKで今はダメなのではなく当時も本当はアウトだったのに、それを見て見ぬ振りをすることで、演者も視聴者も共犯関係になっていたのだ。

もう昭和も遠くなった。体型や美醜や学歴や出身などをいじらなくとも、蹴ったり叩いたりしなくとも、セクハラやパワハラをしなくとも、純粋に芸で人を笑わせることができる芸人さんがいたら素晴らしいと思う。哀しいことにあまりイメージはないのだけど、きっとそのうち「えー、まだどつき漫才やってるの?古いね」とか「下ネタとかキツいよね、聞いてても」とか言われる時代がすぐ来るだろう。遅かれ早かれ。ま、できれば早いほうがよいのだが。


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