
33話 島崎のブレイン
「何読んでるの」
「ブチギレ小説」
「どういうの」
「ほら。。。でも読む前に言っておくけど、ブチギレしょうせつ、じゃなくて、ブチギレじょうせつって読んだ方がなんとなく読みやすいよ」
「濁るタイプの?」
「そうそう、頭になにかくっ付けることによって、濁っていくタイプの」
「作家なら、マジギレザッカとか、会社ならブラックガイシャとか、箪笥なら、オレンジダンスとかそういうタイプの」
「そういう意味でのブチギレじょうせつか」
「そう、そういう意味でのブチギレじょうせつ」
「丁寧なレクチャーありがとうございます」
「いえいえ出過ぎた真似をしてしまいました。
と思っているくらいです」
「そろそろ読んでいい?」
「あ、サーセンサーセン」
どれどれ。。。
『「生きてても面白くねぇ。
これはそういう面白くねぇじゃなくて、
なんか、腹立つ、フェアじゃねぇ、納得いかねぇ、とかそういう言う意味のやつな!!!
みんな死ねカスども!!!」
「おれの場合は、なんつーか、圧力で押し通してくるやつが特に嫌いだな。
で、やり合うのもめんどくさいから、弱者のフリして、
あ、すんませんってやるんだ。
で、あとあと思い出して、頭に血が昇ってきて、ぶち殺すって、眠れなくなるんだ。
ジャイアンとジャイ子に殺されるわ」
「押し付けがましいヤツも嫌いだわ」
「あと関西人でもないのに関西弁使うヤツとかな。たまにノリで使う程度なら良いけど、日頃からバチバチ使って、それをキャラにしてしまおうとしてるヤツとかな。芸人に憧れてんのかな。薄ら寒いよな」
「あとしょうもない駆け引きとか、どっちもたいして変わらんだろって。
どっちもしょうもねぇ」
「まあ世の中の全部だな。居心地悪いわ」
「いわゆるリア充とか、うまくいってるヤツって、
なんかノーテンキでアホみたいだよな。
なんか嘘くせぇ。胡散くせぇ。
本質からもっとも遠い気がする。
ダメなヤツを反面教師にしてほくそ笑む。
賢いのかもしれんが、黒々しい笑顔を時々浮かべる。
で、おれは賢くて悪魔でしたたかだからいいんだ、ってその時だけ自分に都合良くやり過ごす。
おれはお前らより優れているからいいんだ。何が悪い?と。別に誰も悪いって言ってねぇし、なに顔赤らめ気味で強引に自己肯定してんだ? 必死か。
誰かの上に立たなきゃ死んでしまう病気なのか?
ダメなヤツと比べて安心というか、
対比として自信を高めてるというか。
まあ俗に言う優越感というやつか、
アホらしいわ。マジで」
「なにやっても気持ち良くねぇ。
なに言っても気持ち良くねぇ。
ピンとこねぇ。ピントが合わねぇ。
しっくりこねぇ。
だから迷うんだ。決断出来ない、後悔する、躊躇するのは、どれを選んでもアウトだからだ。
がんじがらめじゃねえか、クソ!」』
「わあ。本当にブチギレ小説だ。出来れば目を背けたい」
「ブチギレしょうせつじゃなくて、ブチギレじょうせつな」
「これって、こないだこの部屋で起こったことだよね?
何で?
誰かに見られてるの? 私たち?
誰かに嵌められてる?
コワイ。
何これ?」
「こんなこと起こってないよ。あなたは統合失調症です」
「イヤイヤ、私はたしかに統合失調症だけど、
ここで起こったことってのもたしか。
あなたの方がおかしいわよ。健忘症? 記憶がないの?
自分の都合が悪い時だけ、こっちをあたおか扱いして、それで済ますのやめてよ」
「ちょっと待って。ヤバイヤバイ。
これも誰かに見られて、ブチギレ小説の一ページにぶち込まれる。
そいつの思うツボだ。
もう誰かの策略の中で生きてるだけだおれら」
「統合失調症です」
「うるせーな。やり返してくんなよ。
ワン、ツー、統合失調症です。じゃねーよ。
決まったーみたいな感じで言いやがって。
今関係ねーしまともな時もあるわ。
むしろそっちの時の方が多いわ」
「ちょーまって。これもブチギレ小説の一部分にぶち込まれる!」
「うるせーな。そればっかり、じゃあなんも喋れねーべや」
「それも!それも!」
「ブルサーーーーーーーーーーーイ!!!!!」
「声でかいよ。シー!シー!」
「トュルスコーーーーーーーーーイ!!!!!」
「今なんつったんだよ」
「トュルトュルトュルトュルトュルスコイ!
トュルトュルトュルトュルトュルスコイ!
トュルトュルトュルトュルトュルスコイ!」
「統合失調症です。
統合失調症です。
統合失調症です。
統合失調症です。」
「おいドクター島崎おまえ頭大丈夫か!
