西成サバンナでメリークリスマス

上司ともめてバイトをクビになった。（今年2度目）さすがに自分の社会性がヤバいのは明らかなので凹んでしまう。それで西成の三角公園に坂田佳子ライブを見に行こうと思った。

「西成の三角公園で土日にライブをしている」「自警団と対立している」と聞いて気になって検索し、動画を見てその力強さに惚れ込んだのだ。多分彼女に会えばバイトクビになったとかきっとどうでも良くなるはず！

そんなわけで1人、三角公園にやってきた。公園の周りには沢山人がいるのに、公園の中にはあんまり人がいない。それでなんとなく入りづらくて公園の周りをウロウロしていたら、オッサンが声をかけてきた。

「ねえちゃん組と繋がってるんか？組と繋がってないんやったら相手してほしいんやけど」

あっそうかこの公衆トイレでなんらかのサービス業を営む人がいるのだな！やっべぇこっわ。笑顔で

「ごめんなさーい」

といいながら距離をとる。なんとなく、今日のこの公園には結界の感じがある。前きたときは感じなかったんだけど。オカルトの話ではない。公園の周りにいるオッチャンたちの目が、動きが、自分より強い生き物を恐れるときの弱い生き物のそれなのだ。

‥つまり、公園の中にはライオン的な強い生き物がいて、その近くにいたらハイエナ に危害を加えられる心配はない、みたいな。ただしライオンのお腹が空いていなければだけどね！

そして私は公園に足をふみいれた。５つぐらいの人のかたまりがある。1番安全でできたらオモロい人を見極めなければ‥

アッなんか公園にテーブル置いてカニ食べてるカウボーイハットでサングラスのひといるー！！溢れる強キャ感！むしろシュール系ギャグ漫画のおもむき！！曲リクエスト無料って書いてる！これはぜったい友好的っしょ！

私「すいません！坂田佳子さんって方知ってますか？」

「坂田佳子な、一時半からくるわ」

私「えー！あと2時間もある！ここで待っていいですか？あっ曲リクエスト無料？オッチャン歌ってくれるの？えっききたーい♡この中から選んでいい？えっと、何歌ってもらおかなぁ〜」（オモロそうな人には全力で絡みにいくスタイル）

「ええで。ここ座り。ここは佳子ちゃんの席やけど。名前？美川千春や。ここに書いてあるやろ。写真？撮って撮って。まてまて、これとらな意味あらへんで。」

美川千春さん（持ち歌一覧に美川憲一と松山千春があったからリスペクトしてる？）は膝にかけていたブランケットを取った。右足が太腿あたりからない。

私「わーお！これどうしたんですか？」

千春「これは刑務官が悪いんや。膝痛い言うたときに医者に連れてってくれたらインシュリン一本で済んだのに仮病と決めつけてからに足腐ってしもて、今係争中なんや」（罪状は万引き）

私「ほんまぁ。千春さん大変やったのに頑張ってんねんな！」

そして千春さんはCDをかけて「大空と大地の中で」をうたってくれた

‥

こごえた両手に息をふきかけて
しばれた体をあたためて
生きることが辛いとか苦しいだとか言う前に
野に育つ花ならば力の限り生きてやれ

‥

私「キャ〜！ちはるぅ〜！かっこいい〜！いぇーい！じゃあ次私！イルカちゃん！なごり雪うたう〜！」（まだ一滴も飲んでいない）

千春「しかし君よう俺に声かけたな。俺この公園で1番安全やぞ。西成はええとこやけど危ないやつもいっぱいおるからな」

私「はい、なんかね、さっきあそこで立ちんぼと間違われてちょっと怖かったんです。それで美川さんみて、この人のそばにいたら安全そうだなって気がしたの」

千春「それで俺に声かけたんかいな。動物的本能っちゅうやうやな」

私「そゆことー！」

千春「俺も男やで」

私「わーお！気つけな！」

そうそう、話がガチャガチャするので全く触れてなかったのだが我々のとなりにはサンタ服の上に耳付きパーカーをきて緑のランドセルを背負ったオッチャンがずっと立っているのである。

Ｋちゃんというらしい。本人がいうには60代。痩身に禿げ上がった頭。真っ赤なズボンにクマ耳のパーカーをあわせて、背中には緑のランドセル。スーパーのカートに衣食住に係る全てを入れている。

なんかもうね、キャラ濃すぎ！で、ニコニコ喋りつつ、レトルトパックのおかゆとフライパンに入った焼き魚をバターナイフを使ってちびちび口に運んでいるのだけど、通行人に対して五分おきぐらいに、「なんやゴラァ！いてもうたろかワレェ」と包丁を振り回してすごむのである。

そのたびに千春さんが「Ｋちゃん、警察きたらシャレならへんからやめときや」といさめる。Kちゃんはニコっと笑う。そんで

「Merry Christmas！」

とやたらいい発音で言ってポーズをとったりする。いや、どんな世界観だよ！しかし不思議と、私は包丁を振り回すKちゃんが怖くないのだった。ヤバげなのは演技で、ほんとはお茶目さんなんだなってわかるのだ。

私の空気読めなさには定評があるので、これは「空気よむ」よりもっと原始的な感覚だと思う。人間と人間以前の、動物と動物の感応かもしれない。

資本主義というしょーもないゲームの中で、私は歯車にもなれない出来損ないの個体である。がしかし水道水飲めるし、鳥も魚もカエルもさばけるし、ザリガニもセミもバッタも食べられるし、1人で西成も歩けるつおい生き物なのだ！（そしておそらくこの公園にいるオッチャン達も）

50代ぐらいのおっちゃんが氷結レモンくれたのでちびちび飲んでいい気分になっていると、いつのまにかサンタ服に着替えたＫちゃんがごそごそして「煙草ないなったぁ」と言う。「はいどーぞ」って一本差し出すと、「ねーちゃん、ありがとう！」ってニカッと笑ってくれた。そしてHappy Xmas を歌い出したので私も歌えるとこだけ適当かつ大声で歌った。

‥

A very Merry Xmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear

‥

If you want it
War is over! Now!

歌い終わってテンションあがった私が「Ｋちゃーん！べりめりくりすまーす！」ってハグしたらKちゃんはちっちゃい声で「オッチャン、ハズカシガリヤネン」って言った。なんだこの可憐な生き物は！なんだこの素晴らしい世界は！

（Ｋちゃんのカートの中身。紙コップのなかに入れ歯入ってる。包丁持ちすぎワロタ）

（この日は女子大生ナンパして一緒にホルモン食べに行ったり、佳子ちゃんの歌聞いてCD買ってハグしてもらったり、別の女性2人組と意気投合して4人で飛田新地見に行ったり、そこで宇宙人の意思で本書いてるオッチャンから本を買ったり、そのオッチャンの家が元遊郭の建物だったのでトイレを借りるのを口実に上がり込んで写真とりまくったりした。そのうち書けたら書くけど酔ってぱらってたから細かいとこ覚えてない）