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嘘つきの幽霊

【登場人物・設定】


◆平塚大樹(28)IT企業のSE。今は世田谷区で一人暮らし。誰かにめちゃくちゃいいやつと呼ばれるほどのお人よし。お人よしすぎて損するタイプ。
 栃木県出身。大学進学のため18歳で上京。その後、就職を契機に3年前に現在のアパートに引っ越す。2つ違いの弟(宏樹)が3年前、パワハラを苦にして自殺した。その時平塚は就活で多忙で、弟が苦しいときに気づけなかったことを悔しく思っている。

◆山崎隼人(22)無職の泥棒。ニヒルに振る舞っているが、根は苦労性の常識人。
 静岡県出身。中学までは成績がよく、プライドが高かった。高偏差値の高校に入ったせいで一気に成績が平均以下になり、自分が平凡であると思い知らされる。そのころ父親が同僚に騙されて職を失い、家の経済状態が悪化。大学進学が難しくなる。
 高卒で上京して、アパレル会社の販売員として働き始めるが、ブラックな就労環境と自身のプライドの高い性格が災いして、上司から嫌われ怒鳴られ続け、鬱屈していくき、ある日過呼吸で倒れて、会社を辞める。自分はもっと高く評価されるべきという発想から抜けられず、承認欲求を満たすために、競馬やパチンコなどギャンブルに手を染め始める。その結果すぐに金を使ってしまい、借金をするように。職を転々とするが、どこも長続きしない。自分ばかりが損をしている、という気持ちでいっぱい。最近はギャンブルを通じて知り合った悪い仲間のつてで、万引きや空き巣、詐欺の受け子などの犯罪にも手を染めつつある。
 繊細そうで、放っておけない雰囲気があるため、わりと人を引き付ける。だが同情をかけられると、揉めてしまい関係が続かない。結局誰もが利己的で、心から人のためを思う人間などいない、という思い込みが強く、人を信じられない。友人や恋人ができると、わざと多額の金をせびったり、信頼を試すようなことをして関係を壊してしまう。しかし、心の奥では「本当に善い人と出会って仲良くなりたい、そして自分も変わりたい」と望む思いを捨てきれていない。

◆高嶺真元(35)霊能者。飄々として、つかみどころのない雰囲気。実はなかなかの実力がある。見た目は、お姉さん系コンサバファッションをしているきれいなお姉さんなので一見、霊能者っぽくはない。喋り方が男言葉。

【本編】

SCENE 1

○平塚のアパート前の廊下

平塚「(鼻歌)ふんふふ~ん……(独り言)ただいま~」

○平塚のアパート 玄関

  仕事から帰宅した平塚が、玄関の扉を開けて部屋に入ってくる。

平塚「(独り言)って、誰もいないけど……」

  平塚、電気をつける。
  山崎、部屋の中央に仁王立ちしている。

平塚「うわ!」
山崎「おかえり」

  驚く平塚に、平然と告げる山崎。

平塚「わーー! 不審者!不審者ー!」

  スマホを取り出して警察に電話をかけようとする平塚。
  取り乱す平塚に、平然と告げる山崎。

山崎「通報しても無駄だ。……なぜなら俺は、幽霊だから」

  慌てる平塚に、凄みを聞かせた声で告げる山崎。

平塚「は? 幽霊……? (山崎の姿をまじまじ見つめて)嘘だろ、
   こんなはっきり見えてるのに」
山崎「最近の幽霊はそうなんだ」

平塚、半信半疑の様子で、山崎の腕をつかんでみる。
山崎、振り払って、

山崎「何すんだ」
平塚「さわれるじゃないか」
山崎「最近の幽霊はそうなんだ」

あくまで白を切る山崎。
平塚、疑ってじっと見つめる。

平塚「……」
山崎「……」

  ふたりにらみ合う。

平塚「いやいやいや」

  とても信じられず、改めてスマホで電話をかけようとする平塚。
  すると山崎、平塚を制するように声を高める。

山崎「(大声)俺は」
平塚「わ、何」
山崎「以前、この部屋に一人で住んでいた――」

  山崎、芝居がかった様子で語り始める。

山崎「就職氷河期、やっとの思いで入った会社の上司がめちゃくちゃなパワハラ野郎で、怒鳴られるわ罵られるわ……俺は毎日死にたいとばかり思いながら通勤してた。挙句解雇されて、それ以来どこへ行っても、人が怖くてまともに働けない。誰も助けちゃくれない。みんな自分のことばかりだ。結局、人権なんて、レールを外れずに生きてる人間にしか無い。そう思い知ったよ……」

