吸血鬼のポルノ事情 第一話
あらすじ
生殖の方法が異なれば性的嗜好も変わってくる。”感染”によって繁殖する亜人類”吸血鬼”の性的嗜好について研究するためカナダ人研究者の”キャサリン”は吸血鬼の国”二ホン”を訪れる。
昔馴染みの吸血鬼の友人”キョウコ”の元に滞在しながら、吸血鬼にとっての性的部位である口元やうなじを隠すためのマスクやネックカバーなどをファッションとして楽しみ、吸血鬼たちが好む映画や漫画などの各種メディアから吸血鬼独自の性嗜好の考察やそれに伴う表現規制の調査、吸血鬼向けアダルトショップに足を運び、吸血鬼向けアダルトサイトなどの関係者への取材を通してフィールドワークを展開していく。
本編
午後8時。
カナダのバンクーバーからの直行便の旅客機がハネダ空港に着陸した。
キャサリンは入国審査を受け、最後に試着室で二ホンのドレスコードに従いマスクとうなじカバーを着用する。
キャサリン「やっぱりマスクを付けると二ホンに来たって実感がわくわね」
鏡できちんとマスクとうなじカバーを身に着けられているか確認して試着室を出る。
キャサリン「微かに血の匂い……ここが”ニホン”か」
ターミナルに足を運ぶキャサリンは空港の広告を彩る多種多様なマスクをつけた美男美女の姿を見上げる。
モノローグ【わたしはキャサリン・べイカー 24歳の文化人類学者。種族:人間】
【ずっと心惹かれていた吸血鬼の国”二ホン”。その性風俗のフィールド·ワークが今日から始まります】
マスク姿で歩く人たちや広告、黒地に赤い満月の月章旗を興味深そうにきょろきょろと見ていると無意識に挙動不審になっていることに気付いてはっとわれに返る。
キャサリン「ダメダメ!いくらなんでもはしゃぎすぎ!」
冷静になったキャサリンが人波を見渡すと友人のキョウコと目が合う。オーソドックスなガスマスクを着けたキョウコが手を振ると黄色い声を上げて飛びつくように抱擁する。
キャサリン「キョウコ!久しぶり」
マスク越しに頬をこすり付けてくるキャサリンにキョウコは満更でもない。
キョウコ「おぅ、久しぶり!相変わらず大げさだな!」
キャサリン「おおげさにもなるよー!10年ぶりだもーん」
モノローグ【この素敵な吸血鬼の女性はキクチ・キョウコ。わたしの母の友人で子供の頃よく遊んでもらいました】
回想で幼少期のキャサリンと遊んであげるキョウコの姿が浮かぶ。家族写真にも一緒に映り、時間の経過とともに年を重ねていくベイカー家の人々と一切外見が変わっていない。
【今回の二ホン滞在では彼女に色々とお世話になります】
キョウコ「再会を祝して一杯やるか!酒飲めるよな」
大人になったら酒好きなキョウコと酒を酌み交わすことが夢だったキャサリンは目を輝かせます。
キャサリン「もちろん!二ホンのサケ!飲みたーい」
さっそく二人は空港近くの地下に広がる繁華街へと繰り出す。
道行くマスク姿の吸血鬼の男女にキャサリンは目が離せない。
キャサリン「動画とかで見て分かってたけど、本当にみんなマスクしてるね!」
好奇心に目を輝かせるキャサリンにキョウコは目を細める。
キョウコ「やっぱ外人さんの目から見ればそう映るか。オレら(吸血鬼)から見れば日常の風景だけどな」
キャサリン「じろじろ見るのは失礼と分かっても、物珍しくてついつい見ちゃう!あの女の人目元キレー!」
興奮してきょろきょろするキャサリンにくつくつとキョウコは笑う。
キョウコ「どうどう!落ち着け落ち着け!よし、あの店いいな。とりあえず一杯飲んで一息つくか」
キャサリンを落ち着かせるために観光客向けに夜も早くから営業している居酒屋に入り、二人はさっそく酒を酌み交わす。
キャサリン&キョウコ「「かんぱーい!」」
生ジョッキをマスク越しにストローで勢いよく飲み干します。
キャサリン「くぁぁぁぁ!ストローで飲むとキクぅ!」
キョウコ「かかかかっ!良い飲みっぷりだ!あたしに釣られて飲みすぎると明日がきついぞ」
キャサリンはさっそく注文した肴に箸を伸ばす。
