ドワーフ大戦奇~鉄風ルククの帰還~ 第二話
ルクク「ふんふん♪ふふん♪」
荒野での野営の最中、下着姿のルククは鼻歌混じりに”風車”を分解点検する。風車全体にべっとりと付着したジョーたち賞金稼ぎの血糊を丁寧にふき取り、機関部を清掃、組み立てて動作をチェックしていく。
最後に燃料式火薬が封入されたカートリッジを装填してメンテナンスは終了する。
ルクク「ほっ!よっ!はぁっ!」
メンテナンスを終えた風車を円を描く様にして素振りをする。
ルクク「何回使っても壊れない。さすがは旦那の力作!」
風車を眺めてうっとりとするルククにハンスが声を掛けます。
ハンス「ルクク!夕食の支度が出来た」
ルクク「あいよー」
ルククは乾燥肉とクズ野菜を突っ込んだ即席のスープをパンと共に口に運んでいく。
ルクク「んー!中々イケるね。あんたシェフやりなよ」
ハンス「はは、奴隷制が無くなった後なら悪くない」
ルクク「奴隷制ね……何百年と続いてきた制度だ。一朝一夕じゃ無くならんだろ」
ハンス「蒸気機関の発達や産業構造の変化で既に奴隷制度そのものが時代遅れ、いずれは消え去る運命だ」
ルクク「とはいえ、過去の遺物が大人しく消えてくれるわけもないだろ?」
ハンス「そう、必ず反動(バックラッシュ)はあるし、たとえ近い将来奴隷制
が廃止されるとは言え、今、まさに虐げられる人々を見捨ててはおけない」
今の自分なら冗談でも口に出せない真っすぐで青臭い理想にルククは破顔する。
ルクク「がははははっ!流石、元保安官様のいう事は違うな!若いってのに、見上げたもんだ!」
ルクク「まぁ、”あたしの目的”のついでだけど、力を貸してやるさ」
ハンス「心強いよ。5日後には次の”駅”につく。今度の”乗客”は5人でうち、ドワーフが3人だ」
ルクク「同胞が3人か……誰か娘の手がかりを知っていればいいんだけどね……」
鍋を片付け、火の番をしながら交代で眠る。
三日後、時刻は昼。馬車が次の”駅”のある街に到着する。
ルクク「はぇー!けっこう大きな町だね」
ハンス「あぁ、次の”駅”で交渉している間、いつもみたいに酒場で情報収集でもしていてくれ」
ルクク「あぁ、久しぶりに干し肉以外の肉が食べたいね」
馬車の停留所に駅馬車を止めるとハンスは荷物の仕入れと”駅長”との交渉の間、ルククは昼食がてら酒場に向かう。
ルクク「おぉ、良さげな店じゃないか」
ルククがスイングドアをくぐって酒場に入る。店内は旅の人間や地元の労働者で大いに盛り上がっている。
ルクク「さて、と……」
ルククは酒場の奥の掲示板に張られた逃亡奴隷の手配書を手に取るとカウンターに向かう。
ルクク「まったく、ずいぶん背の高い椅子だねぇ!座りにくいったらありゃしない!」
ルクク「大将、エール大ジョッキで一つ!あとお勧めの肉料理を頼むよ」
酒場のマスター「あいよ」
木製の樽ジョッキにハンドポンプでなみなみと注がれたエールを口を付けると一気に呷り半ばまで飲み干す。
ルクク「くぁー!染みるぅ!」
酒場のマスター「姉ちゃん、良い飲みっぷりだな!気持ちがいいぜ」
ルクク「へへ、"姉ちゃん"ねぇ。お世辞でも嬉しいよ」
酒場のマスター「あいよ、これがうちの自慢のビーフシチューだ。酒の肴に最高だぜ」
ルククを気に入ったマスターは皿に盛られたビーフシチューを差し出す。
ルクク「あんがとよー!肉がゴロゴロしててあたし好みだよ!最高!」
嬉しい悲鳴を上げたルククは豪快にスプーンでビーフシチューを口に運ぶ。
空になったビーフシチューの皿は空となりジョッキのエールを飲み干したルククは腹ごしらえはここまでと腰を上げて椅子を片手に店の奥にある掲示板の前まで足を運ぶ。
ルクク「やれやれ、あたしらみたいのにも配慮してもらいたいもんだね」
ルククは椅子に登ると掲示板の端から端までドワーフ族の逃亡奴隷の手配書から奴隷市場の広告まで改めていく。
ルクク「ここでもあの子の……クリリの手がかりはないのかい」
2時間近く調べても成果はなく、愛娘の名を口にした後、パイプ煙草を吹かして肩を落とす。
その時、がたーんと木杯が床に落ちる音がルククの背後から響く。
エルフ女給「や、やめてください!」
賞金稼ぎA「いいじゃねぇか!酌してくれよ酌!」
髭面の中年男が酒場で働く金髪を三つ編みのお下げにした緑目のエルフの女給(ドイツの民族衣装ディアンドルに似たドレスを着ている)を強引に抱き寄せる。
賞金稼ぎB「そうそう!野郎ばっかじゃつまらねぇ。酒の席には"華”がないとなぁ」
賞金稼ぎC「おっ!エルフの女ってやせぽっちなイメージあるけど、結構胸あるじゃん」
小柄で童顔の男がエルフ女給の胸の谷間を覗き込み、鼻息を荒くして抱き付く。
賞金首D「エルフのことだ、そんな見た目でもババアかもしれない。中身が自分のおふくろより年上とか御免だ」
酒に酔った賞金稼ぎ達の狼藉を流石に看過できず、酒場のマスターが止めようと厨房から出ようとすると、一足先にルククが前に出ます。