  山崎、滔々と語る。

平塚「それじゃ、まさかお前……」
山崎「ああ……俺は世間の邪魔者だった。だから、消えてやったんだ」

  山崎、首を吊るようなジェスチャーをする。
  静寂。
  平塚、目元を押さえてうつむく。

平塚「……! っ、ばかやろぉ……」
山崎「え、泣いてる?」

  山崎、驚きのあまり、一瞬素に帰る。
  平塚、山崎の両肩をぐっと掴み、

平塚「そんなことない、そんなことないぞ! お前に生きていてほしかった奴は、きっといるはずだ! この、ばか……っ」

  涙ながらに訴える。

山崎「お、おう……?」

  あまりの剣幕に気圧される山崎。

平塚「そうだよな……それじゃ、成仏できないよなあ……」

  平塚はうつむいて落ち込んでしまう。
  それを見て、胸の内でほっとする山崎。

山崎(M)「た、助かった……」

  × × ×
  回想。一時間前。
  ピッキングで玄関の鍵を開け、そっと室内に侵入する山崎の姿。
  × × ×
  机の上に出しっぱなしだった平塚の通帳を手に取り、
  めくって金額を確認する山崎。
  通帳をポケットに入れ、なおも部屋を物色していると、
  廊下から平塚の足音と鼻歌が聞こえてくる。
  × × ×
  廊下。
  鼻歌を歌いながら歩いてきた平塚、扉の前に立ち鍵を開ける。
  × × ×
  室内。
  山崎、焦って引き出しや荒らした書類を元に戻しつつ、周囲を
  見回すものの逃げ場に困って、仕方なく部屋の中央に仁王立ちになる。
  × × ×
  回想戻り。

  平塚がうつむいている内に、そっと玄関に向かおうとする山崎だが、

平塚「よーし、わかった」
山崎「わっ」

  平塚、顔を上げ、山崎に向き直る。
  山崎、慌てて元の位置に戻る。

平塚「俺がお前を成仏させてやる。生まれ変わって、今度こそ幸せに生きるんだ!」

  平塚、山崎の肩を掴んで力説。

山崎「え、いやそんなのいいから……」
平塚「遠慮するな!」

  平塚、山崎の背をばんと叩いて笑う。
  そして、勝手に悩み始める。

平塚「しかし幽霊を成仏って、どうしたらいいんだ。お経とか唱えるのかな?いや、でも現世に未練があるなら、それを晴らしてやらないとだめなんじゃ……」

  平塚が考え込み始めた隙をついて、今度は窓から逃げられないか
  見回す山崎。そろりと窓へ向かおうとしたとき、平塚が振り返る。

平塚「そうだ!」
山崎「えっ」

  平塚の声に驚いて、再び元の位置に戻る山崎。

平塚「知り合いの知り合いに、確かすごい霊能者がいた……電話してみるわ!」
山崎「いや知り合いの知り合いって……他人だろ」

  平塚、スマホで電話をかける。

平塚「(電話)あ、渡辺? あのさ、前に霊能者の知り合いいるって言ってたろ? あ、知り合いの知り合い?」
山崎「それじゃ、知り合いの知り合いの知り合いじゃんか……」
平塚「(電話)その人の連絡先さ、わかる? あ、ありがとな!」

  平塚、ニコニコして電話を切って、

平塚「待ってろー、霊能者に連絡とれそうだ」
山崎「何でお前が嬉しそうなんだよ」
平塚「(メッセージを見て)お、来た。高嶺さんか……よし」

  平塚、意気揚々と電話をかける。

平塚「(電話)あ、もしもし。高嶺さんですか? 俺、渡辺の友達の平塚ですけど。あ、はい坂田のバイト先の渡辺の友達の平塚です」
山崎「関係性遠すぎるだろ……」
平塚「(電話)急にすみません。……はい、実はあの今、俺の家に幽霊がいて。はい、除霊してほしいんですけども……え、50万円!?」
山崎「50万!?」

