見出し画像

「開業当時の自分に伝えたいこと」を聞いてみた /3DCGグラフィックス制作 片野 隆成

開業1年目の方に向けた本インタビュー企画。

インタビューでは個人事業主やフリーランスとして活躍されている先輩方に、開業当時の思い出や苦労、そこからの学びなどを尋ねます。
普段あまり知られることのない開業、そして個人事業成功の秘訣とは何か?を探っていきます。

今回はSAMURAI VFXという屋号で3DCGの映像やゲーム制作に携わる片野 隆成さん。3DCGやVFXなど専門のスキルを身に着けるために戦略的に転職を重ね、2019年7月に独立。根底にあるのは幼少期に心揺さぶられた体験から生じた、創作への飽くなき探究心でした。頭の中にある空想の世界を映像としてかたちにしたい、その想いを実現するため独立に踏み切った経緯や、独立してから感じたこと、法人化に向けての今後の展望などについて伺いました。


最新技術を身につけるため戦略的に転職

画像1

工藤:はじめに現在のお仕事内容を教えていただけますか?

片野さん:映像やゲームの中で使われる3DCGの技術において、キャラクター制作に携わっています。具体的には、キャラクターの三次元モデルを作るモデリングや、キャラクターの骨・筋肉の作成を行うセットアップ、キャラクターに貼り付けるテクスチャーの制作が主なお仕事です。

ほかにもゲーム関連の会社に出向し、外注先から上がってくるデータのクオリティーチェックや修正指示を出す管理のお仕事を行っています。

土日はプライベートで、スマートフォンアプリのゲームを制作しています。プログラミング含めてすべて自作しています。

工藤:もしかしてお休みなしですか?

片野さん:365日働いています。

工藤:開業するまでのキャリアについて教えていただけますか?

片野さん:映像やアニメーション、ゲームの業界を渡り歩き、網羅的なスキルを身に着けました。

まずは学生インターンをしていた2Dアニメーションの映画制作会社に新卒入社し、アニメーションの背景などの制作をしていました。その会社で3Dを導入することになり、そのチームに在籍したことが現在の3Dの仕事をはじめたきっかけになっています。

5年経験を積み、2社目は3DのTVアニメシリーズを制作している会社に入社しました。3D専門の会社で、さらに技術を磨きたかったんです。

工藤:3Dとは具体的には何を指すのでしょうか?

片野さん:2Dは手書きのイラストであるのに対し、3Dは立体感のあるものですね。複数の頂点を打っていって、その間に面を貼っていきます。その面を組み合わせて360度回転する立体にさせる技術が3Dで、実写と合成してリアルな絵をつくりやすいんです。

工藤:なるほど。技術としてはどのようなスキルを身につけるのでしょうか。

片野さん:まずはポリゴンとよばれる面を貼り、モデルを制作するところから始まります。最近は技術の進化で、絵を描いたり彫刻をするイメージで作成できます。

その後、モデルを平面の地図のように展開し、表面に模様を貼っていきます。丸い地球儀を展開したメルカトル図法のイメージで、立体のままではなく一度平面に崩して描いていきます。最近は立体のまま表面にペイントすることもできますね。

工藤:なるほど。その技術を2社目で身につけたんですね。

片野さん:はい。5年ほど勤め、次は映像業界で有名なポリゴン・ピクチュアズに入社しました。そこでスターウォーズやトランスフォーマー、そしてくまのプーさんなどのアニメ制作に携わります。

工藤:くまのプーさんが異色ですね。

片野さん:スターウォーズとくまのプーさんは、カートゥンネットワークという同じアニメ専門チャンネルで放送されていたので、そのつながりですね。

ストリートファイターのオープニングの制作に関わり、ゲームとキャラクター制作に興味を持ちました。それまでは車や建物を作ることが多かったのですが、仮想世界のキャラクターを作るのが楽しかったですね。

ゲーム業界を志し、クリーチャーズという会社でポケモンのキャラクター制作に携わったのち、別のゲーム会社に5年勤めました。MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)という大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームを開発している会社で、ゲーム内で壮大な世界を作る経験を積みました。

制作のスケールが大きく、アイテムやキャラクター、乗り物までとにかく数が多い。その制作に携わったことで一通り経験が積めたと感じ、その後開業しました。

思い描いた世界を映像で表現するため独立

画像2

工藤:仮想空間の映像やキャラクター作りへの興味はどこから生まれているのでしょうか?

片野さん:父と観に行ったスターウォーズに衝撃を受けた影響ですね。技術セットやクリーチャー、俳優の衣装、宇宙船の内装と、美術すべてが素晴らしく、将来何かしら関わる仕事がしたいと決意しました。現実にないものを映画のために作り出す、そのスケールに圧倒されました。

工藤:そのときから映画製作に関わりたいと思ったのでしょうか?

