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ドラゴン・スレイヤーズ! 第一話

あらすじ
人と竜とで二分された大陸。

竜を狩ることを生業とする竜討士(ドラゴン・スレイヤー)の若き戦士であるグレンは十年前の初陣の際に人間以上の知性を持つとして畏れられる上位竜(グレーター)ジルに自分の剣の師匠であるダズンが率いる竜討士の部隊を壊滅させれる。

師匠は自分を逃がすためにジルに喰われ、自身も左目を爪で抉られ隻眼となった。それ以来、ジルへの復讐を決意して日々過酷な戦いに身を投じ続け、仲間たちと共に勇名を馳せていた。 

本編
鬱蒼とした森林地帯。

怒涛の勢いで進む巨大な影。樹齢千年の大木よりも太い四本の脚。波打つように揺れる長大な尾。全身を覆う緋色の鱗。肢よりも太い頸に続く頭部には湾曲した角が生え、貌の輪郭は鰐か蜥蜴のようにも見える。

人類の天敵として古来より君臨してきた怪物”竜”を前になすすべなく蹂躙される帝国軍の兵士たち。数十門の大砲の一斉砲火も全く通用せず帝国兵たちは阿鼻叫喚となる。

兵士A「第4小隊全滅です!」

絶望的な表情を浮かべた兵士の報告に司令官は吐き捨てるように指示を出す。

司令官「もういい!一時撤退させろ!兵隊の無駄遣いだ!」

部隊が次々と壊滅的な被害を受けていく絶望的な戦況に司令部が置かれた野外の天幕で司令官は頭を抱える。

兵士B「飛竜大隊の到着まであと2時間です」

最早、爆装した飛竜の爆撃が頼みの綱だが、その間に辺境の村々に広がる甚大な被害を考えて気が遠くなる。

兵士C「このままでは都市部にまで被害が広がりかねない……」

竜の移動速度だとものの一時間で地方都市群に到達する。住民の避難もまだ不十分で今後広がるであろう甚大な被害に司令部にどよめきが広がる。

兵士D「報告いたします。竜討士の戦闘隊が到着しました!既に展開中です」

司令官「また連中に頼るしかないか。あの……穢れた竜喰い共に……!」

司令官は忌々しい表情を浮かべて拳を握り締める。

大木の枝の上で登ったライガは竜の体長を観測する。

グレン「どうよ。デカブツの様子は?」
ライガ「体長は優に50mはあるな。巨竜(べへモット)級の上位種の大山竜(マウント)級に相当。対竜砲をあんだけ浴びてもピンピンしてら」
グレン「ひゅう♪文字通り山みてぇなやつだ。ひょっとしたら息吹も使ってくるかもな」

ライガは木から猿の様な身軽さで下りるとグレンの隣に降り立つ。

ライガ「あのデカさで息吹まで使ってくるとか堪んねぇな。おまえのダンビラでも一刀両断は難しいんじゃねぇの?」

グレンは背に背負った片刃の大剣を引き抜き、切っ先を猛進を続ける大山竜級に向ける。

グレン「斬る。そうじゃなきゃオレの復讐は果たせない」

迷いのないグレンの真っすぐな右目の視線にライガは肩をすくめる。

ライガ「へいへい、オレは精々切り込み隊長を横から支えるよ」
グレン「頼りにしてるぜ。相棒」
ゴルドン「まったく血気盛んな若者を見ていると頼もしくなるな」

腕組みしたゴルドンは士気の高い若者たちを見て口角を上げる。

ライガ「なに年寄り染みたこといってんだよ。ゴルドン大隊長。今日も豪快な戦斧捌きを期待してるぜ」
グレン「ゴルドン大隊長が大山竜級の前脚を払って、ライガ隊が後方支援ん。オレたち前衛が首を狩るっていういつもの手筈でいいな?」

