理解しようとする彼氏くん
「ねえ、私と一緒に逃げようか。逃避行のはてに死にたい」
君が何から逃げたがっているのか、僕にはわからないけど、社会に外側なんかない。ひとつの小さな社会、家庭とか学校とか会社とかを逃げ出しても別の社会に取り込まれてしまうだけだ。
あいりん総合センターの周りで寝てるおじさんたちの中でも、軒下のいい場所に寝床を作れる人と、ゴミの中に丸まってる人がいる。おじさんたちにも格差やらしがらみやらがあるんだよ。
自由とは、空にかかる虹のようなものと思わないか?追いかけても追いかけてもたどり着くことは出来ない。
例えば僕と君が手に手をとって逃避行をしたとしよう。はじめは楽しいだろう。でもそのうちに逃避行が生活になる日常になる。しがらみやら不平不満が湧いてくる。だからね、だからその前に、逃避行が逃避行である間に死んでしまうというのはとてもいい考えだと思うよ。
死は完全な逃避で、あらゆる義務からの完全な自由であると同時に、あらゆる選択肢の放棄だ。死という言葉のロマンチックさに反して現実の死はあまりにもありふれていてたいして美しくない。死、それ自体にはそれほどの希少性はない。なにしろ生まれたらやつはみんな死ぬんだから。
あと何年か待ってくれたら、僕の仕事に一区切りがつく。そのときがくれば、君と心中することはやぶさかではない。でもただ死ぬのではあまりにも面白みにかけると思わないか?君は世界にひとりしかいない特別な人間だ。君の死は特別なものであるべきだ。あと4年かけて、ぼくらの最高の死に方を見つけよう。
どのように死ぬかという問題は、どのように生きるかという問題でもあると思う。本気で死ぬためには、本気で生きないといけない。だからあと何年か、一生懸命生きてみないか?それでもし、もっと長く生きたいなって君が思ったら、もっと長く生きればいい。死は待っててくれる。いつか絶対迎えに来てくれる。
僕が一生懸命考えてそういうと君は「あなたは何もわかってない」といってそっぽを向いた。
※追記
自分が人生相談を受けたとき答えたことをもとに書いたのですが、今読み返して、これ正解は「どしたん、話きこか?、あーそれは〇〇が悪いわ」だったんだな!と思いました。