「開業当時の自分に伝えたいこと」を聞いてみた /多職種フリーランス 植木那菜
開業1年目の方に向けた本インタビュー企画。
インタビューでは個人事業主やフリーランスとして活躍されている先輩方に、開業当時の思い出や苦労、そこからの学びなどを尋ねます。
普段あまり知られることのない開業、そして個人事業成功の秘訣とは何か?を探っていきます。
今回は自らを「多職種フリーランス」と名乗る植木那菜さん。いつかはフリーランスとして働きたいと、着実にスキルを身に着け、転機をとらえてついにフリーランスとして働き始めました。1年経って、現実と理想のギャップはあったのか、現在のお仕事状況や今後目指すところについてお話をうかがいました。
聞き手:工藤京平(freee株式会社)
独立を視野にした転職でスキルを構築
工藤:現在のお仕事内容を教えてください。
植木さん:去年の6月からフリーランスとして働き始めました。「多職種フリーランス」を名乗っていて、デザインの制作やマーケティングの支援、ライティングのお仕事などを受けています。デザインも幅広く、グラフィック、Web、ブランディングでロゴ制作なども対応しています。
工藤:「多職種フリーランス」、はじめて聞きました。具体的な仕事内容を教えてもらえますか?
植木さん:今は3、4社と契約しています。ベンチャーから大きめの会社まで様々。
今日場所をお借りしたXtraさんだと、デザイン全般をトータルでまかせてもらっています。Webサイトの改修やチラシの制作など。そのほか、サービスのUI、広告クリエイティブ・会社概要の作成、ブランド立ち上げのビジョン作りなど多岐に渡って関わっています。
マーケティングではPR会社と一緒に、その先のクライアントに向けてマーケティングのサービスを提供することも。あと市場調査から戦略立案の支援もしたりします。ライティングについてはビジネスマッチングアプリのユーザー事例のライティングを担当しています。
工藤:かなり幅広いですね。フリーランス前には何をされていたのですか?
植木さん:新卒で広告代理店の営業を3年半経験し、ある程度仕事を覚えたところで自分の市場価値試してみようと転職。より上流のマーケティングに携わりたかったので、2社目はマーケティングリサーチの会社に。そこでブランディングチームに配属されましたが、そのチームが解散することになり、マーケティングの戦略や実行支援ができる環境を求めて、取引していた会社に転職したのが3社目です。
工藤:マーケティングの幅広い経験を積まれたのですね。デザインについてはどこで学ばれたんですか?
植木さん:代理店の頃から副業でデザインをはじめていました。知り合いのお店のチラシ制作から小さくはじめましたが、徐々に副業として本格化したので、開業届を出しました。
工藤:多職種で同時並行することのよさはありますか?
植木さん:相乗効果はあると思います。幅広いノウハウがたまっていくこともありますし、別の会社への提案が他の会社でも活きてきたりする。それはクライアントにとってもメリットになると思います。
領域をわけることがあまり好きじゃないんです。ブランディングの仕事でも、領域が分断されると思想が浸透しないことも。俯瞰してみることが大事で、そのためには幅広いスキルを持っている必要があります。
工藤:もともと独立を視野にいれていたのですか?
植木さん:就職するときに、いつかフリーランスになりたいという思いがありました。働き方が選べるし、会社の看板ではなく、自分に仕事がくるのがかっこいいなと思ってました。会社だと会社の枠の中での仕事しかできなくて、つまらなくなってしまうんです。会社員として経験積むうち、憧れはどんどん大きくなっていきましたね。仕事柄フリーランスの方とやり取りも多かったので、身近な存在でもありました。
工藤:独立するタイミングはどうやって決めたのですか?
植木さん:本当は、もう少し前職で経験を積み、30歳を過ぎたくらいで独立しようと思っていましたが、諸事情あり、思い切って退職してみました。転職活動と並行して、フリーランスとしてもお仕事をもらうようになり、そのうちフリーランスでも食べていけそうだな、と今に至ります。
とにかく人に会えば仕事につながる
工藤:フリーランスになって直後のお話をうかがいます。前職をやめてから、まずどうやって仕事を見つけていったのですか?