キョウコ「はは、食べにくそうだなぁ。あーんしてやろうか?」
マスクの飲食用の開閉機能の使い方に慣れず、ぎこちないキャサリンを見守りながら苦笑を漏らす。
キャサリン「もぉ、子ども扱いしてぇ!うぅ!タコわさつーんってくるぅ!」
キョウコ「さて念願かなって二ホンの土を踏んだわけだが、フィールワークはどう進めていく?」
かちかちとマスクの開閉のたびに箸がつっかえて口元に食べ物を上手く運べず、難儀していい加減イライラしていたが、フィールドワークのことを聞かれると、速攻で機嫌を直す。
背景にVANZAとChu♥tubeのロゴを浮かべる(FANZAとpornhubをイメージ)。
キャサリン「そうだね!二ホンのポルノの最王手のVANZAに取材!アダルトショップも見て回りたいよー。Chu♥tuberの配信者ともお話したい。それからそれから」
オタク特有の早口が出てキョウコがストップを掛ける。
キョウコ「分かった分かった!それよりそのマスク、顔に合っていないんじゃないのか?」
キャサリン「うーん、そうかも、キョウコみたくスムーズにいかない……」
キョウコ「よし!じゃあ、明日はマスクを買いに行くか、いいのを選んでやるよ」
キャサリン「本当!わたし日本のマスク(下着)売り場、見て見たい!」
目を輝かせるキャサリンにキョウコは微笑みを返す。
キョウコ「決まりだな!オレの行きつけの店に連れて行ってやる」
キャサリン「ありがとー!この”本格風ブラッド・カクテルも頼むね」
キャサリンはメニュー表を指さすキャサリンに呵々と笑う。
キョウコ「おぉ!いいぞ!だが、だが、あくまで”本格風”に留めておけ、人間が本物を飲めば下手したら感染症にかかるからな。いるんだよ。馬鹿な人間の
若いのが度胸試しで本物の血を飲んで痛い目を見るのが定番だからな」
キョウコの忠告にキャサリンは素直にうなずく。
キャサリン「肝に命じとく、研究者って人種は好奇心が先行して危険なことに手を突っ込みがちだから」
飲みもそこそこで切り上げ、厄介になるキョウコの家で一緒にひのき風呂に入る。満月の下に趣のある日本家屋を描写する。
キャサリン「あー!気持ちいい!ヒノキのフレーバー!香ばしい!」
キョウコ「なはは!キャサリンは色々とでかいから湯船から湯があふれちまったよ」
向かい合ったキョウコが顔を掌で覆っていることに気づく。
キャサリン「やっぱり口元見られるの恥ずかしい?」
キョウコ「こっちからすれば昔から知った中とはいえ、年頃の娘が人前で口おっぴろげるなんて慎み欠けると思うぜ。吸血鬼の感覚だと」
キャサリン「あ、ごめん。わたしも隠した方がいい?」
はっとして口元を覆う、キョウコは別に気にしないと首を横に振る。
キョウコ「オレの前では気にしなくていいさ。ただ、この国の慣習やルールに従ってくれ」
キャサリン「もちろん!現地の文化を尊重することが文化人類学者の心得だからね!」
キョウコ「ふふ、さて、これ以上は人間には長湯になるな。久しぶりに川の字になって布団で寝るか」
キャサリン「むかしはママも一緒だったけど、今日はキョウコと二人だから”二の字”だね」
風呂から上がった二人は、キョウコの寝室に移動する。
朝日が一筋、カーテンから差し込んでいるのを見て、布団から起き上がってカーテンを閉める。
昼夜逆転の生活に慣れずに中々寝つけずに再び布団の中に入り目を閉じる。
薄目を開けて隣で寝ているキョウコが付けている就寝用の簡易マスクを見る
。
キャサリン(寝てる時もマスク……やっぱり徹底してるな。いやでも、人間でも寝る時はパンツは履くよね)
キャサリン(まだまだ、わたしの知らない習慣や風習、伝統があるんだろうな……いけないけない。これ以上、ワクワクしたら眠れなくなるから羊を数えよう……)
延々と羊を数える内にキャサリンは徐々に眠りに落ちていく。
そして、翌日。綺麗な三日月が浮かぶ夜。キョウコの行きつけのマスク専門店にやってきた。
キョウコ「大丈夫か?眠そうだぞ」
