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ドワーフ大戦奇~鉄風ルククの帰還~ 第一話

あらすじ
亜人奴隷制の是非から大陸の東西を分断する内戦の渦中にある人類の帝国。

過去に亜人ドワーフの間で戦槌1つで帝国軍相手に孤軍奮闘した英雄として讃えられた女武者の”ルクク”は逃亡奴隷を支援する秘密結社”夜行馬車”に所属する青年”ハンス”を相棒に戦乱の中で生き別れた一人娘を探し求めて帝国の各地を巡り娘の手がかりを探し求めていた。

道中で奴隷捕獲人の賞金稼ぎの一味と戦いを繰り広げながら、同胞であるドワーフ族や別の亜人のエルフ族と協力や敵対を繰り返す旅の中でルククは果たして娘と再会できるのであろうか?

本編
タンブルウィードが転がり、砂塵が舞う荒野の中、一台の青い外装の駅馬車が州境検問所にやってきた。

青年「クソッ!悪趣味この上ない……!」

駅馬車の御者の眼鏡の青年は串刺し死体のお出迎えに反吐が出そうな顔をする。州検問所の門の前には越境者を出迎えるように立つ2本の支柱にまるでぶどうの房のように干からびた惨死体が老若男女問わず吊るし上げられている。

注意深く見ていくと長身痩躯で耳が針葉樹の葉の様に尖っているもの、子供の様な背丈ながら肩幅が広く頑健な体つきで滝の様に髭を生やしたもの―いわゆる”人間”とは異なる進化を遂げた”亜人類”であると分かる。死体の首には一様に木の板がぶら下げられていて

《逃亡した短足に死を!》
《ひ弱な耳長はすぐに捕まる!》
《亜人は射撃の的に最適!》

というような悪意と憎悪に満ちたメッセージが書き込まれた板がぶら下げられている。

駅馬車が門の前に到着すると州軍所属の警備兵らがやってきて駅馬車に積まれた荷物の確認作業を始める。

警備兵長「運搬業者か?荷物を改める」

士官である警備兵長に話しかけられた御者の青年ハンスが返事をする。

ハンス「お願いします」
警備兵A「おい!短足ババア!とっとと下りろ!仕事の邪魔だろうが!」

荷台で布に包まれた長物を肩に携えた亜人類の一種であるドワーフ(鉱人)族の中年女性をしっしっと野良犬にでも接するような雑な対応にハンスが憤慨する。

ハンス「やめろ!彼女はルククは自由民だ」

自らの相棒であるドワーフ族の中年女性ルククを庇うが警備兵Aは鼻を鳴らす。

警備兵A「ふんっ!知った事か!短足は短足だろ、目障りこの上ないぜ!」

警備兵Aは心底不快そうに地面に唾を吐く。

ルクク「まったく、相変わらず人間のガキは礼儀ってもんを知らないね」

ルククはまともに相手にするのも馬鹿らしいという顔で、布に包まれた長物を担いで荷台から飛び降りる。

駅馬車の荷台に乗っていたハンスとルククが下りると警備員が3人がやってきて荷物を検品していく。

警備兵B「ん?これはなんだ」

ワイン樽や衣類が入った木箱など調べていくうちに、警備員のうちの一人が馬車の床に違和感を覚える。

警備員B「警備兵長、こちらへ……これはひょっとして床が二重底ではないですか?」
警備兵長「んんっ?これは怪しいなぁ」

警備兵長がどれどれと中を窺おうとするとハンスがすっ飛んでくる。

ハンス「すいません。州の定める積載量以上のモノを積んでおりまして……」

ぺこぺこと頭を下げながら警備員長に耳打ちをします。

警備兵長「ほぉ、違反と分かって見逃すわけにはいかないな」
ハンス「これ、わたし個人の気持ちです」

卑屈な態度を装い警備長の袖口に丸めた紙幣を捩じり込む。

警備兵長「ふむふむ……この内容であれば、問題ないな。通ってよし!」

紙幣の数が納得にいくものだと知った警備兵長はほくほくとした顔をしてハンスたちを通す。またいつもの悪い癖かと部下の警備兵は呆れ顔で見送る。

ルクク「かはは!話の分かるやつでよかったな」
ハンス「本当に世の中俗物だらけで助かってるよ」

州境を超えた馬車は州境近くの街へと入り、商店に積み荷を納品すると町の外にある停留所に駅馬車を止めてハンスはほっと一息つき、紙煙草を一本吹かすと駅馬車の二重底になった荷台の下を覗き込みパンと干し肉、ワインを差し入れる。

