Duolingo におけるトルコ語の存在文・所有文とそれに対応する英訳について
何やら学術論文のようなタイトルですが、内容はトルコ語学習者向けの(そこそこ詳しい)文法メモです。
ここでは「Duolingoのトルコ語」における正誤判定について扱っています。
現実世界のトルコ語とは齟齬があるかもしれません。
これを書いている私はトルコ語の専門家でも何でもない素人です。
間違いを見つけたら教えてください。
ちなみに冒頭画像のポーランドボールは Türkçe biliyorum!(ワイはトルコ語が話せるんや) とトルコ語で主張しています。
この記事でやりたいこと
Duolingoでは英語でトルコ語を学ぶコースが提供されていますが、英語の文構造とトルコ語の文構造が大きく異なっているため、一方の言語から他方の言語へと翻訳する課題の難易度が必要以上に高くなっているケースがあります。
日本語とトルコ語の組み合わせの方が文構造が近くて学びやすいと思われるのですが、残念ながらそういうコースは開設されていません。
英訳にわずかな違いしか現れない文でも、トルコ語では別々の構文を使わなければDuolingoで不正解とされるパターンがあり、その極端な例が存在文と所有文です。Duolingoにはまともな文法解説がなく、「バツを喰らってハートを減らしながら試行錯誤しつつ学ぶ」という死にゲーの仕様になっているため、なぜこの回答がダメなのかと悩む(あるいは怒りに震える)ケースがしばしば発生します。
ひとまずここでは存在文と所有文に話題を絞り、英文とトルコ文の対応関係の仕組みをまとめておこうというのがこの記事の趣旨です。
似た英文が異なるトルコ文になるパターン
まずはこちらをご覧ください。日本語直訳だと「私はネコを持っている」になる英文と、それに対応するトルコ語文です。
I have a cat. = Benim bir kedim var.
I have the cat. = Kedi bende.
英語の違いは冠詞のみですが、トルコ語訳の構文は大きく違います。これを見ていこうというわけです。
不定冠詞の方のトルコ語文の要素を個別に解析するとこうなります。
benim = 代名詞「私」の属格形。「ネコ」の所有者を表す。
(ネコにも被所有語尾が付いているので、この benim は省略可)
bir = 英語の不定冠詞 「a」 に対応する数詞 「1」
kedim = 「ネコ」 kedi に所有者「私」を示す被所有接辞 -m が付いたもの
var = 「ある・いる」を表す述辞
このトルコ語文 (benim) bir kedim var を日本語に直訳すると 「1匹の 私のネコが いる」 となります。英語への直訳だと 「a cat of mine exists」 くらいでしょうか。
しかしこのトルコ語を Duolingo 上で英訳するときは、「I have a cat」 と答えなければいけません。意味不明ではないかという怒りを握りしめながら以下を読んでください。
正解とされる英訳を脳から出力するための理解の順序はこんな感じです。
(1) 文末の var を見て、これは所有文か存在文であると認識する
(2) kedi- で「ネコ」を判別し、-m を見て所有者が「私」であると認識する
(3) 文頭に benim がある場合は、ネコの所有者が「私」であると再認識する
(4) bir を見て、被所有者であるネコが1匹であると認識する
(5) 英文の主語は所有者たる「私」 I
(6) これは所有文なので用いるべき動詞は have
(7) 被所有者は「ネコ1匹」なので a cat
(8) これを順に並べて I have a cat. が出力するべき文となる
前から読んだ文を後ろから振り返ることになってクソ面倒ですが、英語とトルコ語の文構造が違うので、慣れるまではこういう処理を意識的に脳内で踏む必要があります。
Duolingo では、このタイプの文の所有者・被所有者を色々変えたパターンが飽きるほど出題されるので、うんざりしながら体に覚えさせましょう。
なお、辞書によって述辞 var は、形容詞だとか動詞だとかそれ以外だとかに分類されているっぽいですが、本題に関係ないので品詞分類は無視しました。「述辞」というのは品詞分類を言わずに話を進めるための雑なネーミングです。
さて、定冠詞が使われている方はこういう例文でした。
I have the cat. = Kedi bende.