ゴルドンは強面に笑みを浮かべて力強く頷く。

ゴルドン「それが最良。やはり腕のいい大剣使いがいるとこちらも仕事が楽だ」

各々の役割分担を確認して視線を交わし頷く。

グレン「よし、全員、配置につくか!」

いよいよ戦闘とライガが戦意をみなぎらせる。

ライガ「へへ、あのでかさなら取れる肉の量も半端ないな」

辞書の様に分厚い巨大な竜の血の滴るステーキを思い浮かべてライガは生唾を飲む。

兵士E「おい、大丈夫か!しっかりしろ」
兵士F「こ、この足じゃ無理だ……オレのことは捨てていけ」

大山竜級の攻撃で骨折した足を引きずる戦友である兵士Fに肩を貸して兵士Eは迫る大山竜級から必死に逃げるも、大山竜級は目の前まで迫っていた。

兵士E「それに……今更、見捨てて逃げたって逃げ切れない」

兵士たちの目の前で大山竜級が歩みを止め巨大な口を開けて兵士EとFを飲み込もうとする。

兵士E「舐めるなよ!化け物!」

兵士Eはせめてもの抵抗と対竜用のマスケットを構え竜の瞳に狙いを定め引き金に指を掛けたその時。

ドォォン!

投げ槍が大山竜級の顔面に飛来して着弾と同時に紫電を帯びた複数の爆炎が竜の顔面に炸裂する。

大山竜級「ぐぉぉぉぉぉっ!」

兵士E「えぇ!なっ……!」

雄たけびを上げる竜が混乱している隙に木々に紛れ込んでいたゴルドンと副隊長が左右から樵よろしく大戦斧を大山竜級の前脚に深々と叩き込む。

大山竜級「ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

前脚の腱を断たれた大山竜級が悶絶して、弧を描くように長大な尾を振り回す。

ライガ「!投槍隊、散開!」

大山竜級の牽制のために展開していた投槍隊を隊長のライガは即座に退避させる。大山竜級の尾の一撃で木々が薙ぎ倒されて一帯が更地となる。

兵士E(な、なんだ!?俺は死んだのか?!)

戦友と共に地に伏せた兵士Eは半ば死を覚悟していたが、目を開けると隆々とした逞しい肩に戦友と共に抱え上げられていた。

グレン「牙剝く大山竜級相手にひるむことなくマスケット一つで反撃……痺れたぜ」
兵士E「あ、あんたは……!」
グレン「竜退治から竜の死骸の解体加工、捕竜にお好みで栄養満点の竜料理も提供する竜絡みの何でも屋ってとこかな」

兵士E「竜討士(ドラゴン・スレイヤー)……!」
グレン「帝国語の発音からみて帝都の出か?ならオレたちを見たことなくても仕方ないか」

気絶した兵士Fと共に安全な木の陰に降ろされると兵士Eはグレンを救世主のような目で見上げる。

グレン「そんな目で見るなよ照れるな。こんな稼業だと人助けしても竜以上に目の敵にされるから、こそばゆいぜ」
兵士E「あんたは命の恩人だ。感謝する」
グレン「あんがとよ。でも帝国軍……特に対竜部隊の兵士としてやってくなら覚えておけ。竜を完全に倒すまで安心は禁物だ」