ルクク「あんたらそんな小娘に構ったって面白くないだろ。あたしが相手してやるよ」
賞金稼ぎB「なんだよ。短足おばさんは及びじゃねぇんだよ」
賞金稼ぎC「男日照りなら他所をあたりな!」
賞金稼ぎA「おい、なんかジロジロ見てるぞ、品定め中だぜ!やべー!犯されるぅ~」
下品に笑い合う賞金稼ぎたちの装備を冷静に見定めると壁に立てかけられているデッキブラシを手に取る。
ルクク「大将、ちょっと借りるよ」
賞金稼ぎB「へぇ、酒こぼして汚れた床拭いてくれんのか?感心だ……ごっ!」
円を描く様に回転して遠心力を乗せたデッキブラシを賞金稼ぎBのこめかみにクリーンヒットさせて昏倒させる。
エルフ女給「えっ……」
ルクク「ぼさっとするんじゃないよ!逃げな!」
ルククの言葉にエルフ女給は即座にその場を離れ安全な厨房に逃げ込む。
賞金稼ぎA「な、何しやが……ぐっ!」
呆気にとられていた賞金稼ぎAが我に返り腰のリボルバーに手を掛ける暇を与えず、次はブラシを勢いよく突き出して賞金稼ぎAの喉に叩き込んで悶絶させる。
賞金稼ぎC「舐めるんじゃねぇ!」
ルクク「!」
賞金稼ぎCが横から刃渡り30cmほどの大型のナイフで切りかかる。
賞金稼ぎC「くそっ!小さすぎて!当たらねぇ!」
ルククは懐に入り込むようにしてナイフの猛攻を最小限の動きで躱す。
ルクク「人の事言えるのかい?チビ助!」
ブラシで足払いをかけて転んだ賞金稼ぎCが床に四つん這いになります。
賞金稼ぎC「なっ!……ぐぇっ!」
ルククが賞金稼ぎCの腰にブラシを思いっきり振り下ろすと賞金稼ぎCが大の字で倒れる。
賞金稼ぎC「がはっがはっ!!このアマ調子に……」
賞金稼ぎA「ぐっ!やりやがったな」
ダメージが回復しきらない賞金稼ぎたちがそれぞれの獲物に手を掛けると大将がカウンターの下に常備してある水平2連式の散弾銃を持って賞金稼ぎ達を見下ろす。
酒場の大将「オレの店の中で銃を抜くのはご法度だ。二度とここの敷居をまたぐな」
賞金稼ぎD「すまない大将、飲みすぎた。おい、おまえたち、いつまで寝てる」
賞金稼ぎA「兄貴!こんな短足ババアに舐められたままで良いですかい?」
賞金稼ぎD「これ以上、無様をさらされるか。お代はここに置いておく」
賞金稼ぎ達はテーブルに金を置くといそいそと賞金稼ぎ達が去っていく。
ルクク「ふん、騒がせて悪かったね。あたしもお暇するよ」
酒場の大将「おいおい、もう帰るのか?久しぶりにいいもん見せてもらったから、一杯奢るぜ?」
ルクク「今更飲む気分じゃないよ。縁があればまたね」
長居は無用とスイングドアを潜り、酒場を後にするルククをエルフの女給が追いかける。
エルフ女給「あ、あの!ありがとうございます!」
ルクク「よせやい。連中には酒を不味くしたツケを払ってもらっただけさ」
エルフ女給「それでも助けてもらえてうれしいです!エルフのわたしをドワーフである貴女が助けてもらえるなんて思わなくて」
ルクク「ドワーフもエルフも関係ないよ。あんたぐらいの年の娘がひどい目にあってたら放っておけないのさ」
エルフ女給「エルフの年が分かるのですか?」
ルクク「耳の長さを見ればわかるさ。ちょうどあたしの娘と同じくらいだよ」
エルフ女給「わたしベアトリクスって言います!このご恩はきっと返します」
ルクク「あたしゃルクク。それにしても、エルフのきっとは当てにならないからね。できればあたしが生きている間にしておくれよ」
ハンス「おーい!ルククー!」
”駅長”との交渉を終え、荷を積んだ駅馬車がやってきたことでルククは駅馬車に乗り込む。
ルクク「おっ!相棒がちょうどきたさね!ほいじゃねー!」
ベアトリクスに手を振り別れを告げると、駅馬車が走り出します。
ハンス「なんだ?エルフの友達ができたのか」
ベアトリクス「がはははっ!良い子だよ。娘の友達になってもらいたいね」
駅馬車は次の目的地に向かう。
場面は変わり、賞金稼ぎ達は夜の宿屋でルククに負わされた怪我の痛みに唸っている。
賞金稼ぎC「痛てて腰が……」
賞金稼ぎA「こりゃひでぇ。湿布を張ってしばらく安静だな……」
賞金稼ぎB「ごほごほっ!くそくそくそっ!ジェファースンの兄貴!あそこで引いて本当によかったんですかい!短足ババアにのされておれたちゃ良い笑いもんだぜ!」
賞金稼ぎDことジェファースンが口を開く。
ジェファースン「あのババア相当な使い手だ。俺たちが万全の状態でも正面からやり合えば、ただじゃすまない」
賞金稼ぎC「でも、確かにボブの言う通りこのまま泣き寝入りなんて……」
賞金稼ぎBことボブの意見に賛同する賞金稼ぎCの顔を見てふっと笑みをこぼす。
ジェファースン「ふっ、心配するな。カエシの方法は考えてある」
ジェファースンが懐から取り出したのは”ホーランド一味”が同業者に緊急に回した手配書。
ルククにそっくりな人相書きと情報提供だけでも高額の報奨金を保証するという文言にジェファースンがほくそ笑んだ。