  驚く平塚。横から聞いている山崎も驚く。

平塚「(電話。感心して)へえー、さすが、一流なんですね。すごいな」
山崎「いや、信じるのかよ」
平塚「(電話)でも50万はちょっと俺には厳しくて……あ、初回割引があるんですか? 10万? それなら払えます!」
山崎「いや、それも高いよ!?」
平塚「(電話)はい、では今すぐ。ありがとうございます! じゃ、住所送りますんで。それじゃ!」

  平塚、電話を切る。

山崎「え、頼んじゃったの!? 10万で?」
平塚「ああ、本当なら50万のところを、初回限定価格だって!」
山崎「それお前騙されてるだろ」
平塚「いや、きっとちゃんとした人だからこそ、高い金額でもやって行けてるんだ」
山崎「貯金23万しかないくせに」
平塚「え、何でそんなこと知ってるの?」
山崎「(慌て)い、いや……霊だからわかるんだよ」

  平塚、不意にしんみりして、

平塚「いいんだ。お金に換えられないものってあるから……」
山崎「……よっぽど幽霊が怖いんだな」

  山崎が呆れて言うと、

平塚「ん? 別に怖くはない。きみ、全然幽霊っぽくないし。一人暮らし寂しかったから、ちょっと楽しい」
山崎「は? ……怖くないなら、何で」
平塚「さっきも言ったけど。きみに生まれ変わって、幸せになってほしいんだよ」

  平塚、屈託のない笑顔を向ける。
  山崎、戸惑う。

山崎「……何で、見ず知らずの幽霊にそこまで」
平塚「若い人が死ぬのは、悲しいことだよ」
山崎「そうか。こんな世の中、生きててもいいことなんかないじゃん」
平塚「そう決めつけちゃだめだよ。未来のことは誰にもわからないもんだよ」
山崎「わかりきってるよ、未来なんか」
平塚「そうかな?俺は25年生きてきて、今日初めて幽霊に会った。そんなこと、想像もしなかった」

  あくまでポジティブに笑う平塚に、少し毒気を抜かれる山崎。

山崎「……確かに俺も、お前ほど能天気な奴に会うのは、初めてだよ」
平塚「(笑って)おい、何だよそれ」

  その時、玄関のチャイムが鳴る。ピンポーン。
  二人は顔を見合わせ、玄関に向かう。

平塚「きっと高嶺さんだ」
山崎「え、もう? 早すぎない?」

SCENE2

○平塚のアパートの玄関

  平塚が玄関を開ける。
  のっそりと高嶺登場。

高嶺「こんばんは。はじめまして。霊能者の高嶺です。」 
平塚「こんばんは! 夜遅くに、ありがとうございます。平塚です!
   どうぞ。」
高嶺「では、お邪魔する。」 

