第27章 All apologies
「今日はテレビ制作をしましょう。
マネーの虎のパロディーです」
「是非やりましょう」
なぜかこの日は不思議と一体感があった。
それぞれ役を決め、見切り発車で始まった。
「ノーマネーでフィニッシュです」
吉田D作が言った。
それを受けて、チャレンジャーの佐川さんが言った。
「ド畜生!来た意味ねぇ!!もう知らん!
右の社長から順番に思いっきりビンタしていく!!!」
バチコン!!!!!
「痛ぇ!想像してた四倍くらい痛ぇ」
バチコン!!!!!
「エグ!!!ここまで痛いとは!脳震とうをギリまぬがれている!!!」
右から三番目のジョセフ崎社長が言った。
「ちょっと待て!いくらだっけ?
あんなビンタ喰らいたくない!550万だっけ!?
出す!出す!ほらほらマネー成立!!!」
佐川さんが言う。
「始めからポンと出せや!エラソーに雰囲気醸しだして、
それっぽいこと言って、もったいぶりやがって!!!
なんだよ!始めからこうしてりゃよかったよ!
三ヶ月寝ずに考えてきたおれの計画はなんだったんだ!!!
畜生!なんか空しいぜ!!!」
佐川さんが550万円を手に、会場を出ようとした時、
吉田D作が言い放った。
「あなたがその550万を受け取り、ここを出、何に遣おうと構わない。しかし、あなたの言葉は聞きずてならない。
来た意味がないだの、三ヶ月のおれの計画はなんだったんだなどと。
まだビンタを喰らってない左側の虎たちは、心底あなたにお金を出さなくて良かったと思っているでしょう。
あなたは最終的に550万円を掴んだ。
暴力で。腕力でねじ伏せた。
ビンタで掴み取った550万。
プレゼンで掴み取る550万。
ーーーーーーーーーー。
何か違和感を感じませんか。
それとも、こんな話は聞きたくないですか?
それならどうぞ、そのドアから御退場下さい。
佐川さんの足が止まった。
「D・・・作・・・さんーーーーーーー」
彼の目からはウロコという一粒の涙がーーーーー。
さらに吉田D作はつづける。
「その雫はやがて誰かの頭の天辺へと届き、
虹に変わり、その人の何かを変えるでしょう。
ぼくはそれを『虹色パルス』と呼びます」
小坂沢社長が言う。
「D作さん、なんて呼ぶかどうかは、今どうでもいいじゃないですか」
吉田D作が言う。
「どうしても、言いたかったんです。
前から考えてて、いつか言えるチャンスが来たら絶対言おうと思っていました。
それが、今来たのです」
佐川さんが言う。
「ぼくはD作さんから、この言葉を貰い、虹色へ変わる雫を流すために、三ヶ月、頑張って来たんだ。きっとそうだ。
絶対そうだ。
なんだこの、マネー成立以上の充実感は???」
虚無が充実へと変貌した瞬間だった。
虎たちは全員心を撃たれ、起立し、拍手とエールを送った。
「若者よ!未来ある若者よ!!!
虹色パルスの伝達者として、世界へはばたいてゆけ!!!!!」
「ありがとうございました!!!!!」
本当の感謝の気持ちを社長たちに伝え、
涙を拭い、550万円をしっかりと胸に抱きしめ、
会場をあとにする佐川さんであった。
吉田D作が興奮気味に言った。
「この番組の司会者でよかった!!!」
カンガエ・スギオが言った。
「なんだこの茶番劇は?
誰のために何のためにやっているんだ!?
近づいてるのか遠ざかってるのかわからない。
進化してるのか退化してるのかわからない。
途中だとしたら?
途中だとしたら、まあ進化かな。。。
まあでも、みんなが愉しいかどうかも大事だよな。
バランスだな。
愉しいだけじゃ、うーんとなるし、何かしら意味を得たいし、
意味を求めすぎると、浅ましくなったり、ウソっぽくなるしなあ」
カンケイ・ナキオが言った。
「関係ないぜ! 何でもいいじゃねえか!
みんな夢中で頑張ったんだからいいじゃねぇか!」
その様子をテレビで観ていたカートコバーンは、
うわのそらで呟いた。
おれたち、何ものにも代え難い、かけがえのない存在。
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『「フレア」か「パルス」か、それ以外』という物語を
試験的、実験的に書いています。