片野さん:最初は美術と背景画に興味をもっていたので、絵の勉強をしていました。絵のスクールに通って、あとは自宅でひたすら書いていましたね。映画の資料を模写することもありました。

スターウォーズでは美術セットだけでなく、手書きの絵も背景に使っています。新卒で入った2Dアニメーションの会社への入社動機にもつながりますね。

工藤:昔から創作が得意だったのですか?

片野さん:絵を描くこともそうですし、粘土や折り紙などものづくりが得意でしたね。社会人になってからは、依頼されたデザイン通りにつくるだけではなく、自分のテイストも加えることでデザインセンスを問われることにやりがいを感じます

工藤:独立して最初の仕事を始めるまでどのように活動していたのでしょうか?

片野さん:面接や営業のためのポートフォリオを作成していました。同時にフリーランス向けのエージェントとやりとりしながら取引先を探していました。

工藤:独立はずっと考えていましたか?

片野さん:はい。自分で企画開発したものを作りたい思いが強かったんです。現在休日に開発しているスマホアプリもその一環ですね。

単に映像やゲームを作りたいのではなく、作りたい世界観があります。スターウォーズやその他様々な作品を見て、頭の中で作り上げた空想の世界があり、それを映像やゲームなど仮想空間で実際に作り上げていきたいんです。

工藤:具体的にはどういう世界なのでしょうか?

片野さん:言葉で説明するのは難しいのですが、その世界の中心にあるのは機械でできたお城です。ヨットのような帆がついている宇宙船が飛んでいて、帆の部分がソーラーパネルになっていて発電しています。銃ではなく、剣で戦う世界です。銃は動きが小さいので迫力が足りないですね。

スターウォーズや銀河鉄道999、アクションはジャッキーチェーンの映画など、様々な映像から抽出した要素が自分の頭の中で集約されて、ひとつの世界をつくっているんです。

工藤:なるほど。その中でもこだわりはあるのですか?

片野さん:曲線を使って有機的なデザインにすることですね。例えばガンダムのようなロボットではなく、筋肉の隆起のあるサイボーグが登場するとか、乗り物も流線型にこだわります。

工藤:車でいうと、ランボルギーニよりはフェラーリのイメージ?

片野さん:そうですね。宇宙船も帆がついていて、やはり曲線メインです。曲線の表面の質感が好きなんです。曲線の表面に周りの背景が映り込むとき、景色が通常とは違って流れていく感じがなんともいえないですね。

自分の足で立ち、自らほしい仕事を取りに行く

画像3

工藤:実際に独立してよかったことはなんですか?

片野さん:自分の足で立っている実感が湧きました。経理、経営、ブランディングなど、トータルで仕事ができていますね。収入も増えました。

工藤:フリーランスだと収入が減るイメージがあります。

片野さん:キャリアを積み上げてきたので、様々な仕事に対応できることが大きいですね。出向先で複数のプロジェクトが走っていますが、横断して携わることで価値を発揮できます。

工藤:これまでのスキルでオールラウンダー的に対応できるんですね。そこまでキャリアがあると、企業の管理職など他の選択肢もあると思います。

片野さん:ひとつの会社の中で上にいくよりも、自分がほしいものをつくりたいという思いが強かったんです。独立することで、やりたい仕事に直接自分から営業をかけてアプローチすることができます。ポジションが開くのを待つのではなく、自ら取りに行くことができるようになる。

工藤:独立して悩んだことはありましたか?

片野さん:働くスタイルがあっているのか1年経つまで自信が持てなかったです。フリーランスになって在宅で仕事を受けるイメージを持っていましたが、出向先に常駐することになったので、果たしてこれが個人事業主として正しいのだろうか、と悩みました。

今は、活発なコミュニケーションを通じて技術の交換もできるチームでの働き方があっていると感じています。作品のクオリティを高めるうえで、ひとりで完結させるのと、お互いに議論してデータをチェックしあう環境とでは、できあがるものが違ってきます。

工藤:自分の居心地のよさというよりは、よいよいものをつくるうえで、なんですね。その他に不安や悩みはありましたか?

片野さん:機材を揃える資金ですね。投資は積極的に行ったほうが仕事がスムーズに進むと思い、貯金を切り崩して先行投資しました。当初は不安もありましたが、今は資金繰りも順調です。

開業時にしっかり準備して本業に集中

画像4

工藤:開業のための手続きに不安はなかったですか?

片野さん:手続きについて知識がなかったので、まずはネット検索し、開業freeeについて知りました。確定申告も青色申告がよいことがわかりましたし、将来の法人化も考え屋号がほしかったので、開業届けを出しました。

工藤:開業freeeを選んだ理由はなんですか?

片野さん:デザインですね。配色含め、シンプルですっきりしていてわかりやすい。事務系のソフトにありがちな固い印象もなく、かといって派手すぎたり崩しすぎたりもしていません。

5〜7分ですぐ開業届けが作成できました。項目を選んでいくつか入力するだけで、簡単でした。専門的な知識が必要ないところに魅力を感じましたね。本業に集中したいので、調べる時間や無駄なインプットは避けたいです。

画像5

工藤:開業時にそのほか準備したことはありますか?