  ブーツを脱ぎ、玄関にあがる高嶺。

平塚「こっちです」

○平塚のアパートのリビング

  リビングで仁王立ちで霊能者をまつ山崎。
  ずかずかリビングルームに入る高嶺。
  高嶺、宙に視線を据え、ぽつりとつぶやく。

高嶺「……お、これは、『居る』な」
平塚「わかるんですか?」
高嶺「ああ、いる……」
平塚「さすがですね!」

  平塚はすっかり感心している。

山崎「うさんくさ……」

  山崎がぽつりとつぶやくと、高嶺が彼に目を留め、

高嶺「何だ、君は」
平塚「やっぱり、彼が見えるんですね!」
高嶺「見える? 何を言ってる」
平塚「彼が幽霊なんです」
高嶺「こいつが幽霊?」

  高嶺、疑うようにじろりと山崎を見つめる。

高嶺「……」
山崎「……」

  山崎も、負けまいとにらみ返す。
  しばらくガンつけ合って、

高嶺「なるほど。こいつは確かに幽霊だ。しかも、かなり悪質な地縛霊だな」
山崎「おい、こいつ詐欺師だよ」

  高嶺がいい加減なことを言うので、山崎はムカついた様子。

平塚「いや、違うんです。彼はかわいそうな幽霊なんです。何とか成仏させてやりたいのでお願いします」

  平塚はあくまで親身に弁護する。

高嶺「うむ……こいつは生前の悪行のせいで、成仏できずにいる。だから、善行を積むことで成仏できるだろう」

  もっともらしく合掌して言う高嶺。

山崎「いや、適当なこと言うなよ」
平塚「そうか、善い行いをすればいいんですね。善い行い、善い行い……」
山崎「あんたは簡単に信じるなっての!」

  完全にツッコミに回っている山崎。
  信じ込んで真面目に悩む平塚。

平塚「善いことといえば、ボランティアだな! よし、ゴミ拾い行くか」
山崎「ちょ、今、夜10時だけど」

  平塚、山崎の手を引いて歩きだそうとするのを、止める山崎。

平塚「そうか、それもそうだな……今すぐできる善行って、何かある?」
高嶺「あ、私ちょっと疲れてるから、肩揉んでくれ」
平塚「え、そういうのでいいんですか?」

  飄々ととぼける高嶺と、真に受けて驚く平塚。

山崎「やだよ」
高嶺「(平塚を示し)じゃあ、こいつ揉んでやれ」
平塚「いや、俺はいいよ。あ、だったら上の階に一人暮らしのお爺さんいるから、何か手伝うことないか聞きに行けば――」

  平塚と高嶺が勝手なことを言い、わちゃわちゃした空気に。
  流石に耐えられなくなった山崎、声を荒げる。

山崎「あー、もういいから!」

  高嶺平塚、驚いて山崎に注目する。

山崎「善いことすりゃいいんだな。わかったよ。(平塚に)おい、お前!」
平塚「俺?」
山崎「カーテン開けっ放しで仕事行くのやめろ。それに通帳とか、机の上に出しっぱなしにするな。もっと隠せ。不用心なんだよ。」
平塚「え、出しっぱなしだった?」
山崎「だったよ! ほら、これだろ!」

  山崎、隠し持っていた平塚の通帳を平塚にぽんと渡す。

平塚「あ、ほんとだ。……って、何でお前が持ってるんだ?」
山崎「あと、ここのアパートの鍵、安物すぎる。ガキでもピッキングできるぞ。通りから部屋が丸見えだし。もうちょっと気をつけろって大家に言ってやれ」
平塚「(感心して)はー、全然気づかなかった。ありがとう、君、物知りな幽霊だね!」
山崎「御礼言ってる場合か、お前、お人好し過ぎるんだよ。いつかひどい目に会うぞ」

  まくしたて終わり、ふうっと息をつく山崎。
  平塚は素直に感心している。
  高嶺、訳知り顔で、

高嶺「うむ。これはまさしく善行だ。君ならではのな」
平塚「え、じゃあ……」
高嶺「ああ、これで無事成仏できるだろう。」

  山崎、高嶺を指差す。

山崎「あと、こいつ、霊能者じゃないから。10万円払うなよ。」
平塚「え?」
高嶺「私は霊能者だ。」
山崎「いや、違うね。俺は幽霊だからわかるんだよ。。」

  静寂。

平塚「高嶺さん…?」
高嶺「ここには幽霊がいる。君の、肩に乗っている方の幽霊のことだがね」
平塚「え……」
山崎「え?」

  高嶺の言葉に、驚く平塚と山崎。

高嶺「彼からの言葉だ。『兄貴、嘘ついてごめん』だとさ」
平塚「それって……っ」

  平塚、息を呑む。山崎きょろきょろと辺りを見回す。

山崎「は?どういうこと?お前、嘘つくのやめろよ!」

  わけがわかっていない山崎。
  高嶺、平塚のななめ後ろを見つめて、

高嶺「弟さんかな」
平塚「宏樹?宏樹がいるんですか?」
山崎「な……宏樹?」
平塚「俺の弟、1年前に自殺してるんだ。その、宏樹が自殺する一週間前に会ったのにさ……俺は働き始めてから、実家でちゃったからさ、全然会ってなくて。久々に実家であったらなんか様子がおかしくて、大丈夫?って聞いたけど、あいつ、大丈夫だ、元気だって言ってたんだよ。でも本当は、職場でパワハラにあって、苦しんでた。俺もその時、仕事がすごく忙しくて、会えなかったし全然気づいてやれなかったんだ……」