植木さん:新卒の会社で営業をやっていた経験から、とにかく人に会いまくろうと。ビジネスマッチングアプリのyentaを使いました。月に20〜30人会っていたら、4人に1人くらいはお仕事につながり、安定してきました。
昨年の6月からはじめて、4カ月で40〜50名はお会いしています。8月くらいには成功体験ができてきて、このままフリーランスでいけそうだなと思うようになりました。10月頃には仕事がいっぱいになってきたので、それからマッチングはいったんお休みして、今は趣味として再開しています。
工藤:多職種のうち、どんなお仕事からはじめたのですか?
植木さん:デザインやWeb関連ならなんでもとびつきました。できる?と聞かれたら、実績がなくても「やれます!」と(笑)。
副業で経験のあったグラフィックデザインからはじまり、Web、デザイン、マーケティングと、お客さんから依頼に応えるうちに、それぞれ実績が積み上がっていきました。
依頼の解像度にもよりますが、3割くらいアウトプットのイメージがついたらかたちにできると思っています。相手もできるだろうと思って声をかけてきているので、どこかに価値を感じてくれているはず。前段のコミュニケーションで、着地点のイメージをすりあわせて、お互いに合意が取れることが大事ですね。
工藤:今はマッチングを趣味程度とのことですが、今後また仕事を増やしたい場合はまた本格的に利用されますか?
植木さん:ありがたいことに、自分で動かなくても、人の紹介でお仕事をいただけるようになってきていますね。定期的にお願いしてくださる方もいるので、そこからつなげていけば仕事は増えていきます。
工藤:最初に広げた営業先からの波及効果が残っているのですね。
植木さん:そうですね。最初にがんばった甲斐がありました。
やってみれば意外とできたフリーランス
工藤:どんな環境でお仕事されていますか?
植木さん:委託元の会社にいって作業することもありますし、納品ベースのお仕事もあります。朝起きてニュースやメールチェックしたあと、その日やることを決めます。そのとき、苦手だと思う作業を午前中にもってくるようにしています。午後はアポで外に出たり、頭を使わずに済む作業や、得意な作業に時間をあてるようにしています。
工藤:実際にフリーランスになってみていかがですか?
植木さん:意外とできるじゃん、と思いましたね。1年継続できたので、思っていたほどたいしたことじゃなかったんだな、やればできるんだな、と。誰かに対して提供できる価値があれば、成り立つもの。これまではもっと遠いところにあるものだと思っていました。
いろんな業界の人といろんな仕事ができるので、楽しいですね。無理なく楽しいことだけをやり続けられています。
工藤:フリーランスになってみて、戸惑ったことはありますか?
植木さん:最初は経理や契約関連が全くわからなかったです。経費精算の際に、勘定科目が何なのか、そもそも経費になるのかなど、調べないとわかりませんでした。あとは、税金に驚き。住民税が大変とは聞いていたけど、国民健康保険も毎月こんなにかかるのかと。
工藤:将来に対する不安はありますか?
植木さん:会社員として勤めていたほうが厚生年金など充実していますよね。フリーランスだと自分で考えて資産の設計をしていかなければならない。何から手をつければいいか、という不安はありますね。
仕事をする上で相手と相性が合うかどうかが重要
工藤:開業当時の自分に伝えたいことはありますか?
植木さん:新しい取引先の場合、相性やコミュニケーションが合わない方とはお仕事をしないほうがいいと伝えたいです。
工藤:相性が合わないとは具体的にどういうことですか?
植木さん:仕事への共通の目的が持てない場合とかですね。例えばクライアントはとにかくお金を稼ぎたい一方で、私はお客様に対して価値のあることをしたいといった場合に相性が合わないなと感じます。そうやって大事にしておきたいポイントがずれていると、後々トラブルになるので相性は重要だと思っています。
工藤:どうしてそう思うようになったのでしょうか?