ハンス「お疲れ!第一関門突破だ」

駅馬車の中にはエルフやドワーフなどの亜人奴隷たちが身を寄せ合っている。

エルフの青年「やっと食事の時間か……」

長身痩躯に細長い耳、そして人間の数倍の寿命を持つ長命であることが特徴で森林地帯で狩猟採集生活を営む亜人類の一種であるエルフ(精霊人)族の青年は寄せこけた顔に安どの笑みを浮かべる。

ドワーフの老人「港町までは長いが……今は今日の糧に感謝しよう」

ぼろ切れを撒いた杖を大字そうに小脇に抱えたドワーフの老人は深いしわが刻まれた顔を綻ばせて食事の前の感謝の祈りを捧げる。

若いドワーフの母親「早くこの子に自由な環境を与えてやりたい」
幼いドワーフの子供「はぐはぐっ!」

自分の分のパンまで子供に分け与えた母親は子供が喉を詰まらせないようにワインを口に含ませる。

ハンス「ゆっくり食べてくれ、オレとルククが交代で外で見張ってるから荷台で寝てくれ」

駅馬車で夜を過ごした早朝。拳銃の早撃ちの練習をするハンスの前にルククが剃刀で髭を剃りながら声を掛ける。

ルクク「おはよう!精が出るねぇ」
ハンス「別に臆病なだけさ。追い剥ぎに賞金稼ぎ、魔物の群れ、荒野は危険がいっぱいだからね」
ルクク「そんときゃ、あたしの自慢の得物でモノを言わせてやるさね」

駅馬車にある布を被せた長物を親指でさして自信満々な笑みを浮かべる。

ハンス「本部が直々につけてくれた用心棒だからな。期待してるよ」

ハンス「そろそろ、出発だ。賞金稼ぎ達は鼻が良い。特に悪名高い”ホーランド一味”はな」
ルクク「ホーランド一味……賞金稼ぎ……奴隷捕獲人共だね」

考え事をしている時の癖でルククは口ひげを扱く。

ハンス「娘さん、無事に見つかると良いんだが……」

心底同情するハンスの顔がおかしくてルククはかははと豪快に笑います。

ルクク「がははははっ!そんなしみったれた顔すんなよ。このルクク様の娘だぞ!生きてるに決まってらぁ!」

正午過ぎ、州境検問所ではハンスから賄賂を貰った警備兵長が鼻歌を歌いながら思わぬ臨時収入を休日に酒場でぱーっとやろうかと考えていると馬に乗った数十人の柄の悪い男たちが検問所へとやってくる

警備兵長「な、なんだ!誰が来た!」

警備兵長は無数の馬の蹄の音に血相を変えて、検問所の外に出る。

検問所の前には銃で武装したならず者数十人がずらりと並んでいる。

警備兵長「お、お前たちは……ホーランドの……!」

警備兵長は検問所につるされた逃亡奴隷の死体を見上げると。激しく抵抗した末に殺害して見せしめにされた逃亡奴隷の首から下げた木札のメッセ―ジの下には”ホーランド一味の獲物”と書かれている。

警備兵C「あの先頭の男”トマホークのジョー”じゃないですか?」

十本以上の手斧をベストに下げた男を見てホーランド一味の兄貴分の一人であるジョーであると確信する。

ジョー「へへっ!俺も真面目な働きぶりが報われて名前が売れてきたな」

ジョー「単刀直入に言うぜ。昨日、ここに青い駅馬車が来なかったか?」
警備兵A「!あの短足のババアと眼鏡のガキが乗ってたやつか」

警備兵Aの言葉にジョーはほくそ笑む。

ジョー「おっ!やっぱりな、その駅馬車が逃亡奴隷を東部に密輸してるって話でよ。荷物検査で怪しい所はなかったかい?」

警備兵長「んむ、小柄なドワーフやホビットが隠れられるような木箱や樽はすべて改めたが……」

バツの悪そうな顔をして誤魔化すが、事情を察した警備員は苦虫を噛み潰したような顔をします。

ジョー「へへ、そういうことかい。まぁ、いい。連中の次の行先はヴィズベルの港町だな」
警備兵B「えぇ、そんな話をしていました」
警備兵A「確か今日の早朝にこの町を出発したはずだ」
ジョー「なるほど、そこが連中の次の”駅”だな。よし!いくぞ、おめーら!」