  平塚、山崎に目を向ける。

平塚「さっき君が言った言葉……まるで、宏樹から言われてるみたいだった。びっくりしたよ」
山崎「え……」

  悲しそうに笑う平塚。

平塚「そうか、宏樹もやっぱり、成仏してないんだ」
高嶺「彼は成仏できないのではなく、しないんだそうだ。君を守っている。お人よしすぎる君を心配している。それに、お人よしには、特に生きづらい時代だから、と」
平塚「宏樹……」

  平塚、静かに涙をこぼす。

平塚「宏樹、正直にパワハラにあってる、って俺に言ってくれればよかったのに。そしたら何か助けることができたかもしれなかったのに。」
山崎「違う。言えないだろ、言えないんだよ。俺はわかる。」
平塚「……え?」

  × × ×
  回想。数年前。
  同僚たちの前で執拗に上司に叱責される山崎。
  山崎は、言い返すことができず顔が青ざめている。
  続く上司の怒鳴り声。過呼吸状態になり倒れる山崎。
  × × ×
  回想終わり。

平塚「山崎くん、、」

  高嶺、平塚のななめ後ろを見つめながら話す。

高嶺「宏樹さんは、平塚くんに相談しなかったことを悔いているようだけどな。パワハラを受けたことを話すのが恥ずかしかったそうだが、ストレスが溢れる出す前に頼れば良かったと言っている。」
平塚「宏樹…」
山崎「…たしかに、こいつみたいな兄貴がいるなら嘘をつかずに、勇気をだして相談すればよかったんだ。俺には誰もいなかったけど、いたんだから。俺も、こいつみたいな兄貴がいたら、こんなことは…」
平塚「山崎くん…もし成仏できなそうなら、君も宏樹と一緒にここに居てもかまわないよ。」

  自分の幽霊設定を忘れていたことに気づき、我にかえる山崎。

山崎「いや、俺は…」
高嶺「(遮って)何の因果か世知辛い時代だが、地獄も極楽も命あっての物種だ。精進せえよ、若人たち」

  話の雰囲気をぶち壊して、朗々と語る高嶺。

山崎「何なんだよ、あんた。」

高嶺「これで君は無事成仏できるだろう。(山崎に)生まれ変わったら、真っ当な人間になれよ」

高嶺は、山崎の正体に気づいている様子。山崎も勘づかれていることに気づく。玄関を指差す高嶺。

高嶺「さ、君、お帰りはこちらだ。」
山崎「ああ」 
平塚「え、普通に玄関から成仏するの」
山崎「最近の幽霊はそうなんだよ」

  まだ信じている様子の平塚に、冒頭の言葉を繰り返し、苦笑する山崎。

Scene 3

○平塚のアパート 玄関

  玄関で扉に手をかけると、山崎は振り向いて微笑を浮かべる。
  玄関前に平塚と山崎が立ち、山崎を見送る。

山崎「じゃあな、お人好し」
平塚「ああ、元気に成仏しろよ」
山崎「何だ、それ」

山崎、明るく笑って、扉を閉める。
高嶺、平塚、ほっと息をついて閉じた扉を見つめる。

平塚「高嶺さん、あいつ、天国にいけますかね」

  しんみり言う平塚だが、

高嶺「まだそんなこと言ってるの。あいつ、幽霊じゃないよ。人間だよ」

  呆れて告げる高嶺。

平塚「えっ。(絶句)じゃ、あれは誰なんですか?」
高嶺「泥棒か何かじゃないの?」
平塚「だ、だって高嶺さんもさっき、地縛霊だって」
高嶺「根は悪い奴じゃなかったみたいだからね」
平塚「そんな無責任な」
高嶺「いいんじゃないか。君のおかげで、彼は救われたよ」
平塚「え、そうですか? 何で?」
高嶺「にぶちんだなあ。(視線を平塚の後ろにやって)弟さんも苦労するね。(弟と話している様子)ん? あ、そうなの、やっぱり? ははは」
平塚「あ、ちょっと、ずるい。俺も宏樹と話したいです」
高嶺「それは別案件になるから、追加50万円だね」
平塚「えー!」

  ワイワイ言っている二人でフェードアウト。


原案:空想喫茶
脚本:論理鼠・空想喫茶

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