片野さん:事業用のクレジットカードを作りました。仕事とプライベートのお金をわけて、管理を楽にするためです。開業freeeの印象があまりにもよかったので、この会社のサービスは大丈夫だろうと、freeeカードを作りました。他社との比較もしなかったですね。手続きも簡単でわかりやすく、審査もすぐに終わりました。会計ソフトも開業時に使い始めました。

工藤:会計ソフト導入の目的はなんでしょうか。

片野さん:日々帳簿をつけながら、確定申告書類がつくれることが一番の理由ですね。帳簿から確定申告までが一気にできる。

開業freee利用をきっかけに会計freeeを知り、会計ソフトの具体的な機能について学びました。エクセルで手入力したときとの差のイメージもそのときにつきました。「餅は餅屋」、会計に特化したソフトを使うことでメインの仕事をにあてる時間を最大化する考え方で、会計ソフト導入の選択肢は当たり前でしたね。

工藤:その中でも会計freeeを選んだのはなぜでしょうか?
片野さん:開業freeeの使用感がよかったからですね。他社とも比較しましたが、他の会計ソフトはデザインやレイアウトが好みじゃなかったことと、Macで使えないことがネックでした。

工藤:開業直後に会計ソフトを導入した理由はなんでしょうか?確定申告直前に使い出す人もいます。

片野さん:まとめて入力するのを避けたかったからですね。毎日の入出金のたびに入力したほうが、まとめて入力するよりも負担がかかりません。

工藤:普段の経理業務はどのように行っていますか?

片野さん:毎日ランチの時はカフェで仕事をするのですが、支払いがあるたびにその場で入力しています。そのほか損益レポートを週に一回ほどチェックしています。無駄な経費がないかなど、改善点の洗い出しに活用しています。

毎日コツコツが自信につながる

画像6

工藤:初めての確定申告はいかがでしたか?

片野さん:経理の知識・経験がなかったので、初めての確定申告を終えるまでは、勘定科目があっているのかなど不安もありました。実際に申告してみると問題なく提出できました。

帳簿は毎日つけていたので、確定申告期の実際の作業としては、保険や年金について入力したくらいです。不明点を調べながらでも、2時間くらいで終わりました。

工藤:確定申告についてどのように知識をつけていったのですか?

片野さん:会計freee入力の際に、勘定科目をネットで調べながら学んでいきました。本業に集中するために会計ソフトを使っているので、最低限の知識で帳簿がつけられるのは助かりますね。

工藤:確定申告に不安もっている人にメッセージをお願いします。

片野さん:とにかく毎日入力すること。そうすれば不安に思う必要もなく、手間のない確定申告につながります。その日できることはその日のうちにやってしまうことが大事です。タスクを毎日消化して得られた達成感は、自信につながります

工藤:その自信は本業にも活きてきそうですね。

片野さん:そうですね。営業でも仕事を続けるモチベーションにおいても自信は大事です。どんな小さなことでも、タスクをこなした事実があると、大きな自信になっていきます。毎日やることは多いですが、ルーティンにしてしまえば簡単です。

妄想しすぎず、まずは飛び込んでみること

画像7

工藤:開業当時の自分に伝えたいことはありますか?

片野さん:「なせばなる」ですね。飛び込んでみないとわからないことがたくさんあります。自信をもって、積極的に行動すれば必ず成果に結びつきます

工藤:自信が持てない人も多いと思います。

片野さん:とにかく手を動かすことと、行動することです。調べ物はその日のうちに調べる。経理もその日のうちにできることはその日にやる。来年やろう、来月やろう、ではなく、いますぐやることです。そうすると自然と自信がついてきます。

工藤:そう思えるようになったのはなぜなのでしょうか。

片野さん:経験からですね。やってみるとものすごく簡単です。やる前にイメージしているものと、やってみた印象が全然違うことも。とりあえずやってみて、あとで評価したらいいんです。妄想はいりません。

工藤:今後実現したいことなど展望があれば教えてください。

片野さん:VFXを事業に加えることと、法人化を視野にいれています。

VFXは、ハリウッド映画のようなCGと実写の合成技術です。現在週末に行っているスマホアプリ開発を一旦中断し、VFX制作にあてる予定です。これまでは3DCGがメインの事業でしたが、映像撮影からCGとの合成までを一環して行うことで、表現の幅を広げたいです。

1年ほどVFXの基礎を個人で確立し、安定したら従業員を雇って、3人くらいのチームつくり、軌道にのったら法人化させたいです。2年後くらいが目標ですね。

最終的には、思い描いているSFの映像を自主制作して、Youtubeで公開し、多くの人に観てもらいたいですね。

工藤:夢が広がりますね。本日はありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?