ならず者たちが雄たけびで応える。

荒野を行く駅馬車の中でハンスはスナブノーズ(短銃身)のリボルバー拳銃をホルスター越しにしきりに撫で上げている。

ルクク「緊張感があるのは結構だけど、終始気を張ってるとこの先、持たないよ」

荷台で寝っ転がるルククの度胸に感心する。

ハンス「ここは追い剥ぎが出るらしいから、いつ囲まれるかと考えると落ち着かなくて」
ルクク「心配性だね。でも、悪い予感って言うのは案外、当たったりするもんさ……んっ?」

真顔になったルククが隣に立てかけておいた戦槌に手を掛ける。無数の馬の蹄の音に荒くれ者の野卑な声が荒野の向こう側から聞こえてくる。

ハンス「追い剥ぎ?いや、賞金稼ぎか!十……二十、三十人近くいる!!」

ジョー率いる賞金稼ぎたちが駅馬車を猛追する。

ハンス「くそっ!」

ハンスは手綱を振るい駅馬車を必死に加速させながら慌ててスナブノーズの拳銃に手を伸ばそうとして、ルククにさっと制される。

ルクク「その銃じゃ連中まで届かないよ」

ルククは無言で布を撒いた長物に手を掛ける。

ドワーフの老人「お若いの、儂を下ろしなされ」

布を巻いた杖を片手にドワーフが床下からごそごそと這い出てくる。

ルクク「じーさん一人下ろしたくらいじゃ、あいつらはとてもまけないよ」

ドワーフの老人の目に年に似つかわしくない熱が宿る。それは戦士としての覚悟だった。

ドワーフの老人「見くびるんでないわ。わしもかつてドワーフの武者じゃった。人間の小僧どもごときに負けわせん!」

馬車から飛び出し、悠然と歩いてくるドワーフの老人を賞金稼ぎ達は嘲笑う。

賞金稼ぎA「ぎゃはは!あの短足ジジイ、よっぽど死にたいらしいな!」
ジョー「待て待てっ!あのジジイの鍛冶の腕は惜しいから生け捕りにしろって話だから適当に痛めつけてふん縛れ!」

投げ縄の準備をして自分を取り囲もうとする賞金首をよそに老人は杖に巻き付けた布を取り払う。

杖はたちまち可変して長大なピッケルへと変化する。

賞金稼ぎA「なっ!……わぁぁぁっ!」

ピッケルで服を引っかけて賞金稼ぎAを引き下ろし、ピッケルを賞金稼ぎAに振り下ろして頭をかち割る。

賞金稼ぎB「このジジイ!」
賞金稼ぎC「ぶっ殺す!」

慌てて拳銃を連射するもピッケルで持ち上げた賞金首Aの死体を盾にして防がれる。

ぼろ雑巾同然になった賞金稼ぎAの死体を思いっきり投げつける。

賞金稼ぎB&C「うわあぁぁぁぁっ!」
ジョー「足だ!足を狙え!」

ジョーの指示で賞金稼ぎたちは一斉にドワーフの老人の足に狙いを定める。

小柄で歳不相応に身軽なドワーフの老人に一発も当てることができず、ジョーの手下たちは無為に弾丸を消費していく。

ドワーフの老人「ふん、鎖につながれている間も鍛錬だけは欠かさなかった」

ピッケルの鉤でジョーの手下たちに引っ掛かけて落馬させては頭をかち割っていき、あっという間に5人を始末したところで、ドワーフの老人の死角から虚をついて投げ斧の連発がくる。

ドワーフの老人「ぐっ……!」

斧の一本が深々とドワーフの老人の大腿に食い込み膝をつく。

ジョー「ビンゴ!息切れの瞬間を狙った!あともう少し若かったらどうなってたか分からねぇな」

顎で手下たちに捕縛を指示して老人を拘束する。

ジョー「あの馬車には眼鏡の青二才と、あとは長耳のもやしと変態地主の慰み者になってた短足の親子だけだ。6人もやれば片が付く。これで今回の仕事は一丁上がりだっ!」
ルクク「おいおい、あたしのことは除け者かい?」
ジョー「あー?そういえば短足ババアもいたっけ、あんたはターゲットじゃないからお呼びじゃないんだよ」
賞金稼ぎD「捕まえて奴隷として売っちまえばどーすか?まぁ、中年の女ドワーフなんて大した値はつきそうもないっすけど」
賞金稼ぎE「仲間が5人もやられてるんだ。少しでも金にしないと割に合わないよな」