背中の大剣を手に取ると完全に臨戦態勢となった大山竜級が咆哮とともに天に向けて紅蓮の炎を噴き上げる。

兵士E「火を吹いた?!まるで火山の噴火だ……!」
グレン「ひゅう!火竜か。面白くなってきたな」

大山竜級の圧倒的な火炎の息吹に戦慄する兵士Eは楽しいおもちゃを目の前にしたようなグレンの余裕の表情を信じられないものを見るような目で見る。

グレン「久しぶりの大物だ。しっかりキメてやる」

大山竜級は”餌”ではなく”敵”として認識した竜討士たちに火炎を吐き散らしながら咆哮上げて威嚇する。

大山竜級「ぎゃおぉぉぉぉぉっ!」

ドラス「息吹……しかも、火炎か、急がないと森が焦土になってしまう」

大山竜級の死角に潜んだグレンが班長を務めるグレン班の副班長である生真面目そうな長身の眼鏡を掛けた青年ドラスが危機感を募らせて渋面を浮かべる。

レナ「めっちゃ怒ってる。おっかねー」

細身の中背ながらしなやかな筋肉を全身に纏った年若い女剣士のレナは緊張感のない軽薄な口調で小山の様な大山竜級を見上げる。

ボルタス「……レナは相変わらず危機感がないな」

小柄ながらがっしりとした体つきで前髪がやたらと長い前髪が特徴の三十がらみの寡黙な男ボルタスは溜息と共に背中の大剣に手を掛ける。

レナ「ボッさんが慎重すぎるんだよ。あっ!班長」
グレン「わりぃ。遅れた」

班長の登場に班員たちは一斉に背筋を伸ばす。

ドラス「仮にも班長なのですから、班の足並みを乱すのは困ります」

上役相手にも歯に衣着せぬ副班長を相手にするように大剣を構える。

グレン「そうだよな。この班はオレが居なきゃ始まらない」
レナ「そうだよー。ウチらは班長を起点にした陣形だからね」
ボルタス「……この班なら息吹を使う大山竜級でも確実に仕留められる」

自分に全幅の信頼を置く部下たちが可愛くてしょうがなく戦意を高めるために激を飛ばす。

グレン「よし!あと一頭倒せば班から隊に昇格だ!気合い入れていくぞ!」
レナ「よっしゃ!やっと部下が出来る!パシってコキ使おー!」

ガッツポーズを取るレナの部下を子分扱いする言動に頭を抱える。

ドラス「こら!班長たるもの責任をもってだな……!」

またいつもの小言が始まったとレナはむすっとする。

ボルタス「……オレもやっと班長か……女房に一番に伝えたいな」

首から下げたペンダントに入れた妻の肖像を握り締める。

グレンと共に戦ってきた戦歴に裏打ちされた自信を漲らせる班員たちを率いて大山竜級に剣の切っ先を向ける。

グレン「よし!野郎ども!竜退治の時間だ!」
班員一同「「「応!」」」

班員たちは一斉に自前の大剣に手を掛けた。

荒ぶる大山竜級に向かって投擲される十数本の雷爆槍を大山竜級は火炎の一吹きで次々と誘爆させ紫電を帯びた花火を咲かせる。

ザルツ「雷爆槍。着弾0」

ライガ隊副隊長のザルツは雷爆槍の着弾が皆無だったことを報告するとライガは鼻を鳴らす。

ライガ「まぁ、息吹を使わせれば竜の体力を消費させられるから無益じゃねぇ。それにこっちに注意を引き付けられた」

牙を鳴らし唸る大山竜級にひるまずにライガはほくそ笑む。

ライガ「気張れよグレン。お前ならあんなデカブツ一頭の頸くらいわけないだろ」

ライガは即座に投槍隊を散開させると大山竜級の注意を引くように移動。

大山竜級は怒りの咆哮ともに口腔の奥に次の火炎が練られ、牙の間から火の粉を散らす。

グレン「悪いが出鼻をくじかせてもらうぜっ!」

グレンが腕のワイヤーショット(鉤の射出機構)を大山竜級の鱗の薄い場所を狙って撃ち込み一気に距離を詰め、勢いをつけた大剣を大山竜級の右側面に叩き込んで破砕する。

大山竜級「ぎゃぉぉぉぉっっ!!」

息吹を放つ直前に大剣の一撃を食らったので口腔で火炎が誤爆する。

レナ「うっひょー!竜の身体の中で一番固い竜の顔面を一撃で砕くとか信じられなーい」

レナが尾の根元にワイヤーショットを撃ち込み限界まで加速して、両刃の大剣の刀剣に組み込まれた竜魔術を発動。竜魔術―竜の使う異能の力を人類の英知で体系化して再現した超常の技術―。