流れ作業にも程があるべ」
「どっちかつーと、ナース島崎だけどな。
語感が良い方を尊重すな」
「尊重すな、優先すな、セレクトすな、
改めてどうぞ」
「語感が良い方を優先すな」
「カッケーな」
「決まったな」
「一番良いの選んだな」
「セレクトって言いそうになって、この場合、ややこしいから咄嗟に回避して、選んだを選んだことに成功」
「ずっと何言ってっかわかんねー」
「誰がどれを言ってんだ」
「混雑すな、混雑すな」
「これ何小説だ」
「何小説でもいいし、そもそも小説じゃねー。現実だ。ドクター島崎は元々イカれてる」
「イヤ、少しでも冷静になれ、混雑じょうせつじゃ」
「今のとこだけポイント入ってる、おれの中で」
「君はドサクサに紛れ、いつも良い仕事をする」
「おれの中では入ってないけどな。混雑じょうせつて。
なんつーかザ行過ぎるわ」
「余計ややこしい、余計ややこしい、余計ややこしい」
「ちゃんとした審判呼んでくれー」
「私情挟まないタイプの審判寄越してくれー」
「ロボットみたいな的確な審判調達してくれー」
「ややこしくしようとすな」
「シンプルに決まったー」
「何が」
「シャーーーー!」
「どんどん良くなる君のプレイを見ていてかった。
指導者失格です」
「審判失格です」
「作者失格です」
「安西先生、ブチギレじょうせつが、書きたいです・・・」
「その涙を虹色パルスと名付けましょう」
「忙しくしようとすな」
「漫画のような、哲学書のような、今まで読んだことがない感じの、
リハビリにも最適な、余計混沌とするような、脳がシビれるような、
価値観が揺らぐような、概念が覆るような、システムが変わるような、そんな物語が書きたいです」
「なんか、多いな」
「現実と虚構を行ったり来たりするような」
「多いって。もう入んねーよ」
「大前提すら覆すような。コンセプト自体が変わっていくような」
「うるせーな」
「シンプルに決めろ」
「お前にゃ無理だ魚住」
「オレじゃない。ウチの仙道がやる」
「こいつ・・・。その気がないわけでもなさそうだな・・・」
「要素多いな」
「要素過ぎる」
「要素過ぎるってなんだよ」
「忙しい」
「猫の手借りてきて、その猫が子供産んだりして、最初の忙しいヤツどころじゃなくなって、もっとわけわからんくなって、なんだったっけ、でもまあ人生ってそうゆうもんだよねって、なんか受け入れてしまうようなあの感じか」
「夕暮れのベンチでなんでこうなったんだっけ?ってポカーンとするあの感じか」
「調和と混沌を行ったり来たりして、なんとか丁度良いバランスを探る作業をしている時のあの感じか」
「だから誰がどれを言ってんだよ」
「説明してる余裕ねんだよ」
「余裕がないというより、野暮だよな」
「無粋だな」
「ナンセンスだな」
「同じようなことを色んな言い回しで言うな。
一発で決めろ」
「瞬間的にセレクトせぃ」
「シンプルにガツンと決めろ」
「なんかわかりそうで、わからん。
届きそうで届かん。いや微かには当たっている」
「アリウープや」
「おしい、イヤ、ほしい」
「言い直して、あえて間違えるヤツがあるか、
言い直して、あえて間違えるヤツがあるか」
「ファンタおごってやる。
イヤ、ファンタをおもってやる」
「時間と手間をかけて、丁寧によりわかりづらくするヤツがあるか、
時間と手間をかけて、丁寧によりわかりづらくするヤツがあるか」
「ややこしくすることとか、わかりづらくすることに全BETしてんのか???」
「全BETしてんのか???より
全振りってしてんのか???って言い方の方が良くない?」
「うるせーな」
「なんか概念が古いな」
「テヘッ」
「80年代の照れ方すな、80年代の照れ方すな」
「イテーッ。黒いケトルにつまずいて、後頭部ガーンだ!」
「このクイズ番組おもしい」
「風呂上がりに正座してゼリー食いながらクイズ番組見る習慣やめろ」
「どこの世界の何カルチャーの何というルーティンだ」
「ちょー待って!あの稲光なんだ!
だんだん迫ってくる!」
「UFOだ!!!」
「ゴッチャゴチャだな」
「忙しい」
「シンプル」
「シンプルにせわしない」
「統合失調です」
「違う違う。今忙しいだけだ」
「統合失調症です」
「うるせーな」
「統合失調です」
「洗脳すな」
「統合失調症です」
「黙ってろ!ドクター島崎」
「気に入ってる?」
「ドクター島崎という語感、メッチャ気に入った。
何回も言いたい」
「統合失調症です」
「そっちじゃない。そっちじゃあない」
「統合失調症です」
「嬉しそうに言うな」
「統合失調症です」
「惰性で言うな」
「統合失調症です」
「口癖か」
「統合失調です」
「ロボットか」
「統合失調症です」
「キリねーよ」
「統合失調です」
「ドクターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ガチのドクター呼んでくれーーーーーーーーーー!」
「島崎以外のドクター寄越してくれーーーーーーー!」
「ヘリコプターで駆けつけてくれーーーー!」
「プロペラを虹色にバタつかせて、
漫画みたいに駆けつけてくれーーー!」
「おーい!!!ドクター何人か調達してくれーーー!!!」
「早急にオペしてくれーーー!!!」
「島崎のブレインをオペレーションしてやってくれーーーーー!!!」