結局、興奮で中々寝つけず十分な睡眠はとれず寝ぼけ眼を擦るキャサリンは空元気で応えます。
キャサリン「ね、眠くなんてないです。マスク専門店……楽しみにしてたんですから」
キョウコ「はは、その調子だ。さて、ここがレディースマスク専門店”サンライト”だ」
キョウコはキャサリンに見せつけるように店の観音開きのドアを勢いよく開く。
キャサリン「わぉっ!店中がマスクマスクマスク……♥」
多種多様なデザインのマスクがキャサリンの視界に広がりキャサリンの瞳になるハートが浮かび頬に両手を当てて好奇心に目を輝かせる。
キョウコ「ふふ、眠気はすっかり醒めたみてぇだな」
キャサリンの喜色満面の様子を見てキョウコは微笑む。キャサリンはさっそくキョウコと共にうきうきで店内を見て回る。
キャサリン「このレザーマスク格好いいっ!」
キョウコ「着けてみるか?」
キャサリン「うん!キョウコはそっちのカラスマスクが似合いそう!」
キョウコ「おぉ!MIYABIの新作じゃないか!よっしゃ試着しまくるぞっ!」
ガスマスクからペストマスク、カラスマスク、鋲を打ったパンク風にドクロ型、地獄の鬼を模した変わり種まで様々なタイプのマスクを思うままに試着して楽しむ。
途中で試着室以外で無意識の内にマスクを脱ごうとして店員とキョウコに大慌てで止められる。
キャサリン「これ、素敵」
キャサリンは表面が陶器の様な光沢を放つ夜桜の柄の青紫のガスマスクに心惹かれて手に取る。
キョウコ「ほぉ~、形状こそシンプルだがセンスあるな」
キョウコは真剣な顔でマスクのサイズや可変機構をチェックしている姿を見て、キャサリンはキョウコに少し甘えたくなる。
キャサリン「ねぇ、キョウコ、そのマスク、わたしに着けて」
キョウコ「いっ!お前大胆だな」
キャサリン「……?」
きょとんとするキャサリンにはっとして頭を振ると唇を結び、マスクを装着する。
キャサリン「ワォ!ぴったり!これにする!」
キョウコ「そ、そうか。まぁ、追々教えていくか」
キョウコの煮えきらない反応にはピンとこなかったが、ついに目当ての自分の顔にあったマスクを見つけ、キャサリンは最後に店内をぶらりと巡る。
キャサリン「試着楽しかったー♥ん?このコーナーは……?」
試着を楽しみながら店を回っていると目立たない場所に隠れるように布マスクのコーナーを見つける。
キャサリン「あぁ、こういうカジュアルなマスクもあるんだ……」
心なしか布の面積が小さいマスクの中から心惹かれた蝶のマスクを手に取ったところでキョウコがやってきた。
キョウコ宅に帰宅して、あてがったもらった部屋で蝶型の布マスクを着用する。
キャサリン「わたしにはおしゃれのマスクにしか見えないけど、いわゆる勝負パンツ……なんだよね」
買った後にキョウコからどういう用途で身に着けるかについて教えてもらっていますが、いまいちピンとこない。
キャサリン「頭では理解できても、感覚は飲み込めない……でも」
キョウコから貸して貰った吸血鬼向けの恋愛漫画で昔の恋人の唇の色を官能的に語るシーンがあります。
キャサリン「恋人同士しか知らない身体の秘密を話す……これはセクシャルね♥」
キャサリンはマスク越しに熱い吐息を漏らして、うっとりとする。
モノローグ【未知の”吸血鬼のポルノ事情”の入り口にようやく触れることができた】
【まだまだ知らないことも理解しがたいこともあるけど根っこで共通する部分は確実にある!】
好奇心に漲るキャサリンのお腹が可愛い音で鳴り、キャサリンはぽっと頬を赤くします。
キャサリン「一人でよかった。キョウコに聞かれたら絶対からかわれる」
キョウコ「おーい!キャサリン!夜食できたぞー!」
ちょうどキョウコが夜食の支度が出来たと呼ぶ声が聞えたので、蝶型マスクを外して簡易マスクを身に着けると、台所に向かう。
キャサリン「あはは♥まずはマスク着用での食事の仕方に慣れなきゃ」
【二ホンのことわざ”腹が減っては戦はできぬ”……いや、今のわたしは色気より食い気でしょうか】