仲間を失った報復感情と略奪の愉悦に満ちた下卑た視線にルククはため息をつく。

ルクク「あー人間はやだねぇ。人を見るなり値踏みして、本当に下品だよ」
ジョー「随分と余裕だな。腕に覚えでもあんのかぁ?あぁん!」

侮った口調とは裏腹にドワーフの老人の意外な大立ち回りに危機感を覚えて手斧に手を掛ける。

ルクク「じーさんがある程度人数減らしてくれたから、ちゃちゃっと掃除するかね」

自分たちの絶対的優位を信じて疑わない賞金稼ぎたちに得物を包み込んでいた布をばさりと取り払う。

それはパッと見は単なる"戦鎚"に見えた。

しかし、目を凝らせば複雑怪奇な動力機関を搭載した異形の戦槌であることが分かる。異様さに戦慄して言葉を失う賞金稼ぎたちには鎚の側面にドワーフ語で刻まれた風車の銘を読める者は1人もいない。

ジョー「な、なんだありゃ!」

石突の取っ手を引っ張ると戦槌から猛獣の様なエンジン音が響き始める。

ルクク「さぁて、死ぬ前にこのルククの得意技を見せてしんぜようかね。地獄への良い手土産になるさつ!!」

ルククがコマのようにグルグルと回り出すとジョーの顔が青ざめる。

ジョー「おいっ!ボサッとするな!こいつから離れろ!早く……!」

ロケットブースターの噴射が始まり凄まじい回転と共に、竜巻と化して賞金稼ぎの群れに突っ込む。

ルククの秘技"鉄風"が炸裂する。

退避が間に合わずとっさに銃で迎撃した賞金稼ぎ数人が乗っていた馬ごと粉砕され血や臓物をぶちまけられると阿鼻叫喚の地獄絵図が始まった。

ルククの鉄風から辛うじて逃れたジョーが手斧を次々と投げる。

ジョー「おらおらおらおらぁ!!!」

しかし、斧は”風車”の回転に弾き飛ばされ、逆に二の腕を斧がかすって血が飛沫を上げる。

ジョー「くそっ!近づけねぇ!」

袖を破って傷口に巻いて止血をしつつ、鉄風が終わるまでルククから一定の距離を取り、攻撃の機会を伺う。

ジョー「よし!今だ!」

ロケットの噴射が終わったタイミングで斧を4本連続で投擲される。

ルククは4つの内3つは風車で弾き飛ばし1つは手で掴み取り、勢いよく投げ返す。

ルクク「ちっっっさい斧だねぇ!あたしの好みじゃないから返すよ!」

投げ返した手斧はジョーの方肩を深々と抉り、落馬する。

ジョー「ぎゃっ!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ジョー「このクソババアー!!」

懐から出した拳銃を乱射する。

ルクク「投げ斧の腕は見上げたもんだけど、銃はまだまだ練習が必要みたいだね」
ルクク「あんたがもう少し年取ってたら、危なかったかもね!」
ジョー「や、やめっ!ぐぎゃ!」

容赦なく風車を振り下ろしてジョーの頭を叩き潰して絶命させる。

賞金稼ぎF「そんな、ジョーの兄貴……ぎゃっ!」

ハンスに両肩を撃ち抜かれて、賞金稼ぎFが落馬する。

賞金稼ぎG「こいつなんて早撃ちだよ!こっちは6人いたのにもう俺一人……あの短足女といい付き合ってられねぇよ!」

戦意を完全に喪失した賞金稼ぎGは一目散に離脱する。

ハンス「くそ、弾が……」

賞金稼ぎG「覚えてろよ!ビルの大兄貴がくれば、お前ら何て一網打尽だ!」

駅馬車に隠れてリロードして顔を出すも、すでに賞金稼ぎGはスナブノーズの銃の射程圏外で銃を下ろす。

ハンス「これでホーランド一味に顔を知られた……厄介なことになるな」
青年のエルフ「あのドワーフの女傑がいれば大丈夫じゃないか?」

追手の迎撃に出たハンスの代わりに荷台の下から這い出てきて御者を代行したエルフ青年がルククの力を目の当たりにして呆気に取られている。

賞金稼ぎの死屍累々の中でドワーフの老人はピッケルを杖に立ち上がる。

ドワーフの老人「この絶技……ひょっとしてお前さん、あの”鉄風ルクク”か?人間の軍隊相手に孤軍奮闘したという……ルククはドワーフではありふれた名前だから気付かんかった……」

信じられないという表情でルククを見る。

ルクク「鉄風ルククねぇ。んふふ。昔のことだから忘れちまったね」
ルクク「今は、生き別れた娘を探すだけのただ母親さ」

快晴の青空の下、風車を方で担いで微笑みを浮かべた。


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