37話 途中感
「そんなことがあったのね」
「それに対してなんて言えば良いの?
なんて言うのが正解なんだ?」
「それはキツイな。とか?」
レインコートくんがおもむろに口を開く。
「噓なんだけどね」
「噓?なんで?」
菅原さんがここぞとばかりに口を挟む。
「わかった!キュピオくんが嬉しそうに話しているから嫉妬して寝技に持ち込んで、グダグダさせようとしたんじゃね?」
レインコートくんが言う。
「菅原さん。全然違います」
菅原さんが言う。
「全然違うのかー」
レインコートくんが言う。
「ただ言っただけなのかもしれないし、違うかもしれない。
自分でもわからない」
「『おれとおれの子供が殺された』って名台詞じゃん。
名シーン。映画化されたら最強のシーン」
「ブチ殺す」
「ワン、ツー、おれとおれの子供が殺された」
「ブチ殺す」
「キュピオくん。レインコートくんの話聞いてどう思った」
「なにも思わない」
「ブチ殺す」
「強いて言うなら」
「おれは自分の曲とか作品を子供だなんて思ったことないな。
マジになり過ぎじゃね?大げさというか。」
「レインコートくん、なにも思わないと言われてどう思った?」
「なにも思わない」
「それは噓だな」
「イヤ、これはマジだよ。さっきのは噓だけどこれはマジだよ」
「なんか頭くるからホントでも噓でもどっちでもいい。
この空気どうしてくれる?あなた何か出来ることある?」
レインコートくんが言う。
「誰かが憂鬱になった時、太陽が眩しくて辛い時、
雨を降らせて、寄り添うことが出来る」
「では、その能力を存分に活かしておくれ。
そしたらあなたの今回の件はチャラに出来る。
それどころか、重宝される可能性すらある。
雨降って、地固まる。
雷に打たれてサンダーボルト吾郎と名乗りだす」
「雷を欲しているのなら、僕にお任せ下さい。
雨さえ降っていれば、稲妻を呼び起こせます」
「あ、あなたは?」
「東前田勝俊です」
「ヒガシマエダカツトシさん、あなたにそんな能力があったのですね?」
「噓です、そんな能力ないです」
「あなた、その意味分からん噓どうするの」
「それを元に漫画を書いて、誰かを喜ばせます」
「それが出来たら、あなたはトランポリン北澤を殺しに来た時の、
焦点が合ってなかった異様な雰囲気のあなたではなく、
漫画に没頭し、重宝される可能性すらある。
結果はどうあれ、その姿勢はこの部屋に良い作用、良い循環をもたらすでしょう」
「その鉛筆はのちに、フランスパルス博物館へ展示され、
世界歴史の財産となり永遠に語り継がれることでしょう」
「世界歴史の財産になるように、精進します。
僕は東前田勝俊です」