このトルコ語文を要素に分解するとこうなります。
kedi = 「ネコ」 kedi の無語尾形。文の主語。被所有接辞は付いていない。
bende = 代名詞「私」の処格形。文の述語。主語「ネコ」の存在する場所を表す。
このトルコ語文 kedi bende の日本語直訳は 「ネコが わたしのもとに」 で、英語直訳は 「(the) cat (is) by me」 です。
しかしこれを Duolingo 上で英訳するときには、「I have the cat」 と答えなければいけません。意味不明ではないかという怒りを再び握りしめながら以下を読んでください。
正解とされる英訳に至る順序はこんな感じです。
(1) トルコ語文の「ネコ」 kedi は文頭に来ている主語なので、「おそらく定名詞」(不定名詞ではない)と推定される
(2) 文の述語は所在位置を示す bende だが、これは一人称代名詞「私」なので、場所というよりはネコの所有者と解釈すべき
(3) したがって英文の主語は所有者たる「私」 I
(4) 所有者を主語に置いたので用いるべき動詞は have
(5) 被所有者は「定名詞」かつ「ネコ」なので the cat
(6) これを順に並べて I have the cat. が出力するべき文
やはり面倒でしたが、英語とトルコ語の文構造が違うので、こういう処理を(やはり慣れるまでは意識的に)脳内で踏む必要があります。
Duolingo では、このタイプの文も、所有者・被所有者を色々変えたパターンで出題されるので、再びうんざりしながら体に覚えさせましょう。
なお、この英文の I have the cat をトルコ語訳する問題では var を使ってはいけません。
var が利用可能なのは主語が不定名詞の場合だけです。英語で定名詞に対して存在文を使って 「There is the cat」 と言ってはいけないのとおそらく似た仕組みです。
ここでは定冠詞の付いた the cat は既知の存在であり、それを主語にした「(その)ネコが私のもとにいる」 kedi bende というのが正解となるトルコ語文です。
似たトルコ文が異なる英文になるパターン
次にこちらをご覧ください。「ネコは○○にいる」という日本語直訳になるトルコ語文と、それに対応する英文です。
Kedi bende. = I have the cat.
Kedi burada. = The cat is here.
トルコ語は両方ともネコ kedi が主語で、述語は両方とも -de/-da の付いた処格名詞です。しかし英訳の構文は大きく違います。
上の文 kedi bende は既に前節で扱いました。下の文 kedi burada を見ましょう。
kedi = 「ネコ」 kedi の無語尾形。文の主語。
burada = 名詞「ここ」 bura の処格形。文の述語。主語「ネコ」の存在場所を表す。
このトルコ語文 kedi bende の英語直訳は 「(the) cat (is) here」 です。
「私」のもとにネコがいる場合と違って、「ここ」という名詞は所有者だとは解釈されません。したがって「Here has the cat」 のような文にはならず、ネコを主語としたままで「The cat is here」 とするのが出力すべき英文です。
動詞 have を使う必要がないため、英語とトルコ語の間に素直な対応関係が成り立っています。
この burada 「ここで」が、evde 「家で」 hastanede 「病院で」などに置き換わった文も Duolingo では出題されます。そのときは The cat is at home (in the house) や The cat is at (the) hospital といった英文を答えることになります。
あと残念ながら、無生物が英文の主語になるパターンも Duolingo に登場します。
Evin iki penceresi var. = The house has two windows. (家には窓が2つある)
という具合です。主語が人間でなくとも have を使うパターンがあるわけです。
他の組み合わせ
上述の「(その)ネコがここにいる」 kedi burada では、「ネコ」が定名詞でした。不定名詞の場合はこうなります。
Burada bir kedi var. = Here is a cat. (= There is a cat here.)
このトルコ語文の日本語直訳は「ここに 1匹の ネコが いる」です。
この記事の最初に出てきた例文 Benim bir kedim var = I have a cat とは違って、ネコ kedi に被所有接辞が付いていません。burada はあくまでも所在地であって、ネコの所有者はいないからです。
なお、これはネコが存在することを主張する文であり、文末に var が必要です。
前々節で bende (私のもとに)と burada (ここに)の入れ替わった文を見ました。そのパターンを使えば、「私のもとに 1匹の ネコが いる」という構成の文も作れそうです。
Bende bir kedi var. (= A cat is by me.)
これは文法的に可能なのですが、Duolingo には(おそらく)出てきません。
所有文として出題されるのは「人称代名詞属格+不定名詞+被所有語尾」の 「Benim bir kedim var」 という形だけです。
東京外大の学習サイトによると、「Bende bir kedi var」 のような「人称代名詞処格+不定名詞」という文型は「一時的に持っている」というニュアンスになるとのことなので、所有文の第一候補とは言いがたい面があって Duolingo では避けられているということなのかもしれません。
まとめ
Duolingo において、文末に var があるトルコ語文の英訳は2パターンです。
(1) 所有者が明示的に存在する場合 → 「XX have YY」
(2) 所有者が存在しない場合や明示されない場合 → 「there is/are YY」
var のないパターンも含めるとこんな感じです
(Benim) bir kedim var = I have a cat
Bende bir kedi var = I have a cat (文法的には可能だが出題されない)
Burada bir kedi var = There is a cat here
Kedi bende = I have the cat
Kedi burada = The cat is here
手で何回か書いて個々の文の違いを嚙み締めるのがおススメです。
それでも混乱するようなら、似た文と似てない文を恨めしい目で睨みつけながら、
Başım ağrıyor! = My head hurts! = I have a headache!
とでも叫べばいいんじゃないでしょうか。
叫び終われば Duolingo に戻ってレッスンの続きをやりましょう。
楽しい登場人物が待っています。
追記:もう1つの所有形
Duolingo の後の方のユニットでは、さらに別のタイプの所有文が出てきます。
「所有者・オーナー」を表す sahip を使った文です。
「与格 + sahip (+ olmak)」で「○○への所有者である」=「○○を持っている」という意味になります。
左の画像のトルコ語を直訳風に解析すると
sahip = 所有者が
olduğum = 私であるところの
iki = 2つの
ev =家が
var = ある
ということで、それに対応する意訳として I own two houses という英語が出現します。