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「憧れを超えた侍たち 世界一への記録 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC」の感想文

侍ジャパンの映画、見てきましたよ。公開終了ギリギリだったので急いで。

結論から書くと、やはりベンチやその裏側にカメラがいるのはそれだけで魅力的。だって一般視聴者の誰も見たことがないシーンや会話が見聞きできる可能性が高いからそりゃワクワクしますわな。そういう意味では面白かった。僕もシニアのドキュメンタリーディレクターの1人として、1人で撮影してた三木監督の御苦労は容易に想像できる。実際僕も自分でカメラ回すけど最近は一日密着しただけでぐったり疲れるのに、あれだけの日数を1人で追っているのは本当に脱帽ものです。すばらしい。

とはいえ、ドキュメンタリーを作る側の立場の人間としてその構成や仕上がりがまったく気にならなかったかというとそんなことはなく、俺ならこうした、とか俺ならこうはしないな、みたいなところは正直いくつかあった。あれだけの苦労を経てつくられた作品に後出しジャンケンで文句言ってるように思われるのは残念だし、実際いい作品だったことは間違いないのであくまでこれは一応プロのディレクターの端くれとして感じたことを備忘録として記憶の確かなうちに書き残しておこうというものでそれ以上の他意は無い。それだけはあらかじめお断りして・・。

まず、ナレーションで窪田さんを使うとなんでもかんでも「情熱大陸」になっちゃうので俺なら使わないです。以前は企業VPつくる際でも、窪田さんのテイストが好きなご担当者が実際多くて、似たテイストで、というご要望ならまだしも、なんなら「窪田さん御本人にオファー出してくれ」と言われたことだって一度や二度じゃない。ということで、あの声はVPその他でも聞けるわけだから別に情熱大陸だけではないのだけどやはりあの声でドキュメンタリーやられると急にアサヒスーパードライのCMを連想してしまうので僕ならもう少し強い色がついてない人を選んだと思う。あとそもそもの手法としてナレーションで「説明」ではなく「心情」を代弁したりするのはあまり好きではないです。それは演出側が勝手に感じた心情であって本人が別にそう言ったわけでもないだろうから。なので僕は状況説明以外ではナレーションは使わないよう肝に銘じてます。好き嫌いはそれぞれあるとは思うけど僕的にはちょっと情緒的なナレが多かったかなと思いました。

その流れでいうと主題歌のあいみょんもそう。まあこのあたりは使った事情とかをJスポーツの中継の合間とかにケチャップさんとかと喋っているのを聞いてるのでまあ仕方ないかなと思いますが、一言でいうとやはり少しベタかなと感じました。

さらにこの「ベタ」という流れでいくと、後半の方とか特に、デカ文字系で太エッジのテロップがやたら出てくるのだけど、ああいう安い感じの夜のスポーツニュースの中のコーナーVみたいなつくり、視聴者の感情を煽るようなテロップが出てくると「ああテレビやな」と少しだけ冷静になってしまう。まさにあれだけの登場人物が筋書きのないドラマを繰り広げたのにベタなテロップは要らないだろうと感じました。また、ドラマチックなシーンでカキーンと打った瞬間にスッとすべての音を消すのも「ああ熱闘甲子園かぁ」と思っちゃうので個人的にはそこまで煽らんでもいいかなとは感じました。まあこのあたりはこういうベタなのが大好きな人もいるのはわかるので人ぞれぞれということでいいのではとも思いますけど。

あと全体的には、試合の流れをもう少し丁寧に見せるのかなと思ってたけど、そこはもう「お前ら、細かい試合展開は知ってるやろ?」とでも言いたげに大胆に割愛されており、意外にも勝負を分けたシーンとかが時系列に網羅されてるわけではないのでそのあたりは自分で「確かここであいつが走ったんだよな」とか記憶を補完していくしかありませんが、まあこれは三木さんがそうしたかったんでしょう。たとえ視聴者に不親切と言われようが自分の見せたいシーンのみに特化するぞ、と。

そういう意味では構成も少し不親切といえば不親切で、ラウンドを重ねて段々緊張感が出てくるようにシーンやセリフを丁寧に積み重ねていくというよりかはあくまで断片的なショットの積み重ねが多いので時間の経過とともに徐々に盛り上がっていくという流れにはなりにくかったかな。まそのあたりの受け止め方は人によると思うし、これだけ膨大な映像素材の中での取捨選択は本当に大変だったと思うのでこういう方針でやると決めて構成して編集されたのであればそれはもう外野がどうこう言っても仕方ないことですが、証言インタビューを効果的に挟んでいくとか、食事シーンとかオフショットとか本音や弱音のシーンをカットバックで入れてみるとか変化をつけたり少し時間を積み重ねてみるなどの手があったかもしれません。

それでも唯一、お、シーンとシーンを編集で意味もたせたなと思ったのは、ある若手投手のベンチ裏の涙。あそこで変に情緒的なナレーション入ったらどうしようかと思ったけどしっかり丁寧に見せてたのと、結局あれがあるから、ゲームセットの時のホッとした顔につながっていくいいシーンでした。あとは骨折した野手のエピソードもそう。ケガしました、はい残念でした、ではなくそれを後々まで伏線としてフォローしていくことも大事なのであれも良かった。そういう「意味のある連続性のあるシーン」はもう少し見たかったかな。断片的なショットの積み重ねではなく、もう少しシーンを重ねて意味をもたせてショットではなくストーリーに持っていければさらに楽しめた気がします。

スポーツドキュメンタリーって作り手としては展開が読めないぶん面白いし、だからこそ難しいところがあります。僕もあくまで番組の中のワンコーナーという形だったりはしますけど、今までに高校野球や大学ラグビー、箱根駅伝、サッカー、などいろんなスポーツ、いろんな選手に密着し、何本も作品を作ってきました。多少なりともスポーツを題材としたドキュメンタリーテイストの映像を作ってきた者からするとこの映画は面白かったし、こんな二度とない瞬間に立ち会えた三木さんが本当に羨ましいし、本当に素晴らしい仕事をされたなぁと心から思います。なのに自分ならこうするだろうなと考えてしまうのはいいドキュメンタリーを見たらいつも考えてしまう職業病のようなものです。たぶん他の映像作家さんも同じことを言うかもしれないけど。いつかまた僕も現役でいるうちにこんな作品に携われる機会がくればいいなと祈ってやみません。関係者の皆さん、本当にお疲れ様でした。

エンドロールが終わるまで席を立たないで、とケチャップさんが言ってたけど、ああそういうことかと笑いました。ああいうのも密着カメラならでは、ですね(^^)


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