植木さん:個人事業主になって最初の頃は相手に違和感を感じてもどんどん仕事を受けていました。ただちょうど色々な仕事が重なり忙しかったときに、相性の合わない相手とのコミュニケーションが負担になってしまったことがありました。その時から相性の合わない相手とは仕事をできるだけしないでおこうと決めました。
今は、新しく取引を始める際には気をつけるようにしています。
工藤:特に開業したての頃は、なんでも仕事を受けてしまいがちな印象があります。
植木さん:そうですね。受注時に、相手との相性を見極めることは大事です。一人だとリソースも限られますし。それでもリソースが足りない場合、デザインなど専門的なことはフリーランス仲間に助けを求めたり、ほかに切り出せる作業は外注したりするようにしました。経費入力は母に依頼したりもしました(笑)。
工藤:加えてフリーランスだと仕事の時間管理が大変だと聞きますが、その点はどうでしょうか。
植木さん:最初は時間管理ができていなかったので、昨年の10月から今年の2月くらいまでは休みなしで、徹夜の日も何回かありました。一度限界を知ったので、相性の良い相手とだけ仕事をするようにしたり、作業を切り出して外注したりして仕事の量を調整するようにしています。今では毎週土日休みがとれるようになり、徹夜もなくなりました。
仕事量の管理に会計freeeの損益レポートも参考にしています。レポートを見れば、それぞれのクライアントからどのくらい受注しているか簡単に見える化できます。経費も考慮して全体の収入として必要なラインを決めておき、それとレポートを照らし合わせるようにしています。例えば、レポート上の収入で1/3を占めている契約が翌月までだから、新しく仕事を受けないといけないな、とか。
10分で簡単に作れた開業届
工藤:副業で開業届けを出した理由は?
植木さん:一番の理由は確定申告のためですね。副業が本格化して、年間20万円以上見込めることがわかったので、フリーランスになる前に出していました。
紹介経由で新しい取引先も増えたので、後々トラブルがないようにということもあります。それまでは、ご飯おごってくれたらいいよ、と軽いノリで、知り合いに向けて仕事をしていたので(笑)。
工藤:開業freeeを知ったきっかけは?
植木さん:開業届を出そうと思い、ネットで検索して知りました。開業freeeのWebページをみて、ステップに従って入力するだけで簡単そうだなと。
工藤:国税庁のサイトで書類をダウンロードしなかったのはなぜですか?
植木さん:書類の見た目から拒絶反応を起こしました(笑)。用語も堅苦しくて、難しいですよね。国税の硬さとfreeeのゆるさのギャップがすごい。
開業freeeはあまりに簡単すぎて、逆に不安なくらい。もう一回入力し直しましたもん。でも結果は同じだったので、そのまま提出しました。いくつか項目を入力して、最後にポチっとすれば書類が出来上がる。占いかよ!って思わず突っ込みました(笑)
工藤:占い(笑)
植木さん:開業するより、転職サイトに登録するほうが時間がかかりますね。開業freeeだと10分くらいで書類が完成しました。UIの親しみやすさがいいですね。
確定申告だけじゃない。開業直後に会計ソフト導入のメリット
工藤:会計ソフトを導入した理由を教えてください。
植木さん:本業に集中するためですね。簿記の知識が少しあるのですが、全部自力で確定申告をするには、さらに勉強しないといけない。でもまずは仕事をとらないと始まらないので、勉強する時間はありません。もともと、数字を扱うのが得意ではないので、自分で帳簿をつけるとミスが起きるかも、とも思っていました。
工藤:開業後すぐに導入した理由は?
植木さん:確定申告直前にバタバタしたくなかったからです。
工藤:実際に確定申告してみて、いかがでしたか?
植木さん:開業freee同様、簡単すぎて疑いました(笑)。これまで周りが確定申告時期に慌てているのを見ていたので。入力しては、合っているのか?と、3回ほど繰り返しましたが、20〜30分で終わりましたね。
工藤:確定申告がなくても、会計ソフトは使いますか?
