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トルコ経済の体質を探る|トルコ経済の基礎認識 for リラ円ロンガー Part7

トルコ経済の基礎認識、今回はPart7です。
この記事では、以下を達成することを目的としております。

・トルコの政策金利、今後どうなるの?を解き明かす

Partで分けながら説明する理由は、Par1に記載のとおり。

今回は以下について記載します。

・トルコ経済の体質を探る

では、本題。

本編のPart2では、経済の体質の見極め方、これをnoteしました。
んで、需給ギャップを見ればいい、と説明しました。

しかし、トルコ政府は需給ギャップを公表していません。
やむを得ないので、他データを用いて想定します。

需給ギャップ

まず、需給ギャップの定義ですが、日本銀行によると以下のとおりです。

一国全体の財・サービス市場において、「総需要(実際のGDP)」が、景気循環の影響を均してみた「平均的な供給力(潜在GDP)」からどの程度乖離しているかを示す指標。

https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2017/data/ron170428a.pdf

これを計算式で表すと、以下のとおりになります。

・需給ギャップ( % )=(実質GDP - 潜在GDP)÷ 潜在GDP × 100

で、用いるべきGDPは「金額」なんですが、潜在GDPの金額データが無い。
そこで、前年比率( % )を代用することにします。

最新のGDP前年比は2.1%、2024年第3四半期のものです。
これを実質GDPの値とします。

次に潜在GDP。
こちらは平均的な供給力の予測値になります。
主な予測として得られるデータは以下のとおりです。

・トルコ政府が発表している2024年の成長率予測は3.5%
・OECD(経済協力開発機構)の予測は2.9%
・IMF(国際通貨基金)は3.0%
・世界銀行は3.2%

これらのうち、今回はIMFのものを用いることにします。
なぜか。

IMFは通貨危機の際に資金を貸し付ける機関。
様々な国の経済や金融政策を常に監視しているためです。
ちなみに、トルコ政府が出している潜在GDPは、良く見せようとしている可能性があります。
政治的な思惑からです。

以上から、実質GDPが2.1%、潜在GDPが3.0%となります。
なので、トルコの需給ギャップはマイナス。

トルコの需給ギャップはマイナスに転落

しかし、トルコが難しいのは、GDP前年比が四半期ごとに大きく違う点です。

先ほどの2.1%は2024年第3四半期のものですが、
・第2四半期は2.4%
・第1四半期は5.3%
と、かなり大きく揺れ動きます。

こういう大きな揺れは、外部要因によって大きく変化する「経済基盤の弱さ」に原因がある。
ただし、統計手法に問題が無いとすれば、の話です。

んで、この3期分の実質GDP平均は、3.27%。
この値を用いて需給ギャップを計算すると、僅かにプラスとなります。

また、それぞれの期で計算すると、
・第1四半期は需給ギャップがプラス
・第2四半期はマイナス
・第3四半期もマイナス
ということが分かります。

つまり、プラス圏からマイナス圏に転落しています。
経済の体質として強い、とは言えない。だって、第1四半期の大きなプラスから突如、急落するわけですから。
また、経済の体調も、下落傾向にあることが分かる。

トルコ経済の体質は強くなく、体調は下落傾向

次に、需給ギャップがプラスからマイナスに転じた背景を考えます。

直接的な原因は、実質GDPが潜在GDPを下回ったため。
出せるはずの力(潜在GDP)に実質GDPが届いていない。

では、実質GDPがなぜ、弱まったか。
経済を取り巻く環境が変化したからですね。

その変化。
この間で思い当たるのは、為替と金融政策。

まず、為替。

緩やかながらも確実にリラ安が進んでる。
リラ安が進むと、国富が流失し、国全体の購買力が下がります。
それに合わせて生産も縮小するので、実質GDP成長率が下がってきた。

あ、国富流失の原理、その説明は次回にするとして、続けます。

次に、金融政策。

政策金利を45%から50%に上げ、金融引き締めを強化しました。
お金を預けたら金利がよりたくさん付くようにした。
一方、お金を借りたらたくさんの金利を支払うようにした。

ということは、預けたくなるし、借りたくなくなる。
なので消費、つまり経済に下押し圧力がかかります。
それに合わせて生産も縮小するので、実質GDP成長率が下がってきた。

為替と金融政策の影響でトルコの実質GDP成長率は下落し始めている

ということで、マイナスに転じた背景は、為替と金融政策。
為替は外部要因なのでどうしようもない。

しかし、金融政策は政府がやるもの、つまり内部要因。
なんで、そんなこと、やっちまったのか。

それは、トルコのインフレがひどいから。

んで、トルコインフレの原因は、コスト増にあります。
トルコの産業構造は、第三次産業が7割を占めている。
第三次産業の主要コストは人件費。

んで、トルコは最低賃金をこれまで50%/年、上げてきましたからね。
人件費増を中心とした物価上昇を招く。

また、第二次産業の特徴は組み立て比率が非常に高い。
組み立て、つまり、ここでも人件費の増による影響を受ける。
んで、組み立て比率が高いということは、組み立て材料を輸入している比率が高いということ。
これらが、リラ安で高騰している。

なので、資材コストと賃金コストの増で、消費は過熱していないけど、インフレが高いということです。

あー、これ。
日本と似てる。

コスト増による物価上昇が発生し、インフレが継続中。
実際には消費の過熱感は無い。
だって、物がバカバカ売れて、物不足に陥ってるわけではない。
コメなどの一部産品は物不足になってますが、これはスポット的。
しかし、物価は上昇している。
なので、日銀は利上げスタンスを堅持。
インフレと言っても、戦後復興期のような需要増によるインフレではない。

ということで、需給ギャップの分析。
この1テーマで、トルコ経済の体質、十分に伝わったのではないでしょうか。

需給ギャップはPart2で申し述べたとおり、経済の体質を見極める上で、非常に重要な指標です。
日本では、日本政府と日銀が異なったアプローチで計算し、その結果を公表しています。
これが安定的にプラスなのか。
それとも、プラス圏とマイナス圏を行き来しているのか。
あるいは、マイナス圏に落ち込み続けているのか。

経済の体質によって、このような症状の違いが見られます。

トルコ経済の体質

さて、今回はトルコの需給ギャップを説明しました。
しかし、GDPは国家のマクロ経済を図る上での総合指標であり、実績値は四半期毎にしか発表されません。
実体経済と比べて、発表時期がかなり遅行する弱点があります。

月次で需給ギャップの印象を感じ取るにはどういう手法があるか。
これを次回、説明致します。

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