複雑な幾何学模様が刀身に広がり連動していき超高速振を始めた刀身を突き出しドリルの様に高速回転しながら尾に大穴を開けて千切り飛ばす。

ドラス「全く軽薄な性格さえなんとかすれば将来は大隊長も狙える器なのだが」

自分より十歳近く若いのに自分では到底なしえない絶技を易々とやってのけるレナにドラスは感心の溜息をつく。

ボルタス「愚痴は戦いが終わった後だ……」

尾を断って無防備になった背後からドラスとボルタスが後ろ脚に同時に斬り掛かり腱を同時に断つ。

大山竜級「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

圧倒的な回復能力で前脚の腱を繋いだ立ち上がろうとする大山竜級の腱をゴルドンと副隊長が再び斧を叩き込み今度は足首ごと斬り落とす。

ゴルドン「おっと浮気するな。こっちも忘れるな」

大山竜級「ごぉぉぉぉっ!!!!」

怒りの咆哮と共に再び口腔に炎を溜める大山竜級の顔面に再び雷爆槍が降り注ぎ次々と炸裂する。

ザルツ「雷爆槍、命中15」
ライガ「よっしゃ!さっきのお返しだぜ……グレン!」

ライガの声に応えたグレンは雄たけびを上げる

グレン「ナイス!これで仕上げだぁぁぁっ!」

大山竜級の頭を踏み台にして天高く飛び上がり、うなじにワイヤーショットを撃ち込み限界まで加速して大剣を叩き込む。

大山竜級「ぎゃぉぉぉぉっっ!!!」

一太刀で首の半ばまで大剣の刃が埋まる。

グレン「おぉぉっ!まだ頑張るか?!」

獰猛な笑みを浮かべて大山竜級の強靭な頸に驚嘆する。大山竜級が最後の抵抗で頸の筋肉を引き締めて大剣の刃に抗う。

グレン「ぬぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

万力の様な筋肉の収縮に刃の動きが鈍る。グレンの雄たけびに戦場の注目が一心に集まる。

ライガ「よしグレン!やっちまえ!
ゴルドン「どうした!そんなものではないだろ!おまえは!」

苦戦するライガとゴルドンがグレンに発破をかける。

レナ「班長!いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
ドラス「あと一息です!グレン班長」
ボルタス「班長なら……やれる!」

大山竜級との戦いも大詰めに入り班員たちが大山竜級の周りでいざという時のために待機しながら声援を送る。

グレン「ぐっ!……まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

筋肉が限界まで膨張して戦衣を軋ませる。さらに大剣に組み込まれた竜魔術を発動。大剣の刀身に複雑な幾何学模様が複数浮かび上がり連動していく。重量が一気に数十倍に上昇してグレンは雄たけびと共に大剣を押し込みついに竜の頸を落とす。

グレン「おらぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

竜の頸の断面から大量の血飛沫が上がり大地に雨となって降り注ぐ。竜の頭部が地面に落ちると竜討士たちが一斉に歓声を上げる。

ライガ「またグレンがやったぞ!今日は宴だ!」
ライガ隊一同「おぉぉぉぉぉっ!」

ライガは雷爆槍を掲げると部下たちも応じて勝鬨を上げる。

ゴルドン「浮かれてばっかりもいられんぞ!竜の解体作業がある!さっそく取り掛かるぞ」

ゴルドンが自分の部下に指示を出して各種解体道具を運ばせる。

レナ「ゴルドン大隊長、ほんと真面目だなぁ。もーちょっと勝利の余韻ってのに浸らせてよ」

一息ついたレナが両手を後頭部に回して緊張が解けた肉体を持て余す。

ドラス「隊長に次ぐ戦果とはいえずに乗ってはいかん。班長になれば責任というものが……」

くどくどと説教が始まったドラスを撒いたレナは解体班の手伝いに入る。

レナ「はいはーい!分かってまーす!ウチは今、宴で食べるドラゴンステーキのことで頭が一杯でーす」
ボルタス「改めて見ると本当に立派な竜だ。里のみんなも喜ぶだろう」

勝利を分かち合う部下たちを見て口角を上げるグレンだが彼の眼はさらに遠い場所を見ている。

グレン「息吹を使う大山竜級を討伐……やっと高位竜(グレーター)との討伐参加資格を得られたって訳だ」

眼帯に覆われた左目を掌で覆いながら獰猛な笑みを浮かべる。

グレン「待ってろよ……銀紫竜!」

グレンの脳裏に紫の光沢を放つ銀の鱗を持ち女性的な優美な曲線の美しい肢体を持つ銀紫竜が浮かび上がった。


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