植木さん:使うと思います。開業直後に導入した理由として、見積書や請求書の作成・管理を楽にしたかったこともあります。会計freeeならエクセルよりも簡単に作成できるし、源泉税の計算もしてくれるので、一気に楽になりました。送付したかどうかステータス管理ができるのも便利です。
工藤:会計freeeにした決め手は?
植木さん:金額の手頃さですね。あとは使いやすそうな印象。難しいものを親しみやすくしてくれている感じがします。開業freeeを使った時点で会計freeeにすることは決めていました。
工藤:使いやすそう、という印象はどこから?
植木さん:実は会計freeeについてはその前から知っていました。知人が開業して税理士のアドバイスを受ける場に同席したのですが、そこで会計freeeをレクチャーしていたんです。最初の登録から実際の取引登録までとても簡単で、UIも見やすかった。経理ってそんなに難しいものでもないのかも、との印象を持ちました。
あとは名前と色ですかね(笑)。青だと集中できそうだな、とか。
工藤:ありがとうございます(笑)。普段はどういう風に使っていますか?
植木さん:月末に請求書の作成と発行で使います。だいたい4件くらい。経費入力は空いた時間にスマホアプリで処理しています。月20件くらいかな。あとは損益レポートを週1くらいでチェックして、その月に使える経費を確認しています。損益レポートを見ると、今月も自分は頑張ってるなと思えるので、見るのが好きです。
スマートフォンアプリは、出先でPCが開けないときでも、請求書の文言修正など突発的な依頼にも対応できるので便利ですね。
自分でサービスをつくってみたい
工藤:今後の展望についても教えてください。
植木さん:フリーランスとして多職種のジャンルを増やしていくよりは、もう一段上のレイヤーで仕事をしたいと思っています。これまで水平に広げてきた職種の上にある、ディレクションなどの業務に携わりたいです。
あとは、自分でサービスをたちあげて収益化したい。フリーランスだと今持っているスキルをお金に変えていくことになりますが、それだと成長スピードが鈍くなることを感じています。
クライアントがいるとクライアント都合なので、依存せずに済む方法を見つけておきたいです。契約期間が終了すると、ぱったりお金が入ってこなくなる、そのでこぼこを減らして、気持ちも安定させたい。フリーランスだからといって安定しないのは、経営としていいことではないですよね。
工藤:具体的に検討しているサービスはあるのですか?
植木さん:アイデアをいくつかかたちにして、芽が出たものに集中してやっていこうと計画しています。1つはブログサイトを立ち上げて、広告収入を得るビジネス。もう1つは衣類のシェアリングサービスを検討しています。
工藤:衣類シェアリングのアイデアはどこから?
植木さん:昨年の7月くらいから衣類の物販もはじめたんです。自分で仕入れて販売しているのですが、売れないものもシェアリングでレンタルに出すと回転するかも、と思い始めました。
工藤:フリーランスの本業のほかに、副業をしているんですか?
植木さん:そんな感じですね(笑)。 自分でサービスをもつとマーケティングも自分でやるようになる。クライアントワークだと冒険できないマーケティングのアイデアを、自社サービスで試してみる、なんてこともできるかもしれません。
工藤:今後フリーランスになる方に伝えたいことはありますか?
植木さん:会計freee、おすすめです。確定申告のためだけに使うのはもったいないですね。日々の見積書や請求書の作成・管理が楽になります。レポート機能もぜひ使ってほしい。
フリーランスになりたいけど踏みとどまっている人には、やってみたらいいじゃないですか、って言っちゃってます。フリーランスになるという目標を通過した今、そんなに大したことじゃなかったんだな、と気付けたので。
とはいえいきなり言われても難しいと思うので、副業からはじめるとか、知り合いの仕事を手伝うとか、できるところからはじめたらいいと思いますよ。
工藤:フリーランスとしての具体的なお話が聞けてとても参考になりました。本日はありがとうございました。
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